1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

コーヒーブームなのに喫茶店が減っていく背景

プレジデントオンライン / 2019年9月27日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuri2000

1人でも立ち上げやすい喫茶店は、3年以内にその半数が倒産するという。なぜ、「念願のカフェ開業」はうまくいかないのか。経済ジャーナリストの高井尚之氏は「こうした店はロマンを追求するあまり、収支計画が甘い場合が多い。“カフェ”に対する消費者意識をとらえた工夫が必要だ」と指摘する——。

■「喫茶店」の倒産総数は、前年同期より35%増

9月13日、「喫茶店の倒産が年最多に迫るペース、消費増税後はテイクアウトと競合も」という記事が発信された。東京商工リサーチが、自社の調査データを基に実情を解説した記事だ。

それによれば、2019年1月から8月の「喫茶店」の倒産総数は42件(前年同期31件)で、前年同期比35.4%増と大幅に増加。「このままのペースで推移すると、過去20年で年間最多を記録した2011年の70件に迫る勢いだ」という。

ちなみに現在、メディアは「カフェ」を使うことが多いが、喫茶店もカフェも似た意味で使われることが多く(厳密には違う)、各種調査では今も「喫茶店」が用いられる。

また、「新規開業パネル調査」(2011~2015年。日本政策金融公庫調べ)によれば、飲食店・宿泊業の廃業率は「18.9%」となっており、全業種平均(10.2%)に比べて倍近い。同調査は、ホテルや旅館など宿泊業(調査時期的に“民泊”例は少ない)を含む数字だが、実質は数の多い飲食業を反映した数字といえそうだ。

喫茶店(カフェも含む)や飲食業への厳しい数字が目立つが、筆者はこれが特段珍しい現象とは思わない。もともとカフェは開業も廃業も多い“多産多死の業態”だ。最近では禁煙化の波に押され、スターバックスに代表されるような大手コーヒーチェーンの進出も受けて町の喫茶店は目に見えて数が減っている。「3年もつ店は半数」ともいわれるほどに厳しい業界なのだ。

一方で、“多死”である分、若手も次々に参入している。長年続くカフェ人気や、コーヒーブームの現状と事例を紹介しつつ、それでも倒産に陥る背景を考察したい。

■店舗は減っているのに、コーヒー輸入量は拡大

令和元年も4カ月を過ぎたが、平成時代に「喫茶店」(カフェを含む)の店舗数は半減した。総務省統計を基にした全日本コーヒー協会のデータで示すと、以下となっている。

・「12万6260店」1991(平成3)年
・「6万7198店」2016(平成28)年

店舗数の過去最高は1981(昭和56)年の「15万4630店」で、以後、店は減り続けた。

一方、コーヒー業界は拡大しており、例えばコーヒー輸入量は、直近の2018年は45万2585トン。この数字は1980年の2倍以上で、2000年に40万トンの大台に乗ってからは、19年連続で40万トン超だ。(いずれも生豆換算の合計。財務省「通関統計」を基にした全日本コーヒー協会の資料)。

つまりコーヒー輸入量は、1980年頃と現在では約2倍になったのに対し、喫茶店の数は逆に半減(約43.5%)となった。

最大の理由は「コーヒーを飲む場所」が増えたからだ。イートインも目立つ「コンビニコーヒー」が拡大し、レストランやファストフードもコーヒーは欠かせない。自動販売機や全国各地のカラオケボックスでもコーヒーは必需品だ。

昭和時代と令和時代では、取り巻く環境が激変した。ビジネスモデルで紹介しよう。

■カフェ経営で直面する「FLRコスト」とは

少し専門的な話になるが、飲食店の経営指標の1つに「FLRコスト」がある。

「F」はフードコスト(原材料費)、「L」はレイバーコスト(人件費)、「R」はレンタルコスト(地代家賃)を指す。優良ビジネスとしては「FLRコスト70%未満」が理想だ。

撮影=高井 尚之
東京・上野にある喫茶店「喫茶 マドンナー」 - 撮影=高井 尚之

例えば東京都心では、アルバイトの時給=1000円の時代だ。人件費(レイバーコスト)を抑えるためには、店主やその家族が店に入る必要がある。建物を所有していなければ家賃(レンタルコスト)もかかる。商品単価の低いカフェが利益を上げるためには、例えばネット通販でコーヒー豆を数多く売るなど、さまざまな工夫が必要だ。

喫茶王国と言われる愛知県では、中心部を離れると一軒家の喫茶店も多い。これを自家所有していれば家賃は不要で、家族経営していれば人件費も抑えられる。実際、筆者が子ども時代に通った喫茶店4軒のうち、今でも2軒が健在だ。以前、その1軒に話を聞いたが、両親が創業した店を娘(1955年生まれ)が継ぎ、その娘(創業者の孫)も手伝っている。

■コーヒーを多く売るだけでは足りない

原材料費(フードコスト)を抑えるためには、原価率の低い品を主力商品にしたい。普通はコーヒーだ。コーヒーオークションで高い豆を買わない限り、良質な豆を一括購入すれば、あまり原価率は高くならない。例えば、少し高く見積もって1杯分40円の原価の豆を、400円で提供すれば原価率は10%となる(これ以外に電気代やガス代はかかる)。

