「嫌韓」と「日韓関係」をわざと混同する朝日社説
プレジデントオンライン / 2019年9月19日 19時15分
日韓の交流イベント「韓日ハンガウィ祭り」。総領事は「韓日関係が懸念されているこういう時期こそ、地域交流や民間交流を続けなければならないという信念で準備してきた。韓日友好を分かち合う場になることを願う」とあいさつした=2019年9月13日、新潟市中央区 - 写真=時事通信フォト
■週刊ポストに対する「新聞社説」の総攻撃
9月16日付朝日新聞の社説が「『嫌韓』と呼ばれる韓国への反感をあおるような一部メディアの風潮は、いかがなものか」と書いている。その社説の中でやり玉に挙げられたのが、「文藝春秋10月号」や「Will4月号別冊」、そして「週刊ポスト9月13日号」(9月2日発売)の韓国批判記事である。
週刊ポストの記事に対しては、朝日社説より10日以上も早く、毎日新聞(9月4日付)の社説が「週刊ポストの特集 嫌韓におもねるさもしさ」という見出しを付けてこう指摘していた。
「日韓対立の時流に乗れば、何を書いても許されると考えたのだろうか。今週発売の『週刊ポスト』が韓国への憎悪や差別をあおるような特集を組み、批判を受けている」
同日付の東京新聞の社説も冒頭部分から「2日発売の週刊ポストの記事は、まさにこれ(ヘイトスピーチ)に該当するのではないか。『韓国なんて要らない』『厄介な隣人にサヨウナラ』との特集記事を展開した」と批判した。
週刊ポストに対する革新系新聞社説の総攻撃である。
■現在の韓国政府が異常であることは間違いない
それぞれの社説の内容については後でまた触れるが、週刊ポストの記事は新聞社説でここまで批判されるものなのだろうか。手元に取り寄せてざっと読んでみたところ、特段に問題と思われる点は見当たらなかった。
「減韓」「断韓」「厄介な隣人」といった見出しのどこが問題なのか。韓国のGSOMIA(軍事情報包括保護協定)破棄、報復的な輸出規制、東京五輪ボイコットの動きなどは取材に基づいている。
これまでも書いてきたが、徴用工問題をきっけとするいまの日韓関係の悪化は、どう見ても韓国側に負い目がある。昨年12月には海上自衛隊の哨戒機に対し、火器管制レーダー照射という戦闘行為に準ずる事件まで引き起こし、平然としている。現在の韓国政府は異常である。
それを考えずに「嫌韓」「ヘイトスピーチ」「侮辱的行為」などと批判するのはどうだろうか。嫌韓の問題はまた別に考えるべきだ。要は嫌韓問題と日韓関係悪化を並べて同次元で論じるべきではない、と思う。
■ただし「韓国人という病理」という記事には問題がある
一般的に雑誌は、センセーショナルな見出しを付ける傾向が強い。新聞やテレビとは違い、毎号が店頭での勝負になるからだ。雑誌の読者も、そうした事情は理解しているだろう。ただ、週刊ポストの今回の特集後半にある「韓国人という病理」という記事は批判されても仕方がないところがある。
東京社説も「中でも『怒りを抑えられない〈韓国人という病理〉』」という記事では、韓国人の多くが怒りを調節できないとし、精神障害の診断名まであげた」と書いてこう指摘している。
「これに対し、作家の深沢潮さんが、『差別扇動』を見過ごせないと同誌(週刊ポスト)での連載中止を表明した。さらに発行元の小学館には、同社と関係のある作家や読者から多数の抗議が寄せられているという」
■小学館の「その日のうちにお詫び」には驚いた
発行元の小学館は9月2日、同社のニュースサイトに、以下のような編集部の謝罪コメントを掲載した。
「混迷する日韓関係について様々な観点からシミュレーションしたものですが、多くのご意見、ご批判をいただきました。なかでも、『怒りを抑えられない「韓国人という病理」』記事に関しては、韓国で発表・報道された論文を基にしたものとはいえ、誤解を広めかねず、配慮に欠けておりました。お詫びするとともに、他のご意見と合わせ、真摯に受け止めて参ります」
この謝罪コメントは、次号の9月20日・27日号(9日発売)にも掲載されたが、2日発売の週刊ポストの記事についてその日のうちに謝罪するのは、いくらネット時代とは言え、驚くべき早業である。そんなに早く「お詫び」を出すなら、最初から記事を掲載しなければいいのだ。
■記事内容自体はすぐに謝罪すべきとは思わないが…
小学館は抗議に素早く対応して謝ればそれで済むと考えたのではないか。しかし読者はそうは考えない。どうしてこうした記事が作られたのか、掲載前に編集部内でどんな議論があったのか、という疑問をもつ。
お詫びする以上、記事掲載までの経過を検証し、読者の疑問に答えるべきだ。電光石火で謝罪して幕引きにするのは良くない。検証とその公表は、今後、小学館が担うべき重要課題である。
繰り返すが、沙鴎一歩は記事内容自体はすぐに謝罪すべきとは思わない。東京社説などに批判された「怒りを抑えられない『韓国人という病理』」の記事も、「韓国で発表・報道された論文を基にしたもの」(週刊ポストの謝罪文)というではないか。
