親と「介護のカネ」の話をするときの大事なコツ
プレジデントオンライン / 2019年9月24日 15時15分
※本稿は、島影真奈美『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■介護費用について切り出しづらい理由
「親の介護費用を子どもが負担するべきではない」と、よく言われる。子ども世代もいずれは年をとる。もちろん、介護が必要になる可能性がある。先々のことを考えるなら、親に対する経済的援助で自分の老後資金を減らしている場合ではないというのである。
夫の両親の介護がいよいよ始まるかもしれない。そう相談したとき、実の母親からも真っ先に同様の指摘があった。母は認知症の祖母を遠距離介護した経験がある。その介護費用はすべて、祖母の年金と貯蓄でまかなったという。「身の丈以上の介護費用をかけると、長続きしない」「介護費用はご本人たちのお財布から出してもらいなさい」と、繰り返し念押しされた。
母に言われるまでもなく、そうするつもりではあった。しかし、いざ介護が始まると、切り出すタイミングをあっさりと失った。次々に起きる不測の事態に対処するだけで精いっぱいで、介護費用の相談どころではなかったのである。むしろ、積極的にその話題を避けていたところもある。
「お金がかかるなら頼みたくない」「高い費用を払わなくても、自分たちでできる」などと、義父母が介護サービスの導入を渋るのを恐れていた。そうこうしているうちに、通院に必要なタクシー代や受診料、エアコンの修理・クリーニング代などの立て替えがかさんでいく。
■立て替え経費がかさみ、モヤモヤが募る
もっとも義父母も、“出してもらって当然”という態度だったわけではない。夫が財布を取り出すと、たいてい義父母も財布をゴソゴソと捜しはじめ、親子で押し問答をしていた。
「ここは俺が払っておくから」
「そんなのダメよ。申し訳ないわ」
「これぐらい、いいよ」
そんな親子のやりとりを目にするたび、モヤモヤした。私としては、もっとハッキリ「立て替えておく」と伝えてほしかった。「これぐらい、いいよ」という言い方では相手も誤解するでしょう、とも思っていた。でも、ヘンに口出しをしてもめるのも面倒。「親の面倒なんて見ない」と言っていた夫が、前向きに介護にかかわるようになっているのに、水を差したくないという気持ちも働き、ますます何も言えなくなっていた。
■「印鑑相違」がもたらした、話し合いのチャンス
親と介護費用の相談をするチャンスは思いがけないところからやってきた。訪問介護(ホームヘルプ)や訪問介護の事業所、宅配弁当業者に提出した「口座振替依頼書」がことごとく、「印鑑相違」で差し戻されてきたのである。
現場で対応してくれた方々の話によると、義父は「ほかにも印鑑があります」と、いくつか探し出したらしいが、それらの印鑑が本当に銀行印なのかどうかわからない。銀行印の確認については別途手を打つとして、まずは、目の前の引き落とし問題を解決する必要がある。
手っ取り早いのは、長男である夫が介護用の専用口座を開設するという方法だ。親から介護資金を預かって入金し、そこから引き落としてもらえば、解決する。介護費用について相談するきっかけにもなるし、そもそも介護費用に回せる預貯金額がいくらあるのか、予算も把握しやすくなる。こちらとしては願ったりかなったりである。
■家計の権限を握っているのは誰なのか
「親と介護費用について相談する」といっても、誰が、誰に相談するのがスムーズなのか。そこは、もともとの親子関係や、家計の権限を誰が握っているかによっても変わってくるだろう。
夫の実家では、義父が預貯金などを管理し、毎月の生活費を義母に渡し、義母が日々のやりくりをするという役割分担になっていた。介護費用について話をするなら義父、それも息子(私の夫)から切り出すのがスムーズだろうと、予想を立てた。
■どうやって話を切り出すべきか
「どのように話を切り出すか」も悩ましい問題だ。
ある日突然、「お金を預けてほしいんだけど」と子どもに切り出されたら、面食らうのは目に見えていた。「お前、まさか財産を狙って……」などと、あらぬ疑いをかけられる可能性もある。
かといって、あれこれ理由を並べ立てるのも、かえって怪しい。あまり込み入った話になると、理解してもらえないかもしれない。「こむずかしい話をしやがって。わけがわからん!」と一蹴されたら、元も子もないのである。
ダメ出しはもっとマズいはず。子どもから「お金の管理ができなくなっているから、預けてほしい」などと言われたら、カチンと来るに違いない。では、どうするか……? この時期は連日連夜、夫婦で作戦会議をしていた。
■親の思考パターンを徹底的にシミュレーションする
最終的な方針は次のように決めた。くどくど前置きせず、ズバリ本題に入る。今後のためにお金を預けてほしいとストレートに伝え、親がイヤだというなら、それ以上は説得しない。
「断られた場合」を考えるのは気が重かった。もっと言えば、ここまでいろいろやってきて断られるなら、もう知らん! という気持ちもあった。しかし、夫は「ダメだったら、ここから信用を積んでいくしかない」と、サラリと言う。仮に、義父に拒否されてもあきらめる気はまるでない様子だった。
まとまったお金を預けるのがいやなら、「毎月一緒にATMに行こう」と提案するという。そこで、前月の引き落とし分の介護費用を、義父たちの家計口座から引き落とし専用口座に移してもらう作戦だ。
「1カ月分ぐらいなら立て替えてもそこまで負担ではないし、実際に支払った金額を見ながら、その分だけ払うなら、親父も納得すると思う」
さらに何度かそれを繰り返すうちに面倒になってきて、「やっぱり預けたい」と気持ちが動くというのが、夫の読みだった。あんた、天才か!
