橋下徹「小泉環境相は官僚組織をこう動かせ」
プレジデントオンライン / 2019年9月25日 11時15分
■政治行政のプロたちはかなり厳しく評価している
小泉進次郎環境大臣がニューヨークの環境イベントに出席した。相変わらず発信力が凄い。メディアは小泉さんの一挙手一投足を報じている。
今回は、「気候変動問題はセクシーに」という発言が世間を賑わせている。
これまでの国会議員という立場は発言すればそれでよかった立場だったが、これからは具体的な政策実行力が厳しく見られていく。政治行政のプロたちは、かなり厳しく小泉さんを評価しており、僕もそのうちの一人だ。
(略)
自分のカラーにこだわり過ぎると、安倍官邸、政府の方針を逸脱するリスクもあるし、現実の諸制度との整合性がとれなくなり、社会を混乱に招くリスクも生じる。旧民主党政権がそのような事態に陥った。
(略)
官僚・行政の力に乗っかりながら、官僚・行政にはできない、つまり政治家小泉進次郎にしかできないことを断行する。
それをやるためには、官僚との徹底した議論を通じて、政治家にしかできないことを見つけ出していくのである。
■38歳の大阪府知事として僕が経験したこと
小泉さんは、これから環境省職員から膨大なレクチャーを受けることになるだろう。環境省が考えている政策や、抱えている課題を一気に大臣に説明する。
僕が2008年大阪府知事に就任したのも38歳。行政の経験がないまま大阪府知事に就任するので、僕は準備期間が必要だと思った。ゆえに当時、関係が良好だった自民党大阪府議議会議員団にお願いをして、知事就任日の2週間くらい前から、大阪府庁に次期知事予定者特別室を作ってもらった。
(略)
当時は2008年の1月も下旬。すでに太田府政として、2008年度(4月から)の予算を組んでいた。大阪府庁の幹部は、この予算はとりあえずそのまま通して欲しい、予算に影響しないところで改革をして欲しいという意向だった。予算を議決する府議会は2月から始まる。遅くても3月中に議会の議決を得なければ、4月からの2008年度の予算が執行できなくなる。しかし、太田府政の予算をそのまま認めれば、橋下府政による改革にはならない。
(略)
僕が府知事に立候補する直前に、朝日新聞が大阪府庁のでたらめな財政運営をスクープした。借金返済のために積み立てていた5500億円の減債基金を使い果たしてしまったので、借金を返すための借金である借換債の増発という禁じ手の借金をしない限り、2008年度の予算を組むことができないというものだった。仮に借換債の増発をストップすれば、当時財政破綻した北海道の夕張市と同じく、大阪府も財政破綻するというものだった。
だから僕は選挙戦において、このでたらめな大阪府政を一から立て直すと約束して、当選したんだ。
にもかかわらず、太田さんが組んでいた2008年度の予算は、当然、この借換債の増発を前提としていた。大阪府庁の幹部は、僕が選挙戦で何を有権者に約束していたのか分かっているくせに、借換債の増発は当然のこととして主張してくる。
(略)
役人の世界はとにかく理屈の世界だ。理屈を無視し場当たり的な対応をすれば、公平・公正を害してしまうので、理屈を重視する。逆に言えば、理屈さえ通れば、役人はこちらの主張を受け入れてくれる。
(略)
政治家が役人と話す時の心得は、一般の社会人としての態度振る舞いに気をつけながら、あとは、とことん話すということに尽きる。そして、ここでモノをいうのが、「若さのエネルギー」というやつだ。
(略)
■大阪府政初の「暫定予算」づくりから僕の政治家人生は始まった
僕は、大阪府知事選挙直後のNHKの番組で、たまたま一緒になった上山信一慶大教授に、助言者になってくれるようにお願いした。上山さんは、旧運輸省で官僚をやった後に、コンサルをやって大学教授になったという経歴の持ち主。そして、大阪はもちろん、その他の自治体の現場でも改革の実務を実践してきた。さらに、あの手この手を講じて、大阪府庁の組織内部において改革をやりたがっている現職の府庁職員にコンタクトをとった。そして、これらのメンバーとの議論の中で「暫定予算」という手法が持ち上がった。
大阪府政ではこれまで一度もやったことのない「暫定予算」。これは、法律上どうしても見直すことのできない予算と人件費についても半年分だけを計上し、あとは予算化しないという予算だ。必要最小限のものだけ予算化して、太田さんが組んだ2008年度予算を徹底的に見直すというもの。大部分の予算がいったん止まるので大騒ぎになるだろうけど、議会が承認すれば、法律上はできる。そこで僕は、この「暫定予算」というカードを頭に入れて、大阪府庁の幹部と議論した。
そうしたら、僕との議論の中で、僕が暫定予算というカードを頭に入れていることを察知したのか、年約5・5兆円(一般会計)ほどの大阪府の予算の役人としての最終権限者・責任者(最終権限者・責任者は知事)である中西正人総務部長が、暫定予算という手法があることを提案してくれた。これは、ほんとありがたかった。
大阪府政の歴史の中で、これまで一度もやったことのない「暫定予算」。それがどんな事態を引き起こすか府庁幹部は詳細までは把握していなかっただろうけど、皆「大変なことになる」ことは想像できた。それでも、「やろう」と腹を括ってくれた。ここが僕の大阪府政、政治家人生の全てのスタートだった。
(略)
■小泉大臣は「政治でなければ解決できないこと」に注力を
その時の経験からいえば、まず小泉さんは、環境省が抱える課題を、「環境省で何とか解決できるもの」と、「政治にしか解決できないもの」に分類・整理すべきだ。
環境省で解決できるものは役所に任せていて問題ない。むしろ政治家が変に介入する方がややこしくなる。
そのような課題は、環境省が求めてくる決裁に、YES、NOを示すだけでいい。
(略)
他方、環境省では解決できない課題について取り組むことが小泉さんの役割だ。そのような課題とその解決方法を見つけ出すことこそが、政治家の腕の見せ所だ。これは行政経験のある外部識者の知恵や、内部の改革派職員の知恵を借りながら、あとは政治家のセンスで見つけ出すしかない。小泉さんは、ここに最も力を入れるべきだ。
(略)
(ここまでリード文を除き約2500字、メールマガジン全文は約1万1200字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.169(9月24日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【38歳・小泉大臣(2)】新任大臣小泉さんは、官僚との徹底議論から「政治家にしかできないこと」を見つけ出せ!》特集です。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大阪弁護士会に弁護士登録。98年「橋下綜合法律事務所」を設立。TV番組などに出演して有名に。2008年大阪府知事に就任し、3年9カ月務める。11年12月、大阪市長。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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