「お菓子を与えて減量を促す」日経新聞の謎論理
プレジデントオンライン / 2019年10月3日 17時15分
■増税○、財政出動×の経済新聞という喜劇
2019年10月1日から消費税が10%に増税される。日本経済が消費増税によって腰砕けになることは経済政策上の議論を行うまでもない常識だ。そうでなければ、政府が増税した税収を原資に経済対策を行う必要がない。そして、弥縫策にすぎない付け焼き刃の政策は経済活動の現場に様々な混乱を引き起こすことになるだろう。
ところで、増税が日本の経済活動には明らかにマイナスなのにもかかわらず、それを社説で推進してきた経済紙が存在する。日本経済新聞だ。
参議院議員選挙後、19年7月24日同紙社説では、自民党・公明党の勝利を受けて「安倍晋三政権は10月の消費税率引き上げを円滑に実施すべきだ。ただ、社会保障・財政の改革はそれで終わりではない。消費税10%後の議論も始める必要がある」として、10%どころかさらなる増税を望んでいる。
さらに「当初から反対が強かった消費税だが、今回の選挙結果は、少子・高齢化が進むなかで累増する社会保障の財源確保には消費増税はある程度やむを得ないと考える国民が増えてきたことの表れではないだろうか」と論評している。
2019年参議院議員選挙の与党勝利の理由が「消費増税を支持したから」でないことは誰が見てもわかる。与党の勝因は小党が濫立している野党の選挙戦略上の無能な振る舞いであることは明らかであり、消費増税が選挙戦で与党勝利の要因としてプラスに働いたとは考え難い。因果関係がほとんどない出来事を結び付けて消費増税の正当性を主張する姿には極めて疑問が残る。
また、同紙は消費増税に伴う経済対策などで政府支出が増えることに慎重な姿勢を示している。19年9月1日社説では、政府の増税対策であるキャッシュレス決済支援などをやり玉に挙げ「消費増税は、社会保障の持続性を確保し、将来世代に大きなツケを残さないように財政の健全化を着実に進めるためのものだ。
政府は増税にあたり、この点を国民にしっかり説明」すべきだとし、19年8月1日社説でも政府が行う消費増税に伴う経済対策や20年度以降の予算措置について「過度な歳出増を続けることは望ましくない」「増税を上回る歳出を続けていては財政健全化はいっこうに進まない」と論評した。
■増税を実施する政権に歳出改革などできるわけがない
しかし、本当に歳出改革を推進したい場合、最も効果的な方法は増税を認めないことである。
政治家は「増税によって税収が増える」と判断すれば、同紙が社説で立腹しているように幾らでも非合理なバラマキを実施する。そうしなければ経済環境が悪化して政権支持率に響くことになるからだ。意志が極めて弱い人物に大量のお菓子を新たに与えながらダイエットを推奨するような話を真顔でするほうがどうかしている。増税を実施する政権に歳出改革などできるわけがない。
日本経済に明らかに負のインパクトを与える消費増税を肯定し、ほとんど何もインセンティブがない政治家の歳出改革に期待する経済紙などお笑い草もいいところだろう。
若者などの将来世代のためと謳いながら、彼らの現在の雇用環境を破壊する政策を推奨するなど冗談にも程がある。若者に必要なことは持続的な家計運営を可能とするスキルが身に付く雇用であり、そのためには増税ではなく減税による民間経済の刺激策こそが望ましい。当たり前の話であるが、若者の未来を切り開く経済成長政策こそが必要である。
消費増税による社会保障の持続性確保という建前を掲げたところで、所詮その本質は現役世代から高齢世代への所得移転でしかない。消費増税による景気悪化は若者の職業スキル形成と貯蓄形成を阻害し、中長期的な日本経済の足腰を確実に疲弊させることになる。世界的に競争が激化する中で、自国の企業の競争力の源となる国内市場を税制で縮小させる異常さを再認識するべきだ。
最後に、散々文句を言ったが、それは同紙がビジネス界の世論形成に果たす役割を高く評価しているからだ。理性的な経済紙として、現在の増税礼賛を改めることに期待する。
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早稲田大学招聘研究員
国内外のヘッジファンド・金融機関に対するトランプ政権分析のアドバイザー。米国共和党保守派やトランプ政権と深い関係を有する。
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(早稲田大学招聘研究員 渡瀬 裕哉)
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