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2歳児に「給食とり放題」をさせる保育園の狙い

プレジデントオンライン / 2019年10月7日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ziggy_mars

栃木県足利市の私立保育園「小俣幼児生活団」の給食は、2歳児からバイキング形式だ。子供たちは好きな物を好きなだけ食べられる。反対に食べなくてもいい。92歳で現役保育士の大川繁子氏は「子どもには、自分のことを自分で決める力がある。食事のバランスも、だんだん上手に調整できるようになっていく」という——。

※本稿は、大川繁子『92歳の現役保育士が伝えたい親子で幸せになる子育て』(実務教育出版)の一部を再編集したものです。

■自由に生きるには「考える力」が必要

5歳児のクラスでクリスマス会の歌を練習しているとき、ミズキちゃんがふざけて指揮を振っている私の真似(まね)をしてきました。みんなもそれを見て笑ってバラバラに……。

こういうとき、私はいつもこう尋ねます。

「ねえ、ミズキちゃん。いま、どうするのがいいと思う? 自分で考えてくれないかな?」

もちろんそれだけでは不親切。ですからちゃんと、

「指揮ってさ、みんなが見て、リズムや速さ、強弱を揃(そろ)えるためにあるんだよね。それなのに、指揮者が二人いたらみんながわからなくなっちゃうね」

と説明を加えてね。そのヒントを耳にし、どうするのがいいのか自分で考えてもらうわけです。ミズキちゃんは首をかしげて少し考えて、「歌う」と決めてくれました。

自由に生きるためには、考える力が不可欠です。

なーんにも考えないのも、言われたことを鵜呑(うの)みにするのも、自由に生きるための壁となります。

ですから私は、子どもたちに「自分で考えてね」って年中言っているのです。

■「先回りのしすぎ」も考える機会を奪う

子どもって、大人がやめてほしいことばっかりします。

はしゃいで、おちゃらけて、かわいいんですけどね。

でも、このとき一方的に「やめなさい!」で押さえつけると、考える機会を奪ってしまいます。「ママがやめろって言うからやめた」になっちゃう。

だから、自分で考えて、どうするか自分で決めてもらうのです。

同じように、先周りしすぎるのも子どもの考える機会を奪ってしまう要因になります。

「ほらほら、危ないでしょ!」「ほらほら、次はこうしなさい!」

……ね、覚えがありませんか?

喉まで言葉が出かかっても、ぐっと飲み込んで、静かに見守って。

子どもがつまずいたら、そのときはじめて気づいたような顔をして「こうしたらいいんじゃないかな?」「お手伝いしましょうか?」と提案すればいいのです。

■2歳以降の給食は「バイキング形式」

「自分自身について考える」

これ、あまり子育ての場面で語られませんが、とても大切なことだと思います。

自分の心と身体に向き合うって、健やかに生きていくうえで絶対に必要ですから。

うちの園では「自分について考える機会」をつくるため、2歳以降の給食はバイキング形式としています。自分でなにをどれだけ食べたいか考えて、調整してもらう。バイキングは、子どもが己を知る練習なのです。

お母さんたちは「先生、うちの子はバイキングなんて経験がありません。うまく選んで食べられるでしょうか……」と心配されますが、大丈夫、どの子もはじめはうまくいきませんよ。お皿に取りすぎちゃって、ぜんぜん食べ切れない子。ひと種類だけ、たっぷりよそっちゃう子。食が細く、ほぼ食べない子。いろいろです。

でも、そういうときも、ああだこうだと指示を出したりしません。

「今日の量じゃあ、多すぎたんだね」
「いっぱい食べたかったんだね。でも、ほかの子の分がなくなっちゃわないかな?」
「少しずつでもいろいろ食べると、お昼も元気に遊べるよ」

そんなふうに声をかけていくと、だんだん上手に調整できるようになっていきます。

■「食べねばならぬ」の幼児教育に支配されていた

一般的に、給食と言えば決まった献立を、決まった量で提供するでしょう。そうすると栄養バランスも取れますから、理に適(かな)っています。

それなのに、うちはなぜバイキング形式にしたか。

まず、食事は強制されるべきことではなく、楽しい時間であることが基本だからです。

そしてやっぱり、子どもには自分のことを自分で決める力があると信じているから。

大人だって、「今日はパン一つでいいや」と思う日も、「ああお腹が空いた、モリモリ食べたい」と思う日もあるでしょう。好き嫌いだって、多少はあるでしょう。

子どもも同じです。毎日、みんなと同じメニューを同じ量だけ食べさせられる。それがあたりまえというのは、ちょっとおかしいなと思うのです。

……と、えらそうなことを言っていますが、私も以前は昔ながらの保育をしていたおっかない保育士でした。

ちんたら食べる子どもを急かして、みんなが昼寝に入っても食べさせて、最終的には残りを口の中に突っ込んで布団に寝かせる。いま思えば窒息しかねないし、よくそんなことをしていたな、とおそろしく思います。

「食べねばならぬ」の幼児教育に支配されていたんですね。

一生懸命で、その子のためを思ってのことでしたが、「食べる」が楽しい体験にならなかったのは明らかです。保育園そのものに、イヤな記憶を持ってしまったかもしれない。申し訳ないことをしました。