■新潮社の月刊誌「新潮45」の休刊問題が影響か
なぜ小学館は電光石火の謝罪を行ったのか。
ここで思い出すのが、新潮社の月刊誌「新潮45」の休刊問題だ。新潮45が休刊に追い込まれた発端は、昨年8月号で杉田水脈(みお)衆院議員(自民)が「『LGBT』支援の度が過ぎる」という記事で、「彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」と書いていたことだった。
この記事には批判の声が多く寄せられ、新潮45は「真っ当な議論」をしようと、今度は昨年10月号に特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」という特集を掲載した。
そのなかで、文芸評論家の小川榮太郎氏がLGBTと痴漢症候群の男性を比べ、「後者の困苦こそ極めて根深かろう」と書いた。その結果、作家や文化人、書店などが次々と批判の声をあげ、事態は新潮社本社前での抗議行動にまで発展した。
結局、新潮社は昨年9月21日に社長が談話を出して謝罪し、4日後の25日に新潮45の休刊を発表した。
この問題は、昨年10月に「“極論”に走るメディアは自滅するしかない」との見出しを付けて取り上げている。
■販売不振で「右がさらに右、左がさらに左」という構図
週刊ポストの記事を作家らに批判された小学館は、週刊ポストを新潮45のような「無残な休刊にしてはならない」と考えたのだろう。週刊ポストのライバルは講談社の『週刊現代』だが、両誌はここ数年、高齢者の性をたびたび特集するなど生き残りに必死だ。
だが、必死の努力にもかかわらず、出版業界は深刻な不振から抜け出せない。たとえば新潮45は1985年創刊で、ピークの2002年には10万部を発行したが、休刊直前には1万7000部まで落ち込んでいたという。過激な右寄り路線に走ったのは、読者獲得に血眼になった結果だろう。
新聞社も出版社と同じく不振だ。自らの社論に合う読者を少しでも多く確保しようと、保守系新聞がさらに右寄りになり、革新系新聞がさらに左寄りになる。その過程で不祥事を起こし、さらなる読者離れが生じる悪循環に陥っている。
■やはり国民の多くが韓国をおかしいと感じている
話を新聞社説に戻そう。朝日社説はその中盤で主張する。
「関係が悪化するなか、あるべき外交をさまざまな角度から提起するのはメディアの役割だ。しかし最初から相手国への非難を意図するものでは、建設的な議論につながらない」
朝日社説の主張のように週刊ポストは嫌韓が先にあったと思う。「嫌韓が売れる」と判断したのだろう。なぜそう判断したのか。やはり日本の多くの国民が韓国のやり方をおかしいと感じているからである。
ただし、繰り返すが、嫌韓の問題といまの日韓関係悪化を同次元で論じてはならない。週刊ポストは同次元で論じたがゆえに、朝日、毎日、東京の三紙に批判された。三紙は、嫌韓の問題と日韓関係悪化を同じ土俵に乗せることで、読者の支持を得ようとしているのだろう。
朝日は「もし出版物の販売促進や視聴率狙いで留飲を下げる論旨に走るのならば、『公器』としての矜持が疑われる」とも書く。だが、朝日社説は雑誌を本当に公器と考えているのだろうか。朝日が公器と認めているのは、新聞のみではないのか。
■雑誌を「さもしい」と一気に蹴落とす毎日社説
次に毎日社説。
「雑誌が『本音のメディア』であることは否定しない。際どい手法を用いながらも、ゲリラ的に権威や権力に挑むことでジャーナリズムを活性化させてきた歴史はある」
「雑誌は本音のメディア」とは実に良い指摘である。この毎日社説を書いた論説委員は、新聞とは違う雑誌の役目をよく分かっている。
ところが毎日社説は次にこう書く。
「しかし、今回の特集はそれらと次元を異にする。日本社会の一部にはびこる韓国人への偏見やヘイト感情におもねり、留飲を下げる効果を狙ったのではないか。だとすれば、さもしい姿勢と言わねばならない」
褒めあげてから「さもしい」と一気に蹴落とす。まるでジェットコースターのようだが、さっきほどの「雑誌は本音のメディア」のくだりはほめ殺しだったのか。
毎日社説は「背景にはネットメディアの伸長に伴う雑誌不況があると言われる。従来型の記事では売れないため、あえて偏向表現を多用するものだ。日韓の政治対立が深まる今、韓国は格好のターゲットになっている」とも書く。
ならば雑誌はどう勝負すればいいのか。新聞にしてもこの時代、これまでの同じ路線の記事に頼るばかりでは経営が成り立たないはずだが、そのあたりを毎日新聞はどう考えているのだろうか。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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