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文在寅氏の「歪んだ正義感」に振り回される日韓

プレジデントオンライン / 2019年9月17日 18時15分

曺国氏(左)に任命状を渡す文在寅大統領。韓国のテレビでも広く報じられ、街頭テレビには人だかりができた。 - 写真=AFP/時事通信フォト

■盧武鉉元大統領ができなかった「検察改革」の無念

いま韓国では、文在寅(ムン・ジェイン)大統領に任命された曺国(チョ・グク)法相と検察当局とが、激しく対立している。

曺氏は9月9日に法相に就任すると、就任式で検察改革への意欲を明言し、当日に法務省内に「検察改革推進チーム」を設置した。さらに2日後の11日には、検察を監査する組織の強化や、空席の監察本部長の任命手続きを急ぐ方針を示した。

検察改革は検察の権限を限定するもので、大統領の文氏が重要課題に掲げている。これはかつての盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の政権(2003~2008年)が、実現できなかった政策だ。文氏はその盧氏を政権幹部として支えてきた。文氏は盧氏を慕う。盧氏が果たせなかった検察改革を引き継ぎ、側近の曺氏を法相にあて、検察改革の陣頭指揮を任せた。

■「タマネギ男」と揶揄される曺国氏の法相就任を強行

しかし曺氏を巡っては、娘の不正な大学院進学や家族ぐるみの不透明な投資などの疑惑がいくつも浮上し、検察の捜査が続いている。このため曺氏は皮が何枚もむけるように疑惑が次々と出てくることから「タマネギ男」と揶揄(やゆ)されている。

娘の大学院進学疑惑では、曺氏の妻が名門釜山大学医学部の大学院進学に有利となるように書類を偽造し、証拠隠しを図ったとされる。検察は6日、この妻を私文書偽造の罪で在宅起訴した。11日には妻が教授を務める大学の研究室からパソコンの運び出しなどを手伝ったとされる人物も検察に聴取された。

家族が不透明な投資をしたという疑惑では、検察が投資会社代表の逮捕令状を請求したが、11日にソウル中央地裁によって棄却されている。

曺氏の法相任命で世論は二分されており、反発する保守派と支持する革新派との対立も激化している。

■文在寅大統領の検察改革は自殺した盧氏の敵討ちか

なぜ、文大統領はさまざまな疑惑が取り沙汰されている曺氏を法相に据える強行策に打って出たのだろうか。

文氏が仕えた盧武鉉元大統領は、保守の李明博(イ・ミョンバク)政権下の2009年5月23日、故郷の自宅の裏山で投身自殺している。62歳だった。当時、盧氏は不正資金疑惑で検察の捜査を受けていた。

文氏は師匠の死を嘆き悲しみ、「政治的な他殺」と周囲に語り、自伝にもそう書いている。

文氏の検察に対する深い恨みが、検察改革として形に表れたのだろう。尊敬する師匠、盧氏のやり残した政治課題を実現することで、盧氏を弔いたいのだと思う。文氏は信念の強い人間なのかもしれない。

しかし、沙鴎一歩はそんな文氏を“歪んだ正義感”の持ち主とみる。なぜならば、文氏は徴用工問題をきっかけとするいまの日韓衝突を引き起こした張本人だからだ。

文氏は徴用工問題に対し、何ら具体策を示さずに無視し続けた、さらに日本が対韓輸出規制を強化し、輸出優遇国(ホワイト国)から韓国を外したことを逆恨みして、日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄した。来年4月の総選挙を有利に戦うために、韓国国民の反日感情をとことん煽(あお)ってきたのである。

■盧氏の側近中の側近だった文在寅氏

盧武鉉氏と文在寅氏。2人の生い立ちや政治思想はよく似ている。

盧氏は1946年、慶尚南道金海の貧農の家に生まれた。高卒で司法試験に合格、一度判事に就いてから弁護士となって法律事務所を開業した。1980年代に人権派弁護士として民主化運動にも関わった。

1988年4月の国会議員選挙に当選し、その後数回の落選と当選を繰り返して2002年の大統領選挙に立候補し、当選している。

一方の文氏は1953年に盧氏の出身地に近い慶尚南道巨済のやはり貧しい家に生まれた。釜山の高校を卒業後、慶煕大学校法学部に入学。1975年、朴正煕(パク・チョンヒ)政権に反対する民主化運動に関わった容疑で逮捕されている。1982年に弁護士となり、盧氏の法律事務所に入所。ともに民主化運動に取り組んだ。2002年の大統領選挙では選挙対策本部長を務め、盧氏が当選した後には青瓦台(大統領府)入りし、大統領府民情首席秘書官となった。盧氏の側近中の側近だ。

2012年の国会議員選挙で初当選、同年の大統領選挙に立候補したが、朴槿恵(パク・クネ)前大統領に敗れ、朴氏の失脚後に大統領に当選した。

■文政権による「司法」の恣意的運用だ

盧武鉉氏と文在寅氏の年齢は7つほど違う。だが、2人ともほぼ同郷で貧困の中で生まれ育ち、弁護士として民主化運動に力を注いで国会議員となり、大統領に当選している。

こうした歴史を振り返ると、韓国の大統領経験者は検察の捜査を受けて刑事被告人となるケースが多いことが分かる。検察の権限が強すぎるのか。それとも大統領の権力が強すぎるのか。

産経新聞の社説(主張、9月10日付)は「韓国の法相任命 『法の支配』の原則に還れ」との見出しを掲げ、こう訴える。

「韓国国民の多くが法相任命の強行に反発しており、来春に総選挙を控える文政権の運営にも多大な影響を与えそうだ」
「この混乱を招いたのは、文政権による『司法』の恣意(しい)的運用であり、その意味ではいわゆる『徴用工』問題の理不尽と同根である。文政権は『法の支配』の原則に還る必要がある」

■三権分立を自らに有利に使っている

文政権の運営に強く影響すると、沙鴎一歩も思う。しかし「法の支配の原則に還れ」という主張はどうだろうか。問題は韓国という国家の三権(立法、司法、行政)の分立が機能していないところにある。

徴用工問題に絡んだ日本企業の資産差し押さえについて、文氏は三権分立を口実に、「政治は判決に口出しはしない」という趣旨の発言を繰り返していた。三権分立を自らに有利に使っているだけなのだ。

徴用工問題はすでに日韓の協定で解決された問題だ。本来、文政権は政治判断によって、日本企業ではなく韓国政府による“賠償”を決定できたはずである。日本政府もそれを求めていた。

■根底に横たわる「三権分立」の機能不全

産経社説は書く。

「一方で曺氏の妻の起訴などを指揮したとされる尹錫悦検事総長を抜擢したのも文氏だ」
「尹氏は李明博、朴槿恵の元前大統領の事件を指揮したことで文氏に高く評価され、ソウル中央地検検事正から高検検事長を経ずに検事総長に引き上げられた。任命に際して文氏は『生きている権力に対しても厳正に対処しなくてはならない』と指示したとされる。皮肉なことに尹氏は現在、これを忠実に守っていることになる」

まさに文氏は「生きている権力」である。文氏はかわいがっていた尹錫悦(ユン・ソクヨル)氏に手を噛(か)まれた格好だ。産経社説が皮肉を書くのもよく分かる。

さらに産経社説を読んでみる。

「人事への介入で司法を政権の意のままに動かそうとするのは、保守、革新陣営にかかわらず、韓国政治の悪弊である。大統領の多くは退任後に捜査の対象となってきた。文氏の師、盧武鉉氏も悲劇的な最期を遂げた」

沙鴎一歩が前述した指摘と同じだ。その根底には三権分立の機能不全が横たわっている。

最後に産経社説は「法の支配はまた、民主主義や基本的人権などとともに普遍的価値を共有するための主要な要素である。文政権は、この原則から大きく逸脱している」と指摘する。この指摘には同感だ。

■日本政府は「悪いのは韓国だ」という立場を貫くべきだ

次に東京新聞。9月14日付の社説は冒頭のリードで「日韓関係の悪化による影響が、各方面に広がっている。両国は市民レベルでは助け合い、学び合ってきた。交流を断つのではなく、成熟、拡大させたい。それが関係改善の糸口にもつながるはずだ」と理想主義者のように書く。

「交流を断つのではなく、成熟、拡大させたい」は分かるが、戦後最低レベルと言われる日韓関係の悪化をどう解決しようと、東京社説は言うのか。そう考えながら読み進めると、こうある。

「東京と大阪で今月七日、差別反対を訴える集会『日韓連帯アクション』が開かれた」
「若者らが日本語や韓国語で、『差別や憎悪よりも友好を』と書かれた紙やプラカードを掲げた。日韓関係への危機感の表れだ」
「こういった動きを受け、菅義偉官房長官は記者会見で、『両国の将来のため、相互理解の基盤となる国民間の交流はこれからも継続していくべきだ』と述べた」
「交流の重要性を認めながらも、政府レベルでは、相手側に責任を押し付けるだけで、打開の動きが見えない。残念な事態だ」

若者たちが日韓の友好を求める話を書くのはいい。だが、それをテコに日本政府を批判するのは間違っている。日韓関係を悪化させたのは韓国だ。悪化のきっかけである徴用工問題は、1965年の日韓請求権協定ですでに解決済みだ。これが現実である。

それにもかかわらず、韓国が文句を付けてきた。日本政府は「間違っているのは韓国だ」という立場を貫き、これを国際社会に訴えていくべきである。

■「知恵を出し合え」と逃げの社説に終始する東京新聞

東京社説は最後にこう書く。

「今後、国連総会や天皇陛下の『即位の礼』、日中韓首脳会談など首脳クラスが顔を合わす機会が続く。市民の交流に水を差さないためにも、関係修復に向け、知恵を出し合ってほしい」

「知恵を出し合う」というのは、社説を書く論説委員が困ったときの常套(じょうとう)手段である。逃げの社説だ。「即位の礼」で外交問題を持ち出すのも良くない。

東京社説には日韓関係の悪化を解決する具体策を示してほしかった。

韓国政府は9月11日、日本政府による対韓輸出規制の強化についてWTO(世界貿易機関)に「協定違反だ」と提訴した。対韓輸出規制の強化とは、半導体材料など3品目の輸出管理厳格化措置(7月4日発動)のことで、ルールに基づいた規制強化の第1弾である。韓国は第2弾のホワイト国(輸出優遇国)外しについても、提訴をにおわせている。

今後始まるWTOでの審議は、日本の正当性を国際社会にアピールする絶好の機会である。

自国の利益を最優先に交渉を進める。これが外交の基本だ。時には優しく謙虚に、時には狡猾(こうかつ)に激しく。日本政府はWTOの審議の場で、日本の正当性を毅然(きぜん)と主張してほしい。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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