フードやスイーツを売り切る工夫も必要だ。東京都内の個人店(男性店主は30代)の場合、フードメニューは手づくりサンドイッチが中心。味には定評があり売り切れることが多いが、売れ残りそうな時もある。その場合は、SNSで「いつもは売り切れるサンドイッチが、今日は○個残っています」と告知する。すると、SNS上でつながっている常連客が買いに来て、売り切ることも多いそうだ。

カフェや喫茶店に限らないが、飲食店で経営努力をしない店は業績も厳しくなる。

■廃業に追い込まれる“理想と採算”の見極め

前述した「3年持つ店は半数」の定説を基に、開業して数年で廃業に追い込まれる理由を2つ挙げてみよう。以前も紹介したことがあるが、取材事例を変えながら考えたい。

(1)「自分の城」の理想形にこだわり過ぎる
(2)「収支計画」や「採算管理」が甘い

(1)は「ロマン」、(2)は「ソロバン」の話だ。具体的に考えてみよう。

例えば全生産量の3%ともいわれる「スペシャルティコーヒー」の品揃(ぞろ)えを充実し、徹底追求しようと、味の違いが分かる人をターゲットにした店を開業したとする。

メニューもコーヒー中心にし、フードもスイーツも置かない店にした場合、“コーヒー通”は集まるかもしれないが、家族連れなど客層の幅は広がらない。売上高=「客単価×客数」なので、よほど希少価値のあるコーヒーを高く設定し、多く売らないと売上高も上がらない。

撮影=高井 尚之
「喫茶 マドンナー」のミックスジュース(右)とバナナジュース - 撮影=高井 尚之

実は人気店には、コーヒー豆が売上高を支える店も多い。「1杯600円」のスペシャルティコーヒーを飲み、その味が気に入った客が「200グラム1500円の豆」を買えば、客単価は2100円になる。机上の空論に思うかもしれないが、筆者の取材先の実例だ。

また、夫婦で店を始め、夫や妻が「私の得意な料理を幅広く提供したい」とロマンを掲げたとしよう。この場合、メニューの幅を広げすぎると、仕込みも調理も大変になる。よく「1日限定20食」と掲げた個人店があるが、現実的な数字なのだ。取材では「週に一度の休日も、翌日以降の仕込みに追われて休めなかった」という話も聞いてきた。

女性の店主に多いが、五穀米のような身体にやさしいメニューを提供する店もある。味は好評な半面、「量が少なくおなかが満たされない」という声も聞く。「がっつり食べる女性」も多い時代だ。そんな消費者心理も踏まえながら、ロマンとソロバンの両にらみを続けなければならない。

■「コーヒーを飲む場所」が多様化した

筆者は、近年「カフェ」に対する消費者意識が大きく変わったと思う。理屈でなく、感性で行動する若い世代に顕著で、「ドリンクを座って飲めばカフェ」と考える人も目立つ。

大きな理由は「コンビニコーヒー」だ。2013年にセブン-イレブン・ジャパン(セブン)が仕掛けた「セブンカフェ」が成功し、初年度で4億5000万杯も出た。2018年は10億杯超に伸び、競合もコーヒーを強化した結果、コンビニコーヒーの市場規模は、2017年には推定2300億円台といわれる。喫茶店市場が1兆円規模なので、たった5年でその2割の規模に拡大した。

イートインできる店も増えたコンビニ店内のイスに座ってドリンクを飲む消費者は、無意識のうちに「小売店」ではなく、「カフェ」だと思っている。ファストフード店や低価格レストランもそうだ。ブログに「今日はこのカフェに行きました」と書き、ハンバーガーショップの画像を紹介する人もいた。

「コーヒーを飲む場所」が増えた時代は、消費者の意識も多様化するのだ。

■下町の「昭和レトロ喫茶店」に起きている変化

一方で興味深い話もある。「昭和レトロな喫茶店」が若い世代に支持されているのだ。

8月と9月、東京・上野の老舗喫茶店を訪ねた。8月は「珈琲 王城」、9月は「喫茶 マドンナー」に行った。いずれも当地で半世紀以上続いている店だ。統計をとったわけではないが、長年続く喫茶店が多いのは東京の下町、中でも上野と浅草だと思う。

撮影=高井 尚之
上野にある喫茶店「珈琲 王城」 - 撮影=高井 尚之

入店した2店とも、店内には若い客が多かった。インスタ映えをねらい、ドリンクやフードを撮影するのでもなく、思い思いに過ごしている。店主に話を聞いたが、「近年、外国人とともに増えている」という。今年筆者は、雑誌『東京人』(都市出版)の「純喫茶宣言!」特集号にも寄稿したが、若い世代の純喫茶好きを裏付けるシーンだった。

名古屋の老舗喫茶店では、ナポリタンスパゲティが、週末には200食も出る店がある。「かつてのイタリアンブームの頃は、古くさいと思われて1日数食しか出なかったが、昭和レトロ人気になってからは、安定して出ている」と経営者は話していた。

こうして考えると、カフェや喫茶店の総数が減って廃業が多いのは事実だ。だが新規開業も多く、やり方次第で活性化できる要因もありそうだ。筆者もノスタルジーではなく、「消費者心理」の象徴として、店の動向と向き合いたい。

----------

高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

----------

(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください