「4000円口紅と600円リップ」で悩む女性の本音
プレジデントオンライン / 2019年9月25日 15時15分
■コスメ業界のブラックボックスに切り込む
「リップ」「ティント」「グロス」……これらはどれも口元を彩る化粧品ですが、どんな違いがあるかご存じでしょうか。
男性がこの違いを理解するのは難しいでしょう。女性は10代からメイクに向き合っています。鏡の前での試行錯誤、店での買い物、友人たちとの情報交換……。女性がコスメに詳しいのはあたりまえで、男性の私とは「学習量」が圧倒的にちがうのです。
こうした女性たちの需要を満たすため、日本のコスメ業界は約2.5兆円の市場規模にまで成長しました。しかし、それにもかかわらず、メイク情報を収集・検討し、購入を決定する女性たちの「心の動き」は、きちんと分析されてきませんでした。化粧品メーカーにとっては、卸に納品した後、商品がどのように購入されているかはブラックボックスだったからです。
たとえ百貨店で購買者のデータを取っていたとしても、それを店舗間の垣根を超えて統合し、活用する動きは見られません。店舗に並ぶ商品の種類も限定されています。また、ECサイトにしても、データを分析して化粧品メーカーに提供することはありませんでした。
私はノインに加わるまでGunosy(グノシー)でニュースのキュレーションサービスを展開していました。グノシーには「数字は神より正しい」という指針があります。どんな意思決定も数値分析にもとづいてすすめるという文化があるのです。ノインに加わったのは、そうしたマーケティングノウハウをコスメ業界で活かせるのではないかと考えたからです。
■信頼に足る十分なデータがない
コスメ業界には、口コミレビューや記事コンテンツが大量に存在しますが、信頼に足る十分なデータはほとんどありません。たとえば爆発的にヒットした化粧品は、いったいどんな点が顧客の心を掴んでいるのか。その理由を分析するための「データ」がないのです。
商品を製造するメーカーであれば、当然自社で製造した個数はわかります。そして、卸に商品を納品した際に返品との差分を確認すれば、実際に売れた(であろう)数もわかります。
しかし、メーカー側がわかるのはそこまでなのです。「店先で、どんな属性を持った人がどの商品と比較し、何と一緒に買っていったのか?」ということは、卸に納品した先からまったく見えなくなってしまいます。
「CMがヒットし、人気の声が聞こえてきて小売で欠品続き」という商品でも、店舗でどのような行動の結果購入まで至っているのかは、謎に包まれたままのケースもあります。競合の状況を類推することも難しいこの状況でマーケティングを行うのは、なかなかに「無理ゲー」です。
■新発見「高級コスメはプチプラと比較検討される」
ではどうすればいいのか。自分の中で出した解は「ないなら、作ればいい」ということでした。
こうした現状を目の当たりにして生み出したのが、コスメ通販アプリの「ノイン」です。そこでは、データ整形と分析に注力することを決めています。
たとえばノイン上では、リップの購入に至るまでにユーザーは平均で250個の商品を比較検討しています。これはあくまで平均で、熱心なユーザーだと最大で2000もの商品を比較検討しています。
さらに具体的にわかったことは、価格差が6倍以上の商品が「競合」になるという事実です。
ノイン上で、Dior(ディオール)のリップを購入した人たちが比較検討するブランドは、1位がDiorブランドの他の色(22%)、2位がイブ・サンローラン(8%)、そして3位が、ドラッグストアで販売されているCANMAKE(キャンメイク)(5%)でした。
Diorのリップが約4000円であるのに対し、「プチプラ」と呼ばれるCANMAKEは約600円と、価格差は6倍以上です。百貨店に並ぶ高級コスメとプチプラコスメが比較検討される「競合商品」という事実がわかったことは驚きでした。
なおディオールとの比較検討では、4位がRMK(5%)、5位がJILLSTUART(ジルスチュアート)(5%)、6位がM.A.C(マック)で、高級ブランドが続きますが、7位にはCEZANNE(セザンヌ)(3%)というプチプラコスメが入っています。
女性の本音は、化粧ポーチの中によく表れています。見ればわかりますが、そこには高級コスメとプチプラが並存していることでしょう。
■リアル店舗は消費者の嗜好を捉えているか
もうひとつの具体的な事実は、リアルの「売り場」が遠いものでも、ネットではユーザー行動が異なるということです。
ドラッグストアで販売されているスカルプD(男性には育毛剤のイメージが強いかもしれません)のまつげ美容液は、百貨店で扱われる高級ブランドであるADDICTION(アディクション)やLUNASOL(ルナソル)といったアイシャドウの一緒に購入されていることがわかっています。これらはリアルの店であれば売り場は異なってしまいますが、女性の興味関心としてまつげとアイシャドウは近い領域なのです。
実際、デパートでコスメを購入した女性が、その後ドラッグストアに立ち寄って別のコスメを買うことは珍しくないでしょう。店舗をまたがったユーザー行動といった、従来見えづらくなっていた比較検討の実態が、我々のプロダクト上では事実として浮かび上がってきているのです。
■消費者の心の動きをつかめば、商品開発と売り方が変わる
こうしたノイン上で得られるデータは、我々だけで活用するのではなく、ビジネスパートナーであるメーカーに提供し、広告宣伝活動や商品開発に活かしてほしいと考えています。
自分たちの商品がどのようにして購入されているのか、どんな商品と一緒に使われる確率が高いのか。そんなお客さまのリアルを知ることで、たとえば、あるセグメントで人気の商品とセットで購入する商品を開発することができます。あるいは、消費者にどう商品を訴求していけば人気が出るか、マーケティング戦略を決める材料になります。
ノインは、コスメブランドに「データ」という武器を届けることで、「無理ゲー」に思えるコスメ業界でのマーケティング強化に貢献していきたいと考えています。
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ノイン 株式会社 取締役COO
1987年東京都生まれ。東京大学理学部卒業。東京大学大学院理学系研究科修了。2011年電通入社。テレビスポットCMの買い付け、視聴率推移を見ながらの運用や枠提案を経て2014年にGunosy入社。2016年同社執行役員。プロモーションの責任者、広告事業の管轄を務める。2019年より現職。
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(ノイン 株式会社 取締役COO 千葉 久義)
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