テレビで話題「酢納豆」を勧める医師はデタラメ

プレジデントオンライン / 2019年9月26日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

「牛乳は超危険」「糖質ゼロは体にいい」といった健康情報はどこまで信用できるのか。内科医の名取宏氏は「医師の中には、デタラメを言う人もいる。『○○という食品が体によい/悪い』という情報は9割方は眉につばを付けて聞いたほうがいい」と指摘する――。

※本稿は、名取宏『医師が教える「最善の健康法」』(内外出版社)の一部を再編集したものです。

■「酢納豆」の効果に臨床的な証拠はなかった

外来で診察しているとき、高血圧の患者さんから「酢納豆が血圧を下げるって本当ですか?」と尋ねられました。酢昆布なら知っていますが、酢納豆は初耳でした。

「酢納豆って何ですか?」
患者さん「納豆に酢をかけたものです。テレビ番組で紹介されていました。体にいいというので毎日食べています」
「味はどうですか? 美味しいのでしょうか?」
患者さん「正直言って、あまり好きではありません」

患者さんには「醤油の代わりに酢を使うことで塩分の摂取量が減り、わずかながら血圧が下がるかもしれません。けれども、それ以上の特別な効果があるとは考えにくいです。美味しくないのに、我慢してまで食べることはないでしょう」とご説明したところ、納得していただけました。

後日、インターネットで調べてみたところ、酢納豆はテレビだけではなく、ムック本や健康雑誌などでもすすめられていました。酢納豆には、高血圧に対する降圧だけでなく、視力回復や体重減少、アンチエイジング、血糖降下など、様々な効果があるとされています。しかし、体験談はありましたが、臨床的な証拠――つまり≪酢納豆を摂取する群≫と≪酢納豆を摂取しない群≫を比較して血圧が下がったというような研究結果は見あたりませんでした。

味も試してみました。酢をかけた納豆の味です。「美味しい」と思う人が食べるのは、食べ方のバリエーションが増えて好ましいとさえいえます。でも、私の口には合いませんでした。

■特定の食品で病気が治ると主張する「フードファディズム」

こういう特定の食品が様々な病気に効くという情報は、次から次に出てきます。たぶん、本書が出版される頃には酢納豆は飽きられ、別の何かが流行していることでしょう。

酢納豆で高血圧や糖尿病などの様々な病気が治るという主張は、典型的な「フードファディズム」です。フードファディズムとは、「食品や栄養が健康や病気に与える影響を過大に評価したり信奉すること」(※1)。ちなみに「fad(ファッド)」というのは、英語で「一時的な熱狂」という意味です。なんと的を射たネーミングでしょうか。

(※1)高橋久仁子著『「食べもの神話」の落とし穴:巷にはびこるフードファディズム』講談社

特定の食品が健康や病気に与える影響を評価するのは、かなり難しいことです。特に長期的な影響を調べるには、当然ですが、長い時間がかかります。酢納豆のように急に流行した食品(食べ方)については、何もわかっていないと断言できます。

ついでに言えば、食品(安全が確認されている食べ物)が健康や病気に与える影響は、もしあったとしても、多くの人を長い年月をかけて観察した研究でやっと差が出るか出ないかの小さなものでしかないのが通常です。

■食品が健康に与える影響を知るのに体験談は不向き

にもかかわらず、インターネットや健康雑誌では驚くような効能効果がうたわれています。普通の食品ならセーフのようですが、これが健康食品の広告だったら法律的に完全にアウト。

効能効果の根拠は、たいてい体験談か自称専門家の推薦です。つまり、芸能人の誰だれが好んで食べて効果を実感しているとか、ナントカクリニックの院長が大絶賛しているとか。憧れの有名人が食べて体の調子がよくなったら、自分も食べてみたいと思うのは自然な感情でしょう。しかし、食品が健康に与える影響を評価するには、体験談は不向きです。

タバコを吸うと肺がんになりやすいことは、ほとんどの方に納得してもらえるでしょう。しかし、「タバコを吸っていても肺がんにならなかった」という体験談も、「タバコを吸わなくても肺がんになった」という体験談も、探せばいくらでもあります。「これを食べたら体の調子がよくなった」という体験談も探せば出てくるわけです。

けれども、体調がよくなった理由が食品にあるとは限りません。たまたま、その食品をとったときに体の調子がよくなっただけかもしれません。体調がよくなるはずだという期待や思い込みによって、体調がよくなったかのように感じただけかもしれません。

■医師免許があってもいい加減な主張をする人はいる

大学教授やクリニックの院長が推薦していると信用する人もいるでしょう。ただ、そうした「専門家」がきちんとした臨床的証拠を元に話しているとは限りません。同じ医師として恥じ入りたくなりますが、医師免許を持っていても、いい加減なことを主張する人はいます。医師のほとんどはきちんとしていると信じていますが、数多くいる医師(日本だけで30万人以上)の中にはデタラメを言う人もいるのです。

