認知症とうつ改善の救世主になる栄養があった
プレジデントオンライン / 2019年9月28日 11時15分
※本稿は、古川健司『ビタミンDとケトン食 最強のがん治療』(光文社新書)の一部を再編集したものです。
■ビタミンDがうつ病を改善することがわかってきた
うつ病などの精神疾患が猛烈な勢いで世界に広がっています。
2017年、WHO(世界保健機関)が発表した世界のうつ病患者さんは、全人口の4.4%に当たる3億2200万人。55~74歳の発症率が最も高く、2005年から18.4%も増加しているとしています。
うつ病の大きな問題は、若年層の発症率が上昇傾向で、世界の自死者78万8000人のうち、うつ病が引き金と見られるものはその1.5%に当たります。なかでも15~29歳の若年層の死因の2番目が自死という現状。これは、うつ病が解決されなければならない世界的な重大課題であることを物語っています。
実は、ビタミンDにはうつ病を改善する作用があることもわかってきました。うつ病は、脳内の神経伝達物質の不活性化がもたらす疾患ですが、ビタミンDの受容体が脳内でも前頭前皮質や海馬、視床、視床下部などの部位に多く発現しているのが確認されています。
その結果、ビタミンDが脳を酸化ストレスから保護する一方、ドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の働きを改善させる働きがあることが明らかになったのです。
■ビタミンDのうつ改善効果は研究でも証明されている
ビタミンDがうつ病改善に有効であることを調べる研究は数多く残っています。その一つが、カシャン医科大学のセペルマネシュ博士らがイランで行った40人の大うつ病性障害(抑うつだけでなく、認知機能や睡眠にも障害をきたす自律神経系の精神疾患)患者さんを対象とする研究です。
週125ugのビタミンD投与群とプラセボ投与群との2群に分けて、8週間の経過期間を設けました。その結果、ビタミンD投与群のうつ症状に軽減傾向が見られたのです。この研究では、インスリン機能や酸化ストレスも、ビタミンD投与群のほうが改善したことが認められています。
また、テヘラン医科大学のコラマニャ博士らは、42人の大うつ病性障害患者さんを2群に分け、一方には抗うつ薬のフルオキセチン1日20mgとビタミンD1日37.5ugを投与。もう一方にはフルオキセチンのみを投与し、8週間の経過観察を行ったところ、ビタミンD投与群のほうが明らかにうつ症状が改善したと報告しています。
うつ病の発生は、ストレス過多が主な要因と見られています。ビタミンDの欠乏がストレスに拍車をかけ、うつ病を生じさせるのか。あるいは、うつ病の発症がビタミンDを欠乏させるのか。
その辺は議論の余地があるものの、砂糖などの糖質過多とミネラル不足が、うつ病のリスクを高めることは、すでに科学的に明らかになっています。
したがって、うつ病を改善・予防するためにはストレスチェックや産業医などによるカウンセリングだけでなく、食生活の見直し、さらにビタミンD濃度の定期的な測定も必要ではないかと、私は考えています。
■うつ病だけでなく認知症の患者も急増している
うつ病の増加とリンクする形で、認知症の急増も社会問題になっています。これは、長寿傾向に伴う現象でもありますが、厚労省のまとめた65歳以上の認知症高齢者数の推移を見ても、深刻化しているのがわかります。
それによると、2012年時点で、全国の認知症高齢者は、推計で462万人。認知症の出現率は1995年には6.9%だったのに対して、2012年には8.4%に上昇しているため、このままいくと2025年には700万人を超えるのではないかとする見通しを立てています。
さらに、認知症予備群である軽度認知障害の高齢者も、2012年時点で400万人いると推計されており、65歳以上の高齢者の5人に2人は、認知症かその予備群と言われているのです。
これに加えて、若年期認知症(18~44歳)や初老期認知症(45~64歳)と言われるものも、最近になって登場してきました。2006年から2008年にかけて全国5県2都市を対象に行われた調査によると、18~64歳までの認知症出現者は、人口10万人当たり47.6人と推定。男性の比率が高いことがわかっています。
この認知症の発生源として考えられているのが、脳血管性疾患やアルツハイマー病、頭部外傷の後遺症などです。
脳血管性疾患による認知症は多発梗塞性認知症とも呼ばれ、その言葉通り脳梗塞の発症後に発現する傾向があることがわかっています。
■ビタミンD不足は認知症にも関係している
一方、アルツハイマー型認知症は、アミロイドβというタンパク質が脳に蓄積されることで、情報伝達を司る神経細胞間のシナプスに弊害を及ぼします。これによって、著しい記憶障害を引き起こし、認知機能の低下を招くのです。このアルツハイマー型認知症は、現在日本人の認知症患者さんの約60%を占めています。
認知症がこのように急増の一途を辿る背景として、日本人の長寿化に加え、多すぎる炭水化物の摂取や肉食の増加に見る食の欧米化、さらにビタミンDの欠乏に問題があるのは明らかです。
アルツハイマー型認知症とパーキンソン病では、記憶を司る脳の海馬において、脳の老化防止・活性化を導くタンパク質や、脳内神経の回路の形成に関わるタンパク質が欠乏状態に陥っています。
■重度のビタミンD欠乏症の人は全員認知症になる
前記したように、ビタミンDの受容体は、この海馬にも多く出現しています。先にうつ症状を改善させる要因の一つとして、ビタミンD補充の必要性を挙げましたが、それが有効に働くのは、前記した2つのタンパク質の合成をビタミンDが促すからです。
同じような効果がアルツハイマー型認知症やパーキンソン病にも期待できるのは、英国エクセター大学の研究チームによって行われた以下の追跡調査からも容易に想像できるはずです。
同研究チームは、認知症がない歩行可能な65歳以上の高齢英国人1658人を対象に、血中ビタミンD濃度を測定し、平均6年にわたって認知症の発症状況などを調べています。
その結果、血中ビタミンD濃度と認知症発症の明らかな関係が認められました。10~20/ml未満の軽度欠乏群は53%、10/ml未満の重度欠乏群に至っては、実に125%もの確率で認知症を発症することがわかったのです。
アルツハイマー病そのものに関しても、軽度のビタミンD欠乏群で69%、重度の欠乏群では122%の発症リスクが認められました。
つまり、重度のビタミンD欠乏症の人は、例外なく認知症を発症するのです。
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医学博士
1967年、山口県生まれ。1992年、慶應義塾大学理工学部電気工学科卒業。その後、山梨医科大学医学部医学科に入学。1999年、消化器外科を志望し、東京女子医科大学消化器外科に入局。著書に『ケトン食ががんを消す』(光文社新書)。
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(医学博士 古川 健司)
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