次の首相の最有力が「令和おじさん」である根拠
プレジデントオンライン / 2019年9月15日 6時15分
■「自民党も派閥支配が崩れてきた」との解釈は間違い
安倍晋三首相は9月11日に内閣改造を行った。注目すべきトピックスのひとつは、菅義偉官房長官に近い「隠れ菅派」が大増殖したことだった。「令和おじさん」として知名度が急上昇中の菅氏は、政府・自民党内でもその影響力を増しつつある。
新聞各紙は自民党派閥別の入閣者数を競うように載せている。細田派派3(改造前3)、麻生派3(同5)、竹下派2(同2)、岸田派2(同3)、二階派2(同2)、石破派0(同1)、石原派0(同0)、無派閥6(同2)。こうした結果から、マスコミは岸田派や石破派の冷遇をことさらに強調して報じている。
それは確かにそうだが、もっと重要なことがある。無派閥議員が6人も入閣しているのだ。
各派閥が、横ばいもしくは減少する中で、無派閥閣僚は2人から6人と、4人も増えた。新聞ではこの理由についての丁寧な解説はみかけないので、「自民党も派閥支配が崩れてきた」と解釈する人がいるかもしれない。しかし、その解釈は間違いだ。
6人の無派閥議員とは、菅義偉官房長官。高市早苗総務相。河井克行法相、菅原一秀経産相、江藤拓農水相、そして小泉進次郎環境相だ。
菅氏は派閥に属していないが、菅氏を囲む勉強会やグループは複数あり、「隠れ菅派」の議員はトータルで50人以上と言われる。菅原、河井の両氏は、その代表格だ。
■環境相になった小泉進次郎氏も「菅派」
環境相になった小泉進次郎氏も菅派だと言っていいだろう。同じ神奈川県を選挙区に持つ2人は、常に連絡を取り合っている。8月、アナウンサーの滝川クリステルさんとの結婚を電撃発表したのも、首相官邸の菅氏に報告した後だった。
今回も、菅氏は安倍氏から「入閣を打診したら小泉は受けるか感触を探ってほしい」との指示を受けて小泉氏に接触。受けるとの確信を得て安倍氏に伝えている。まさにサプライズ人事の中心人物だった。
高市氏も、菅氏のお気に入りの1人。総務省は菅氏が絶対的な影響力を持つ役所だ。高市氏が2度目の総務相に就任したことからも、菅氏との関係が良好であることが分かる。
■麻生氏が「二階降ろし」だから、逆に張った菅氏
江藤氏だけは菅氏との明確な関係性は見出しにくいが、菅氏も含めて5人は「菅派」。細田派や麻生派の3人を上回り、閣内では最大勢力なのだ。
菅氏は今後も明確な派閥をつくる気はない。だが、「菅氏についていけば、ポストに恵まれる」と分かれば、今後も「隠れ菅派」は増え続けるだろう。
今回の人事では、菅氏の力量を見せつけるシーンがもうひとつあった。
安倍氏は今回の人事にあたり、二階俊博幹事長を留任させるかどうか悩んでいた。安倍氏の盟友でもある麻生太郎副総理兼財務相は、岸田文雄党政調会長を幹事長に起用するように進言していた。
一方、菅氏は二階氏の留任で動いた。最近、菅氏と麻生氏の間にはすきま風が吹き始めている。麻生氏が「二階降ろし」だから、逆に張ったのだ。
■幹事長ポストを巡る麻生氏との戦いにも勝った
二階氏は最近、「ポスト安倍」候補に菅氏の名を上げるなど菅氏との接近を図っている。政局のヒダを読む天才でもある老練な二階氏は、菅・麻生両氏の微妙な関係を見抜き、菅氏に接近した。菅氏と二階氏が接近するのは必然だった。
結果として安倍氏は二階氏の続投を選んだ。9月3日、安倍氏は二階氏と自民党本部で会談して幹事長続投を伝えた。これは、二階氏にとっては朗報だったのは間違いないが、菅氏にとっても、麻生氏との「戦い」に競り勝った瞬間だった。
菅氏は、今回の人事の「入り口」である党幹事長人事と、「出口」である閣僚人事で、圧勝したのだ。
■「ポスト安倍」のライバルとは大きな差をつけた
安倍氏の女房役として7年近く官房長官を務めてきた菅氏。今年4月1日、新元号「令和」を発表した頃からは知名度が爆発的に上がり、7月の参院選での応援要請も引っ張りだこだった。その頃から「ポスト安倍」の有力候補という評価が盛んに報じられるようになったが、菅氏はその意欲を完全否定しつづけている。
しかし今回の人事で、政府内に子飼いの政治家を多く招き入れることに成功した。菅氏は、本人が望むかどうかにかかわらず「ポスト安倍」の有力候補となったのは間違いない。
マスコミは安倍氏が今回の人事で、菅氏と岸田氏、外相になった茂木敏充氏、厚労相の加藤勝信氏、防衛相に横滑りした河野太郎氏の5人が、閣内や党執行部に入り「ポスト安倍」を競うことになったともてはやす。今回の人事の経緯を見る限り、そのうち圧倒的に優位にあるのは菅氏だろう。
あとは菅氏が「その気」になるか。今のところ安倍氏と菅氏の間は良好ではあるが、2021年の総裁任期が近づいてきたときに、2人の関係がどうなるか。安倍氏から権力の座を禅譲されるのを狙うのか。それとも自ら奪い取るのか。菅氏は両方の選択肢を握りつつある。
そして菅氏を「ポスト安倍」の有力候補にあげながら、安倍氏の4選支援にも言及している二階氏が、今後どんな行動に出るのかも目が離せない。
(プレジデントオンライン編集部)
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