どこかのメディアが「酢納豆で病気が治る!」という記事の企画を立てたとします。まともな医師に話を聞きにいっても「酢納豆で病気が治るというエビデンスはない」か、よくて「一部の病気に効く可能性がないとは言えない」くらいのコメントしかしてくれないでしょう。これでは記事になりません。しかし、中には「酢納豆はアンチエイジングにいい」、「酢納豆は高血圧にも効く」などと景気よく断言してくれる医師もいます。

本当に食品が効くと考えているなら、一般読者向けの記事にコメントするだけでなく、他の専門家に向けて学会で発表したり、医学論文を書いたりできるはずです。しかし、私の知る限りでは酢納豆の効果についての論文はありません。

そうした医師は医学論文を書かなくても、一般向けメディアに載ることで名前が売れ、クリニックが繁盛するという利益が得られます。メディア側にも、医師が期待通りのコメントをくれることで手軽に記事が書けるという利益があります。両者は「Win‐Win」の関係です。

こうして、健康雑誌などに「酢納豆で病気が治る!」というフードファディズムを助長する記事が載ることになります。テレビ番組でも同じことでしょう。不利益を被るのは、不正確な情報に惑わされる読者や視聴者なのです。

■ナッツの糖質さえ気にするのは「フードファディズム」

特定の食品が「健康によい・病気が治る」とは反対に、「健康に悪い・病気になる」とするフードファディズムもあります。もちろん、砂糖入りの清涼飲料水を大量に飲めば糖尿病になりかねませんし、赤肉や加工肉のとりすぎは大腸がんのリスクを上げます。過剰摂取すれば健康に悪い食品はありますが、その影響を過大評価するのはフードファディズムです。

極端な糖質制限もフードファディズムです。バランスを保ちながら適度に糖質を減らすのではなく、糖質こそが様々な病気の原因であり、減らせば減らすほど体によいと信じている人たちがいます。糖質制限にも様々な流派があり、「糖質ゼロ」を目標に掲げている一派もあります。そうした一派の人たちは、一般的な基準からいえば低糖質なナッツの糖質さえ気にします。健康になることよりも、糖質を避けることが目的になっているかのようです。

■「牛乳は超危険」に科学的根拠はない

乳製品も「健康に悪い」とされることがありますが、科学的根拠はありません。インターネットで検索すると「牛乳は超危険」などと不安を煽るサイトが見つかりますが、アレルギーや乳糖不耐症の人を除く大多数の人にとって、乳製品はカルシウム源として有用な食品です。

その他、前著『新装版「ニセ医学」に騙されないために』(※2)では、乳製品の摂取が乳がんリスクを下げるという研究を紹介しましたので、本書では別の研究を紹介しましょう。

(※2)名取宏著『新装版「ニセ医学」に騙されないために』内外出版社

21か国における35~70歳の成人、約13.6万人の食生活を調べた上で9.1年間フォローアップし、死亡と心血管疾患の数を数える大規模なコホート研究が行われたところ、乳製品を多く摂取している人は、そうでない人と比べて20%弱くらい死亡も心血管疾患も少なかったのです(※3)。牛乳だけでも同様の傾向が見られました。この研究によると、牛乳以外の乳製品なら、バターよりもヨーグルトのほうがよさそうです。

(※3)Dehghan M et al., Association of dairy Intake with cardiovascular disease and mortality in 21 countries from five continents(PURE):a prospective cohort study., Lancet. 2018 Nov 24;392(10161):2288-2297.

ただ、ヨーグルトばかりを食べるのもフードファディズムです。多くの人を対象に長期間調査した研究ではありますが、海外の研究なので日本人にどのくらい適用できるかはわかりませんし、各個人に当てはまるかどうかもわかりません。今まで乳製品をとっていなければ「たまにヨーグルトも食べるといいかも」くらいに思っていただければ、ちょうどいいと思います。

■不正確な情報で無意味な我慢をするのは人生の大損

名取宏『医師が教える 最善の健康法』(内外出版社)

食の好みは大切です。健康・長寿がいいといっても、人生が楽しくなければ意味がありません。健康のために嫌いなものを我慢して食べ、反対に健康のために好きなものを我慢して食べないのはおすすめしません。少しくらい健康に悪いとされる食品でも、持病などの理由で医師に止められていないのなら、量や頻度に気をつけて食べてもいいでしょう。

例えばマーガリンなどに含まれるトランス脂肪酸は心疾患のリスクを高めるので規制されている国もありますが、日本ではトランス脂肪酸の摂取量は多くありません。極端に外食が多い、揚げ物をよく食べる人でない限り、さほど注意する必要はありません。まして、不正確な情報を信じて、健康に悪くない好きな食品を我慢するなんてことになったら人生の大損です。

テレビや雑誌やインターネットにあふれる「○○という食品が体によい/悪い」という情報は、9割方は眉に唾を付けて聞き、自分の好みを優先させるくらいがちょうどいいでしょう。

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名取 宏(なとり・ひろむ)
内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』(内外出版社)。

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(内科医 名取 宏)

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