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トヨタ「ライバルはもうホンダではない」の真意

プレジデントオンライン / 2019年9月30日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mai111

ビジネスの領域を広げる巨大IT企業「GAFA」。インターネット広告代理店・オプトホールディングの鉢嶺登社長は、「これからの時代、GAFAの影響を受けない会社はない。トヨタやパナソニック、ファーストリテイリングは早くからそれに気付き、手を打っている」という――。

※本稿は、鉢嶺登『GAFAに克つデジタルシフト』(日本経済新聞出版社)の一部を再編集したものです。

■トヨタ社長「もうトヨタも生きるか死ぬかである」

トヨタ自動車の豊田章男社長は、2018年の決算説明会の場で「もうトヨタも生きるか死ぬかである」という強い危機感を表明する発言をしているが、なぜだろうか?

従来トヨタの競合と言えば、ホンダや日産自動車、そしてゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター、メルセデス・ベンツなど世界の自動車メーカーであった。

しかし、これからのデジタル産業革命で自動車業界の構造や競争環境は大きく変わり、競合はもちろんのこと、ビジネスモデルも根幹から変えざるを得なくなる。すると、自社や取引先の構造も、社員のスキルや人員構成も含めて、何から何まで生まれ変わらなければならない。豊田社長はいち早くそこに気付き、先のように発言したわけだ。

では、世界を代表する自動車メーカーであるトヨタですら危機を感じるほどの根幹を揺るがす変革は、何から生まれているのだろうか?

■電気自動車の普及でエンジンが不要になる

まず1つ目は「電気自動車」の普及である。将来世界でも7000万台もの電気自動車が普及する可能性が示唆されている。中国深圳のタクシーがあっという間にほぼすべて電気自動車になってしまったという事例からも、電気自動車の普及はかなり現実味があると見て良いだろう。

電気自動車になると、トヨタグループの強みの一つであるエンジンが搭載されない。某有名IT企業経営者が「電気自動車時代になれば、クルマはゴーカートのようなもの」と言ったが、実際に新興自動車メーカーである米テスラや、中国でもBYDをはじめ、続々と新興自動車メーカーが登場してきている。部品点数は従来車の何分の1にもなるし、トヨタが誇った技術や部品メーカーとのピラミッド型組織構造が電気自動車の世界では何の強みにもならない可能性もある。

私自身も「隗(かい)より始めよ」の言葉通り、体験を兼ねてテスラに乗っているが、非常に素晴らしく快適なドライブが実現されている。テスラの場合、ソフトが都度アップデートされるので、常に最新機能が備わるためだ。従来の自動車は買った時点が最新鋭で、ソフトによりアップデートされることはない。テスラは、まだ現時点では充電の不便などがあるが、将来その点が解消されれば、ガソリンよりも自然に優しく、燃費も格段に安い電気自動車は確実に普及するだろうと実感する。

■自動運転とライドシェアの普及もトヨタの脅威に

2つ目が「自動運転」である。自動運転が次世代自動車の中核と言っても良いほど巨大な市場になるが、ここでもグーグル、アマゾン、アップルといったGAFAが存在感を強めている。グーグルが特に先行しているが、アマゾンも正式に参入表明をしており、アップルでは水面下で「iCar」の開発が進行しているとうわさされている。世界の自動車メーカーは相次いで自動運転分野で先行するIT企業と提携を発表しており、自動運転では既存自動車メーカーがトップランナーではないことを物語っている。

そして3つ目が「ライドシェア」と呼ばれる配車サービスやカーシェアリングサービスである。今後社会はシェアの時代にどんどん突入していく。「所有から共有」である。この領域の世界的プレイヤーと言えば、米ウーバー・テクノロジーズや米リフト、中国ディディなどである。日本では規制によりこのような配車サービスは普及していないが、海外ではもはや社会インフラとして欠かせないものになっている。配車サービスやカーシェアを使えば、自家用車を持つ必要性はますます低くなっていくだろう。

つまり、次世代の電気自動車、自動運転、ライドシェアといった大きなトレンドにおいては、トヨタの競合として大きな壁となり立ちはだかる会社は従来の自動車メーカーではなく、GAFAを中心としたIT企業なのである。日本を代表するトヨタであったとしても、将来は安泰ではない。デジタルの大波に、ビジネスモデルから大きく変貌させねば生き残りすら危うい状態になっている。豊田社長はそれに気付いているからこそ、危機感を盛んに表明しているのである。

■パナソニックはメーカーから「ソフトウエア企業」へ

次に家電メーカーの雄、パナソニックだ。2018年に創業100年を迎え、まさにこのデジタルシフトの時代に合わせて、メーカーからいわばソフトウエア企業へ脱却しようと試みている。

