「韓国ホワイト国外し」の裏にある米中貿易戦争
プレジデントオンライン / 2019年11月9日 11時15分
■覇権争いのステージは変わった
現在、国際金融は巨大な混乱に向かっていると私は確信している。原因は2018年に開戦した、米中貿易戦争だ。当初は、関税や輸出規制を武器にしたモノの勝負だった。
政治的制裁と誤解されがちな韓国に対するホワイト国外しも、アメリカの中国に対する輸出規制の一環だと私は分析している。後述するが対象品目が韓国から第三国に渡ったことを覚知することができるのは、金融の流れを監視している唯一の国アメリカしかないからだ。米中貿易戦争の実体は超大国同士の覇権を巡る戦争なのだから、対象がモノだけで終わるはずがない。為替や株式などカネの勝負へと移行していくのは当然だ。
それを決定的にしたのが19年8月5日の米財務省による、中国の為替操作国認定だ。第2次世界大戦後、すでに物理的な戦争から費用対効果の高い経済的な戦争へと変わってはいるものの、改めて、戦争のステージがカネ、すなわち金融へと移行したことへの布告にほかならない。
相次ぐ株価の乱高下は二大国がモノで争った表層で起こったことにすぎない。経済の血液であるカネそのものを使っての戦争は、社会そのものを揺るがすことになる。混乱を生き抜く最良のツールこそ、インテリジェンスを基にした合理的で冷静な視点だ。こう断言できるのは、私自身が暴力と金が連座する、混乱が日常の黒い経済の世界を生き抜いてきたからにほかならない。
現在発売中の拙著『金融ダークサイド』(講談社)は、国際金融の生々しい現実を知る最良のテキストだと自負している。すでに金融が混乱することは宣誓されている。今こそ国際金融の現実を知るべきときだと言えるだろう。
■9.11と金融監視
ネット通販が当たり前になった現在では、多くの商品を個人輸入することができる。決済はクレジットカードだが、世の中の貿易のすべてをカードで行えるはずがない。ドルでしか決済できないうえ、取引金額の大きな石油や穀物、また鉄鋼、車などの輸出入取引で決済するときの送金手段として用いられるのが金融メッセージングサービス「SWIFT」(スイフト)だ。
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ほぼすべての国際決済が通過するSWIFTは1973年にベルギーのブリュッセルに設立された共同組合形式の団体で、つくり上げたシステムは現在でも、海外送金のスタンダードな方法となっている。
通常、国内銀行間の金融取引は各国の中央銀行を通じて行うが、外国の銀行へ送金する場合には中央銀行が存在しない。ということで、通貨ごとにコルレス(Correspondent=遠隔地の取引先の略)銀行という中継銀行が指定されている。
現在日本では東京銀行を吸収合併した三菱UFJ銀行や、SMBC(三井住友銀行)などがコルレス銀行になっている。日本の地方の銀行から、アメリカのユタ州の銀行口座にドルを送金する場合、まず三菱UFJ銀行やSMBCを通じて米ドルのコルレス銀行にテキストメッセージが送られ、そこからユタ州の銀行口座へとテキストメッセージが伝送されるということになる。その後、SWIFTが銀行に対し支払いを指図するという流れだ。
すなわちSWIFTには誰がいつ、誰宛てにどこの銀行でいくらをどういうふうに送ったかという膨大な世界中の送金記録が収められている。麻薬の国際取引などで決済する場合など、黒い経済人たちもSWIFTを使って送金を行っていた。汚い金がやり取りされていることがわかっていたのだが、一方で金融というデリケートな個人情報であることから、犯罪捜査のためにSWIFTをこじ開けることは倫理面から躊躇されてきた。この倫理を破壊したのが、アメリカだ。きっかけになったのが01年9月11日に起こった、アメリカ同時多発テロ事件である。
実行犯のリクルートから、生活費、武器の調達、訓練費用、逃走費用、残された家族へのケアに至るまで、テロの実行には莫大な資金が必要になる。SWIFTを開示することは人権を踏みにじる行為であり、常識的に考えれば許されなかったが、「9.11」という未曽有の事態に直面したアメリカは、力で押し切りSWIFTを開示させた。最初は9.11事件の捜査目的だったが、「テロ対策」ということであらゆるテロリストや、犯罪者の金の流れを規制・監視しているのが現在だ。
■「ホワイト国外し」に米国の影
韓国のホワイト国外しの背後にアメリカの存在を確信する根拠もこれだ。日本から韓国に輸出した兵器転用可能なモノが、第三国などを経由して北朝鮮と関係の深い、シリアやイランに渡ったことがホワイト国外しの表向きの理由だ。
だが、お世辞にも海外に送ったカネやモノの監視機構が優れているとは言えない日本が、韓国を通じてシリア、イランに渡るモノを追いかけることができるとは考えられない。一つ一つのモノにGPSを付けていたというのならわかるが、生産企業にそのような指示は出されていないだろう。
すると導き出される答えは1つ、モノの取引について回るカネの動きを追うことだ。そして世界の中でカネの動きを把握できる唯一の国こそアメリカだ。
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報道された順番が違うのだが、今回のホワイト国外しのきっかけになったのは、韓国の半導体メーカー、サムスン電子やSKハイニックスが、日本から輸出されたフッ化水素を中国工場で使用していた件だったという。韓国半導体メーカーによる中国輸出を問題視した正体こそ、最先端技術の生産基盤を中国から自国に取り戻したいアメリカだった。アメリカが中国と戦争を始めた動機の1つが「知的財産権の侵害」だ。もっとも問題視したのは、最先端技術を中国が盗用しているという点だ。半導体の生産工場はその流出元になっている。
19年7月下旬にはサムスン電子とSKハイニックスが揃って、生産体制にアメリカを追加する新長期プランを検討していることが報じられている。アメリカであれば、日本がフッ化水素を輸出できることが理由だ。
すべての点と線はアメリカの国益で結びついている。はじめにあったのは、シリアでもイランでも、ましてや日本でもなく中国だったということだ。ホワイト国外しにアメリカの関与があるという私の疑念は、もはや確信に近いものとなっている。
■黒い経済人のツール
アメリカがつくり上げた金融の規制・監視システムは、時にクリーンな送金さえ滞らせるほど強力で、実体経済に与える影響が社会問題になっている。もちろん、本来のターゲットの「黒い経済界」は困窮することとなった。だがこの強固なシステムを、やすやすと突破するツールをフィンテック(金融技術)が生み出す。「暗号資産」がそれである。
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暗号資産の利便性が世の中で認知されるきっかけになったのが、13年のキプロス・ショックだ。キプロスは、GDPの4倍以上を国内銀行が預かる世界有数の金融立国だった。だが10年のギリシャ危機の影響で同国の金融機関が経営危機に陥る。EUがキプロス救済の条件として求めたのが、銀行の預金封鎖だった。このとき、預金者の一部が「ビットコイン」を使って資産を国外に避難させ封鎖を逃れたのだ。
暗号資産のベース技術「ブロックチェーン」は分散型台帳を数珠のように連ねていく技術だ。複数の場所に同じ情報を保管するという仕組みで一般のインターネット回線を使い、高い匿名性を維持しながら事実上改ざんが不可能な、極めて高速な資金移動を可能にするものだ。
この特性こそ規制・監視に喘ぐ「黒い経済界」が求めてやまないものだった。麻薬や売春、テロ資金などありとあらゆる世界中のアンダーグラウンドマネーが、暗号資産を使って資金移転され始めた。そればかりか「黒い経済人」は暗号資産を資金調達のツールとしても利用し始めた。
17年にビットコインが暴騰し、暗号資産の投機ブームが起こる。誰でも発行できるということ、「ビットコイン同様にいずれ上がる」という思惑、「どうせ上がるなら新規発行した安い段階で入手して高く売ったほうが儲かる」という投機欲、それらが重なり、ビットコインもどきの暗号通貨を発行して、発行主体が資金調達を行ったのがICOブームだ。
株の世界で言うところの新規発行株をインサイダー取引によって格安で入手し、相場操縦で高く売り抜けるのと同じ仕組みだ。だが暗号資産のインサイダー取引や相場操縦を規制する法律は今のところ存在しない。ICOによって世界全体で調達された資金は、18年だけで2兆2638億円以上。有名人を広告塔にした詐欺的なコインが話題になったことを覚えている人も多いだろう。
