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既得権者に煽られて「日韓断絶」と叫ぶ滑稽さ

プレジデントオンライン / 2019年9月20日 11時15分

ソウルの日本大使館前で抗議集会=2019年8月3日、ソウル - 写真=Penta Press/時事通信フォト

■遺伝的ルーツを知るだけで人間は激変する

「おまえらこれからインド人バカにしたら張り倒すからな!」

大学の時、親友のT君がいった言葉を思い出す。T君は近畿出身の日本人なのだが、どうやら久しぶりに実家に帰省したところ、父系祖父がインド人船長だったと明かされたそうである。

もともと彼は日本人純血主義者だったのだが、それからインド人に関しては見方が一変してしまった。今ではインド出張にいくたびに、「現地のタクシー運転手に現地語で話しかけられた!」と、うれしがる。異国由来の遺伝的ルーツを知るだけでここまで人間変われるものか、と私は感心したものである。

筆者の経営する投資ファンド運営会社「ミッション・キャピタル」では、Genoplan(ジェノプラン)という米国遺伝子ベンチャーに投資している。消費者の唾液を採取するだけで、リスクの高い疾患や生活習慣病の遺伝的傾向を460以上の項目にわたり解析し、パートナー企業を通じて適したヘルスケア商品などを提供する優良ベンチャーだ。日本にも今年本格参入し、本稿を執筆している今、私は米国カリフォルニアまで共同投資家のVCに会いにきている。

一方、ここカリフォルニアの突き抜ける晴天とはちがい、日本と韓国は外交問題で雰囲気がどんよりだ。つい先日も、久しぶりに会った先輩から「おまえんとこの大統領どうなってんだ!」と突っ込まれて面食らってしまった。

■「反日嫌韓」現象は、敵を間違えたケンカである

「反日嫌韓」の背景として見逃せないのは、(A)政治家のポジショントークと、(B)キュレーションメディアによる憎悪の拡散効果だろう。ポジショントークとは、その人自身の意見に関係なく、立場上いわなければならない発言を指す。横断歩道の信号無視をしていつも妻に叱られる私が、わが子には信号を守れというのと同じである。

どこの国でも政治家は、自分の選挙基盤と内外支持者を意識して、「掲げたい、または言わざるをえない意見」がある。そしてネットを介して、ポジショントークの中でもより過激で扇動的な表現や主張だけが拡散され、社会の分断が助長される現象は、なにも日本に限ったことではない。

特に、歴史に名を残すような政治家のポジショントークは、良くも悪くも計算高く設計されている。たとえばナポレオン三世やムッソリーニが、強硬的外交政策や戦争を推進することで世論の支持を取り付けてきた。

「これ以上あとにひけなくなる前に抑えろ」だの、「もう参院選挙は勝ったのだから」だの、日韓の両政権に対しても、世論の支持を得ることが目的だといわれているが、その立証や是非を問うのが本稿の趣旨ではない。むしろ、「反日嫌韓」にはまる全員が、敵を間違えたケンカをしていると思うので指摘したいのだ。

■日本人は縄文人と弥生人の混血

昨今の国家・民族間の軋轢は、遺伝子科学的に俯瞰(ふかん)すると新たな視座が生まれて興味深い。

縄文人の祖先集団は、一定の時期まで、中国漢民族の祖先と一緒に大陸を移動していたことがわかっている。われわれ現代人が、約2万年ほど前に絶滅し、ホモサピエンスと交流のなかったはずの人類ネアンデルタール人の遺伝子を引き継いでいることも判明している。

日本では、縄文人が暮らしていたところへ朝鮮半島経由で来た弥生人と混血が進んだ。3000年たったいま、本州の人々で縄文人のゲノムを1割、北海道のアイヌの人々で7割、沖縄の人々で3割保有するまでに、縄文人の血は弥生人の血で「薄まって」いる。

筆者自身、朝鮮半島の金海金氏(キメキムシ)という家系だが、約2000年前の私の先祖が娶(めと)った相手はインド出身者という説話が、どうやら事実であるらしい。ソウル大学医学部教授がその妃の子孫とされる古墳から遺骨を採取してゲノム解析した結果、インドなど南方系の遺伝子情報を確認できたというのだ。