日本経済新聞電子版の2019年2月10日付記事「モノ作らぬメーカーに」に、それを示す内容が載っている。ここでは発言の一部を引用しながら解説を加えよう。8代目社長・津賀一宏氏へのインタビュー記事である。

「あれは何年前だろう。(2012年に)社長になる前、米国の店に行ったら消費者がうちのプラズマテレビとティッシュとバナナを同じワゴンに入れて買っていた。『テレビが安いからプールサイドかガレージで使うんや』と。開発者はホームシアターとしてリビングで使ってもらおうと高画質にしているのに」
「アホらしくてやってられるか、と思った。日本メーカーがなぜ世界を席巻する商品を出せていないか。答えは単純だ。日本のお客様の声を聞いてきたから。中韓メーカーの台頭や円高などいろいろある。だがそれ以上に大きいのは、日本の厳しい消費者に受け入れられる製品はグローバルでいい商品だ、という認識だったと私は思う」
「機能が優れ装備がリッチであればいいという高級・高機能を追求する『アップグレード型』はもうやめる。暮らしの中で顧客がこうあってほしいと望むことを、製品に組み込んだソフトの更新で順番にかなえるような『アップデート型』に変えていく」

(中略)

「完成品を顧客に渡すのは一見素晴らしいが、すぐにコモディティー化する。私たちがソフト企業になるかソフト企業と手を組まないとイノベーションは起こせない」

■パナソニックもGAFAを意識している

インタビューではGAFAについても触れられている。津賀社長は「今後、GAFAだけ伸びるのか。私はそうは思わない」と前置きしたうえで、GAFAはメーカーが主導する工業製品の進化という成果の上に乗っており、我々の進化が止まればGAFAの進化も止まる、と述べている。

ただその一方で「彼らは高級・高機能化ではない方向で価値を生んでいるのも事実。だから我々もアップデート型にシフトする」と語っていることも興味深い。つまり、相当にGAFAを意識しているわけだ。

日本を代表するメーカーであるパナソニックも、デジタル産業革命時代にビジネスモデルの根幹から大きく変えねば生き残れないと考えているのである。

■ユニクロの敵もGAPやH&Mからアマゾンに

日本を代表する気鋭の経営者、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長も、かつて長らく「競合企業は米ギャップ(GAP)やスウェーデンのH&Mだ」と発言していた。しかし最近は明確に「競合はアマゾンだ」と断言し、アマゾンに出店しないことも明言している。

鉢嶺登『GAFAに克つデジタルシフト』(日本経済新聞出版社)

アマゾンはファッション分野に力を入れている。有名アパレルから人材をハンティングしたり、米ザッポスなどファッション関係ベンチャーを買収したり、2018年には品川に世界最大級の撮影スタジオを開設したりといった具合である。アマゾンがファッション店舗を展開することはほぼ間違いないだろう。
柳井会長兼社長は敵の敵は味方とばかりにグーグルと提携し、アマゾン対策に乗り出している。このような手法も非常に注目したい。アマゾンがEコマース企業だと思っていたら大間違いだ。柳井会長兼社長はそれを見抜いているからこそ危機感をあらわにしているのだ。

このように、世界市場に対峙している国内大手企業の社長が、相次いでGAFAを意識し始めた。さて、これは前記3社にだけ当てはまる事象だと皆さんは思われますか? 業種がたまたまGAFAに近かっただけ、影響を受けるのは大企業だけ、などと思われますか? 本当でしょうか?

■すべての企業はGAFAの対策をする必要がある

私が国内の経営者とお会いすると、「GAFAはうちには関係ない」という考えの方がかなり多くおられる。いまだに「アマゾンってEコマースの企業でしょう」「うちと直接関係するとは思えない」というニュアンスのことを発言される。

しかし、それは大きな間違いだ。GAFAの影響を受けない会社はないと言っていい。GAFAが自社の市場にどんな影響を及ぼすのかを想像し、理解し、すぐに対策を打たないと、近い将来大打撃を受けるだろう。トヨタ自動車やパナソニック、ファーストリテイリング以上の危機意識を持たないといけないというのが私の認識だ。

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鉢嶺 登(はちみね・のぼる)
オプトホールディング社長 グループCEO
1967年生まれ。1991年早稲田大学商学部卒業。1994年にオプト(現・オプトホールディング)を設立。2004年にJASDAQに上場、2013年に東証一部へ市場変更し、現職。著書に『ビジネスマンは35歳で一度死ぬ』(経済界)、『役員になれる人の「読書力」鍛え方の流儀』(明日香出版)。

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(オプトホールディング社長 グループCEO 鉢嶺 登)

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