橋下徹「なぜ小泉さんの言い方は批判されるか」
プレジデントオンライン / 2019年10月2日 11時15分
■リーダーの2つのタイプ
小泉進次郎環境大臣の言動については常に賛否が沸き起こっている。それだけ注目されている証だ。注目されていなければ話題にすら上らない。いちいち批判されることは、小泉さんにとっては面倒くさくて、鬱陶しいだろうが、それだけの立場になった以上、このようなことは一生続く。我慢ばかりは精神衛生上よくない。小泉さんは憂さ晴らしのためにも、たまには激しく反撃をしたらいいと思う。
さて、早速批判だが、小泉さんのこれまでの言動は、リーダーがやってはいけないことを、お手本のようにやってくれている。ゆえにリーダーシップ論においては、小泉さんは完全な反面教師になっている。今後改めるべきところは改めて、日本の若手政治家に刺激を与えるリーダーシップを発揮してもらいたい。
リーダーには、誰もが好む言葉を発し、誰からも批判を受けない言葉を発し続けて、しかし自分では実行しない(できない)リーダーと、批判を受けながらでも実行していくリーダーの2つのタイプがある。
リーダーがリーダーシップを発揮しなくても物事がうまくいく右肩上がりの状況では、前者のリーダーでよい。皆が機嫌よくやってくれる環境を作るのがリーダーの仕事となる。高度成長時代の政治リーダーなどはこのタイプでよかった。
しかし、リーダーがリーダーシップを発揮しなければならないときには、後者のリーダーが必要だ。課題が山積し、組織のメンバーでは解決できない困難な状況の時には、批判を一身に浴びながら課題解決に取り組むリーダーが必要となる。今の時代は、このタイプのリーダーが求められている。
(略)
■安倍首相と小泉さんはここが違う
小泉さんはこれまで、前者のタイプのリーダーをやってきたと思う。小泉さんの過去10年の発言を振り返る限り、国民が嫌がるようなことを言ったことを聞いたがことがない。もちろん、自民党の他の国会議員の中でも、国民が嫌がるようなことを言い続けてきた人は記憶にない。あえて言うなら、まさに安倍晋三首相・安倍政権くらいだ。
この10月1日から、消費税が8%から10%に増税となるが、安倍政権は2014年4月に5%から8%への増税も行っている。消費税を2回も増税した政権など歴史を振り返っても安倍政権だけだ。
増税は、政権にとって一番支持を失う要因だ。ところが野党は増税反対を叫びつつも、安倍政権を倒すことができなかった。
消費税増税については国民の中でも賛否両論がある。僕も今のタイミングでは増税すべきではないと思っている。
しかし政治家が評価されるのは、個別の政策の中身というよりも、「実行力」だ。安倍政権は、有権者から最も文句が出て、政治家が最も難題とする増税を2回もやり切った。その政策についての賛否はともかく、この「実行力」を国民は高く評価し、その結果、現在の安倍政権の安定的な支持率につながっているのだと思う。
(略)
小泉さんは大臣という立場で、これから実行力を示さなければならない立場に立つと、実行プランを常に意識しなければならない。繰り返しになるが、小泉さん以外の大臣や政治家の全てが実行プランを意識しているかと言えばそうではないだろうが、これからの日本の政治家には実行プランを常に意識してもらわなければ困るので、まずは小泉さんにそれを徹底的に求めたい。
■震災後の日本は気候変動問題をリードできない
実行プランを意識しなければ、現実離れした夢物語しか語れない。現実を知らない学者やコメンテーターはこの類だ。しかし日本に山積する課題を解決してもらわなければならないこれからの日本の政治家は、それだと困る。
そして、日本の環境政策、特に日本の気候変動問題への取り組みは、非常に厳しい環境にあるのであるが、このことを小泉さんは十分に認識せずに、いつもの風格を付けた調子でメッセージを発した嫌いがある。
結論から言えば、日本は気候変動問題への取り組みについては、今のままでは世界をリードすることなどできない。だから、世界から、特に気候変動問題への取り組みに神経質になっているヨーロッパからは厳しい目を向けられている。そのことを小泉さんは、どれだけ認識していたのであろうか?
日本が気候変動問題の取り組みで世界をリードできないのは、小泉さんがよく口にする「東日本大震災」が原因だ。
東日本大震災時に福島原発が大変大きな事故を起こした。その結果、日本においては原子力発電を推進できない状況になり、可能な限り原発を少なくしていく方向性になっている。
(略)
そうであれば、当然、火力発電を使わざるを得なくなり、二酸化炭素の排出量は多くなる。
(略)
このような客観的な状況の中、仮に日本が気候変動問題の取り組みで世界をリードしようと思えば、まずは原発の推進と火力発電所の削減を大胆に打ち出すしかない。
東日本大震災後の日本において、小泉さんにそれができるのか。
小泉さんは、「福島の皆さんに寄り添う」ということを言ってしまっているが、それでも原発の推進を言えるのか。
(略)
■「こうなってはいけない」典型例
いずれにせよ、これまで何でも威勢よく、かっこよく、風格を付けてやってきた小泉さんが、初の国際デビューのひのき舞台でさらにかっこよくやろうと思って失敗してしまった事例である。
「気候変動問題の取り組みで世界をリードする」
「福島の人を傷つけない。福島の人に寄り添う」
「原発を減らす」
「火力を減らす」
「産業界に負担を求めない」
これらのことは、口で言うだけなら、いくらでも言える。しかし実行するとなると絶対に並び立つものではない。現実を認識してれば、それくらいすぐに分かる。
逆に現実をしっかりと認識していなければ、並び立たないことを平気で言ってしまうのである。
リーダーはこうなってはいけないという典型例である。
(略)
今の小泉さんの弱点は、
「知らないことを知らないと言えない」
「言い回しがくどすぎる」
「言動に無理に風格を付けようとする」
「持論を固めていないことを言い切る」
というところであろう。
ゆえに、質問に的確に答えられず、「そういうことを聞いているんじゃないよ!」という突っ込みが一斉に入ってしまう。
(略)
小泉さんは、今、質問に的確に答える意識が必要だし、無理して風格を付ける話し方は止めた方がいいと思う。
(略)
(ここまでリード文を除き約2600字、メールマガジン全文は約1万2400字です)
※本稿は、公式メールマガジン《橋下徹の「問題解決の授業」》vol.170(10月1日配信)を一部抜粋し、加筆修正したものです。もっと読みたい方はメールマガジンで! 今号は《【38歳・小泉大臣(3)】なぜ小泉さんの言動が批判を呼ぶのか? 実行プランを持つ政治家になるため必要なこと》特集です。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、大阪弁護士会に弁護士登録。98年「橋下綜合法律事務所」を設立。TV番組などに出演して有名に。2008年大阪府知事に就任し、3年9カ月務める。11年12月、大阪市長。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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