■文在寅大統領と手を取り合う安倍首相

なお、安倍晋三首相も、文在寅大統領も、トランプ米大統領も、そして読者のみなさんも、もし仮に5万年前にさかのぼれるタイムマシーンに乗れたとしたら、先祖に会うには例外なく全員がアフリカまで足を運ぶ必要がある。生きてアフリカにたどり着くべく、安倍首相と文大統領は、一緒に狩りをし、峠を飛び越えるときには手を取り合い、助け合うことになるだろう。プーチン露大統領とトランプ氏が手を取り合うシーンはなんだか想像に難くない。

遺伝子という視点でこの世を俯瞰したとき、われわれ全員が切っても切れない兄弟姉妹なのである。そういえば最近、米国のテレビ番組で白人至上主義者のリーダーに遺伝子テストを行ったところ、彼の14%の血統がアフリカからの由来であったと判明した。彼のはにかみ具合が印象的だった。

切っても切れないのものをあえて「切ろう」と本気で頑張るところにわれわれ人類の滑稽さが垣間見える。「ホワイト国除外」というフレーズがメディアをにぎわせた。韓国ではユニクロら日系企業への不買運動もおこり、ソウル市内では反日スローガンが「No Japan」であるべきか「No Abe」なのか若干騒々しい。

■上皇陛下「韓国にゆかりを感じる」

これをつきつめると滑稽だ。過去にTOYOTAを所有・運転していた韓国人は自分自身をどう「断罪」するのか。有田焼は豊臣秀吉による朝鮮出兵の際連れてこられた朝鮮人陶工を陶祖として発祥したもので、日本にはその陶祖を祭神とする神社まであるが、では有田焼は日本人と韓国人のどっちが「不買」し「排斥」すべきだろうか。

朝鮮半島なしに有田焼はあり得ず、同時に、有田焼をオランダ商に密輸して稼いだ資金がなければ、幕末に会津若松城を陥落させたアームストロング砲も、その後函館五稜郭で討幕戦を終わらせた佐賀の軍艦も買えなかったことも、動かぬ史実だ。宮内庁のウェブサイトに掲載されている上皇陛下御発言によると、桓武天皇の生母が百済王の子孫と「続日本紀(しょくにほんぎ)」に記されているので、韓国にゆかりをお感じであるという。

冒頭にでてきた私の大学時代の親友T氏が、里帰りをして突然悟ったように、歴史を過去数カ月や数十年でとらえず、世間をスマホを通してのみ理解しようともせず、絶対に嘘も歪曲も「ポジショントーク」もしない遺伝的ルーツというレンズから見わたしてみる。その時、われわれは互いにいがみ合うには生態的ルーツを共有しすぎ、経済活動を依存しすぎており、「国家」や「民族」というくくりがどれほど機能不全かを立証できるツールまで存在することが、よくわかる。

■的外れなケンカで得するのは誰か

日本人も韓国人もアメリカ人も、国家や民族などという、ケンカする相手の「くくり」を間違えて自爆し続けているなか、得をしているのはその間違った「くくり」で敵対心を煽り当選をつづける政治家と、バズった記事で広告収入を得るキュレーションメディアという事実にまず気づきたい。

もちろんその間、政権与党にとって不都合な真実は民衆の目からそらされる(今の日本で、日米貿易交渉で輸入が決まった米国産トウモロコシが遺伝子組換え作物であることの健康被害の有無につき、韓国の曺国(チョグク)法相のスキャンダルと同じくらい詳しく知っている人は何人いるだろうか。そして、それらトウモロコシは米中貿易戦争の結果余剰になったもので、産地は次期大統領選激戦区のアイオワ州・オハイオ州であることも)。

その意味では、KPOPを追いかけて新大久保や明洞(ミョンドン)を楽しむ日本のご婦人たちや、日本のアニメがただただ好きで日本語の勉強に励む世界各国からの留学生らが一番正常な「人種」かもしれない。なにしろ彼ら彼女らは、自分の目で見て良しあしを判断しているのだから。

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金 武偉(キム・ムイ)
ミッション・キャピタル マネージング・パートナー
1979年京都府生まれ。UCLA卒業後、ゴールドマン・サックス証券入社。ボストン大学ロースクール履修後、ニューヨーク州で弁護士資格を取得。サリヴァン・アンド・クロムウェル法律事務所で約5年間国際案件に携わった後、ユニゾン・キャピタル投資チームに参画。その後、ベンチャー経営に転身し、2018年8月より現職。

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(ミッション・キャピタル マネージング・パートナー 金 武偉)

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