■「身体や心の声」に気づける子を育てる

そんな保育に対して「おかしい」と声を挙げたのは、幼児教育のヨの字も知らない、完全なるシロウトだった次男、つまり園長です。

「そりゃ、無理やり食べさせたら栄養は偏らないかもしれない。けど、食事にはもっと大切なものがあるだろう」

はじめは「そんなこと言ったって、栄養が……」とか「保育の常識では……」と思いましたよ。できっこないって。

でも、バイキングをはじめてみて、子どもたちの表情を見れば、どちらが幸せかは一目瞭然でした。

お母さん、お父さん自身も、時間だからとなんとなくごはんを食べていませんか。

ほんとうにお腹が空いているか、食べる必要があるのか、なにが食べたいか。ぜひ、あらためて意識してみてください。

「最近、自分の内側の声に耳を傾けていなかったわ」と気づくかもしれません。

もちろん、食欲だけではありません。今日の体調は。心の様子は。調子はいいか。無理をしていないか——。

自分自身を見つめる習慣がついていないと、身体や心の声に気づくこともできません。子どもには、早いうちからその習慣を身につけてほしいと思っています。

■「食べない」の責任は自分で取る

お昼ごはんに関連して、もう一つ。

うちはそもそも、遊びに夢中だったりお腹が空いていなかったりして「いまは食べたくない」と子どもが思ったら、食べなくてもかまいません。保育士は「お昼の時間だけど、どうする?」と聞きますが、決めるのは子ども本人です。

ただ、「食べない」と言っても、ほんとうに食べなければ、当然あとでお腹が空いてきます。そのとき子どもが「先生、ごはんほしい」と言ってきたら、「あら、さっきはいらなかったけど、やっぱりお腹が空いちゃったのね」なんてお話ししながら、一緒にごはんを探しに行くのです。

もし、まだクラスのバイキングのお皿に残りがあれば、「どうぞ」。

クラスにもう残りがなかったら、「おいしくてみんな食べちゃったんだね。困ったね。じゃあ、となりのクラスを見てみようか」。

そこにもなければ、「給食のおばちゃんのところに行ってみようか」。

給食室にもなければ、「なかったね。みんな食べちゃったんだね」と言っておしまいです。運がよければ食べられるけれど、そうでなければ自分で自分の選択の責任を取るしかないね、というわけです。

■「先生、取っておいてね」に変わる

ただね、子どもって利口なの。だんだん、「食べない」から「取っておいて」と言うようになってくる。「大川先生、ぼくの分、取っておいてね! あとで食べるから!」って。

けれど、その子の分を取っておくと、また別の問題が起きます。いつまでも食べないと、おかわりしたい子が「先生、あそこに残ってるやつ食べたいよ!」と主張し出すのです。それに、いつまでも取っておくと衛生面も心配でしょう。

そこで、子どもたちとルールを決めることにしました。

「みんな、お昼ごはんを取っておいてほしいときがあるよね。でも、食べるか食べないかわからないとおかわりしたい子がかわいそうだし、ずっと置いておくと腐ったりして危ないの。さて、どうしましょうか」

みんなでああだこうだ意見を出し合った結果、「取っておく時間を決めよう」ということになりました。時計のながい針が3のところになるまで(13時15分まで)は、取っておいてあげよう。それを過ぎたら、ほしい子にあげちゃおうって。

■「自分」で決めたルールを子どもたちは守る

そのルールをつくったのは「みんな」、つまり「自分」でもあるわけです。

だから、子どもたちはちゃんと守ります。食べたかったら13時15分になる前に戻ってくるし、遊びに夢中で決めた時間を過ぎてしまったら、ほかの子が食べても文句は言わない。

大川繁子『92歳の現役保育士が伝えたい親子で幸せになる子育て』(実務教育出版)

でも、そういうときはお腹が空いて仕方がないから、次は同じ間違いをおかさないよう慎重になりますね。

こんなふうに、なにかを決めるときに保育士が一方的にルールを押しつけることはありません。みんなで考えて、話し合って、納得できるルールを決めるのです。

ときにはお題自体も子どもたちから出てきます。

ケンカも、子ども同士で仲裁し合っています。

大げさかもしれないけれど、民主主義の基礎がつくられているんじゃないかしら。

ありがたいことに、小学校の先生や周りの大人の方々から「小俣幼児生活団にいた子どもたちは問題解決能力が高い」と言っていただけるのは、こうした保育のおかげかなと思います。

おうちでも、親が決めたルールを子どもに守らせるのではなく、一緒にルールを決めてみてはいかがでしょうか。

反発心の強いきかん坊でも、「自分が考えて決めた」という意識が芽生えれば、得意げに守ってくれるかもしれませんよ。

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大川 繁子(おおかわ・しげこ)
小俣幼児生活団 主任保育士
足利市小俣町にある私立保育園「小俣幼児生活団」の主任保育士。1927年生まれ。1945年、東京女子大学数学科入学。1946年、結婚のため中退。1962年小俣幼児生活団に就職し、1972年に主任保育士となり、現在に至る。足利市教育委員、宇都宮裁判所家事調停委員、足利市女性問題懇話会座長などを歴任。モンテッソーリ教育やアドラー心理学を取り入れた創立70年の同園で、およそ60年にわたり子どもの保育に携わっている。

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(小俣幼児生活団 主任保育士 大川 繁子)

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