当然のことだが、英語が使えて感度の高い日本の黒い経済人たちもICOに群がった。ちょうどこの時期、特に関西圏では、ホームレスなどの名義で作った銀行口座の闇取引額が暴騰している。暴力団排除条例で新規口座を作れなくなった黒い経済人たちが、ICOや暗号資産取引を行うために口座を求めたことが原因だ。「資金移転」「資金調達」「インサイダー」と、黒い経済界にとって「走・攻・守」揃った名プレイヤー「暗号資産」を手に入れた黒い経済界は、わが世の春を謳歌することとなった。
■ガラパゴスな日本の金融機関
だが、黒い春は短いものだった。国際社会で規制を求められ、18年3月のG20財務相・中央銀行総裁会議で、仮想通貨のあり方が初めて議論された。この時点で国際金融に精通する黒い経済人は、今後も規制が強化されることを見越して暗号資産から手を引いた。その読み通り、19年6月に福岡で開催されたG20財務相・中央銀行総裁会議では、暗号資産のアンチマネーロンダリングとテロ資金供与対策を目的とした新規制が合意された。21年までにという期限付きだ。現在でも暗号資産をツールとしている黒い経済人はいるが、国際社会から取り残された周回遅れの人たちでしかないことがわかるだろう。
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このような激しい動きから取り残されているのが、日本の金融機関だ。金融機関の内外格差の代表がバンクオフィサーの存在だ。海外の銀行では口座を作ると必ずオフィサー(担当者)が付いて、多くの相談に乗ってくれるばかりか提案までしてくれる。資金を持っている預金者には投資先を紹介し、その国でビジネスを始めたいと思ったときにオフィサーに相談すれば資金調達先とのマッチングさえしてくれるのである。
対して日本の銀行にいるのは窓口の担当者くらいで、本質的な意味でのバンクオフィサーが存在しない。AI(人工知能)の金融業界進出によるリストラの筆頭候補になっているのは、むしろ当然のことだと言えるだろう。
日本の銀行の場合は預金を集めるだけ、融資するだけということで、銀行を仲介者としたときに借り手と貸し手が分断されている状況だ。何よりリスクがあるものに対しては融資をしない。海外と日本の金融機関の決定的な差は、このリスク管理の考え方だと私は考えている。
海外の銀行は、国際金融を舞台に非合法スレスレの手段で資金調達を行い、事業投資を行う。リスクは回避するものと考えているのが日本の銀行であるとすれば、リスクは管理するというのが海外の金融機関の考え方だ。
誤解してはいけないのは、こうした日本のガラパゴスな金融環境が、必ずしも「負」として作用していない点だ。金融ショックの際に海外の金融機関が連鎖破綻するのは、常にスレスレのリスクを負っているからだ。手を繋ぎながら綱渡りをしている人が強風で次々に落下することをイメージするとわかりやすいだろう。リスクを徹底的に嫌う日本の銀行は、国際的な金融ショックに強いとも言える。リーマン・ショックのとき、JPモルガン救済に動いたのが三菱UFJフィナンシャル・グループだったことは、その好例と言えるだろう。
米中の覇権争いで金融の不安定が確実視されている状況にあって、日本型の硬直した保守的金融システムが、津波から守る「壁」として有効に機能する可能性もある。新たなフィンテックが生み出す金融環境に対して、日本の金融機関がレガシーな「壁」を維持するのか、大胆な進化を選ぶのか――まもなく訪れる選択を、私は見定めている。
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元山口組系団体組長
現役組員時代にはインサイダー取引、石油取引で巨大な金を動かし続けた。2015年の6代目山口組分裂時、ツイッターで内部情報を発信し続け、現在は評論家としても活動している。
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(元山口組系団体組長 猫組長 撮影=久保貴弘 写真=iStock.com)
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