■観察と下準備のひと手間が合意への最短ルート
かくして、父と息子の「腹を割って話そうタイム」がやってきた。その日は、午前中にもの忘れ外来の受診付き添いがあり、昼食をはさんで午後になった。夫が口火を切るのを今か、今かと待っていたけれど、なかなか切り出さない。昼食を終えた義父は少し眠たそうで、今にも「昼寝をする」と寝室に行ってしまいそうな気配もあった。おとうさん、寝ちゃうよ!
そのとき、夫が動いた。
「親父、話がある」
「うむ」
リビングの空気がピンと張りつめた。あまりの緊張感に笑い出しそうになる。今にも切腹が始まりそうな雰囲気なのである。
「これからもいろいろあるだろうから、今後必要な支払いの手続きを代行させてくれないか」
「わかった。よろしく頼む」
■「親に向かって指図するとは何ごとか!」
遠回しながら、財布を預かりたいと申し出た夫に対し、義父はまさかの即答の「イエス」。予想外のスピードで、親子経済会議は合意に至った。このとき、義父がどう感じていたのかはわからない。しかし、あっさりと承諾してくれたのは、事前準備の賜物(たまもの)だったことが、ほどなく判明する。
その後、義父母は医師に勧められ、「デイケア」(通所リハビリテーション)に通い始めたものの、義母が早々に「行きたくない」とストライキを起こした。ヘルパーさんから連絡を受けた義姉が、「わがままを言わず、約束通り行ってほしい」「行ってくれないと心配で仕事に集中できない」という言葉で説得を試みたことが、義父の逆鱗(げきりん)に触れたのだ。
義姉が伝えた説得材料は、奇異なものではない。子ども側が「心配だから」「放っておけないから」などと訴えるアプローチは“介護あるある”であり、時には「親は泣き落としに弱いから」と勧められることもある。だが、義父には逆効果だった。
「親に向かって指図するとは何ごとか! 今日は何があってもデイには行きません。絶対に休みます!」
義父はすさまじい剣幕で怒り、さっきまでごねていたはずの義母がオロオロと取りなすほどだったという。まったく一筋縄ではいかない。しかも、数日後に「みなさんがデイでお待ちです」とヘルパーさんが声をかけると、何ごともなかったように、夫婦そろってニコニコと送迎バスに乗り込んだというから驚きだ。
いくら介護が必要になったとしても、親には親の理屈があり、プライドもある。納得に至るツボも人によって異なる。日頃から親の言動を観察し、その性格や価値観をふまえ、受け入れやすいであろう筋道を探る。そのひと手間を惜しまないことが、経済的な負担はもちろん、介護にまつわる心理的負担や身体的負担の軽減にもつながる。
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ライター・編集者
1973年宮城県仙台市生まれ。国内で唯一「老年学研究科」がある桜美林大学大学院に社会人入学した矢先に、夫の両親の認知症が立て続けに発覚。「介護のキーパーソン」として別居介護に参戦し、仕事・研究・介護のトリプル生活を送る。その体験をもとに、新聞や雑誌、ウェブメディアなどで広く執筆を行う。近著に『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)。 note Twitterアカウント
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(ライター・編集者 島影 真奈美)
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