菅義偉「読売の"人生案内"を欠かさず読む理由」
プレジデントオンライン / 2019年11月6日 15時15分
■『三国志』で学んだ、政治と人間関係
本は大好きなのですが、内閣官房長官の仕事は忙しく、なかなかじっくり読書する時間が取れません。毎朝すべての全国紙を読むだけでも40~50分かかっていますから。各紙の内容とNHKの朝6時のニュースを見ていくと、世の中の動きがわかってくるんです。みんなどういうものに関心を持っていて、どんなニュースが流れているか、そのチェックだけは欠かせません。
ちなみに、新聞は社説も読みますし、理解を深めるために声に出して読むこともあります。
高校生のころから愛読しているのは読売新聞の「人生案内」という人生相談コーナー。「世の中にはいろいろな人生があるものだな」などと思いながら読んでいます。まず相談内容だけを読み、自分で答えを考えてから回答部分を読みますが、今ではだいたい一致するようになりました。頭の体操みたいなものですね。
そのうえでまず、紹介したい本は『三国志』です。これは学生時代から読んでいます。最初に触れたのは吉川英治さんの小説だったでしょうか。作中では登場人物が仲良くなったり裏切ったりの連続。どの武将が好きというよりは、局面によって変化していく人間関係を読みます。忠節を尽くす人もいれば、妬みを抱える人も現れます。そういうところは時代が今の世の中でも全然変わらないですよね。『三国志』は人間社会や人間そのものについて教えてくれたと思っています。政治の世界に通じるところが多いと感じています。
![](https://president.jp/mwimgs/e/e/220/img_eeb1760bd958da665ba74d0632a69c81229451.jpg)
学生時代は勉強はしませんでしたが、もともと読書は好きで、特に歴史ものを読み込んでいました。みんな織田信長や豊臣秀吉、徳川家康あたりはよく読むではないですか。そんな中、横浜市議会議員選挙に出る前後だったでしょうか、本屋で見つけたのが、秀吉の弟について書かれた堺屋太一さんの『豊臣秀長――ある補佐役の生涯』でした。
参謀に関する本もいろいろありますけど、このようなストーリー形式で書かれた本というのはなかなかないのではないでしょうか。農家の生まれで何もないところからスタートした豊臣秀吉がどうして大成できたのかはもともと気になっていたことでもあります。
豊臣秀吉の本の多くは、だいたい秀吉のいいところしか書いていない。でも彼が世に出た裏には、やはりこういうしっかりとした支えがあったのだということを、当時非常に納得しましたね。信長との関係性の変化など、秀吉にはいろいろなことが降りかかりますが、秀長のようにいつでも裏で必ず守ってくれる存在があったからこそ天下が取れたんだなと。
■“判断する人”に読んでもらいたい
![](https://president.jp/mwimgs/c/b/220/img_cb87ab64e1ef925b2f4e951b03abe254220927.jpg)
秀吉は最初、自分が天下を取ることなど考えていません。それがいつの間にか、たまたま秀長の支えを得たことを機に、大きな時代の流れの中で突出していきますよね。なぜ秀吉がああいう形で伸びていったのかというのがこの本を読むことによってよくわかりました。私と秀長を重ねる人もいますが、官房長官はそれほど裏方でもありません(笑)。官房長官は一日に2回記者会見をやって、表舞台にも出ていますから。
とはいえ、政権を運営するのはものすごく大変です。秀吉のころと同じく、いいときばかりは続かない。予期せぬことが次から次へと起こりますから。この本からは、リーダーが困難に直面するときこそ裏でしっかり支えなければならないということを学び取ることができます。判断は総理自身がする必要もありますが、こちら側から総理に対してさまざまな情報や状況をしっかり伝えることが大事になります。今何を考えて、何をやらなきゃまずいか。
それは国家運営でもそうですが、会社経営においても同じじゃないですかね。だからこそこの本は、自分で物事を判断するべき立場にいる経営者に読んでもらいたい一冊です。人生とはこういうものではないかな。1人では生きていけないというか、誰かそういう人がいなきゃ回りません。
コリン・パウエルさんの『リーダーを目指す人の心得』という本は官房長官になる前後に読みました。
官房長官就任後は毎日2回の記者会見をするようになりましたが、大臣の会見とはまるで勝手が違う。大臣のときは週2回、所管のことだけを話していましたが、官房長官となった今は、世の中で起きているありとあらゆることについて政府の公式見解を述べる必要があるわけですから、やっぱり構えてしまいます。
パウエルさんは黒人で初めて米軍制服組のトップになり、国務長官になるわけですけど、やはり「記者会見が大変だ」と書いてあるんですよ。自分の一言が世界に影響するわけですから。それに、記者は引っかけの質問も多いからひどく悩んだということも書いてあります。
■なにごとも、思うほど悪くない
そのときパウエルさんが気付いたのが「記者には質問する権利があるが、私には答えない権利がある」ということ。そう思ったら楽になったとありました。その言葉を読んだ私も気が楽になったのを覚えています。
![](https://president.jp/mwimgs/0/3/220/img_038ffd114d9799dfdd11fb3ffd573099206946.jpg)
この本にはパウエルさんの13カ条のルールが紹介されているんですけど、これも非常にわかりやすい。
例えば、私はけっこう細かいんですよ。何かを判断する前には、いろんな細かいことを聞いていますよ、間違ったら大変ですし。「有効求人倍率0.83が今は1.61に上がった」とか、「外国人観光客の増加率は」とか、自分でもわかってはいるんですが、チェックも兼ねてよく秘書官に数字を聞きます。自ら確認して安心感を得るみたいな感じです。役所には「そんな細かいことまで長官が気にする必要はない」と言う人もいるかもしれませんが、パウエルさんは13カ条のひとつに「小さなことをチェックすべし」と書いている。これも私にとっては非常になるほどなと思いましたね。
私は自分のスタンスははっきりしていて、その本筋がいったん明確になれば、その時々でぶれることはあまりない。いろいろな政策判断の場面や、会見などでも、その本筋の範囲内で決断し、発信するようにしている。けれど、その本筋を間違いなく決定するためには、小さなことをチェックしておく必要があるとも思っているんです。世の中にはそうは思わない人のほうが圧倒的に多いと思います。ですが、パウエルさんの言葉で自分なりに確信を持つことができた。指導者というものは、まずは現場を全部知らなきゃ駄目だと。細かいことを自分が知っていてやるのと、知らないでやるのとでは全然違うのではないでしょうか。
パウエルさんの本に特に助けられたのが、2015年の平和安全法制の国会審議のとき。このときの審議時間は200時間以上にわたり、参議院で最後に大揉めに揉めた。私も「これはもう無理じゃないかな」との気持ちがよぎった際に思い出したのが、彼の13カ条のルールのひとつである「なにごとも思うほどには悪くない。翌朝には状況が改善しているはずだ」という言葉です。
■時には楽観的になってみるもの
時間が経てば状況は変わる、時間が解決してくれるとよく言うじゃないですか。それと同じように、「一晩寝て起きれば状況は変わっているはずだ」と、時に楽観的になってみること、自信を失わず諦めないことが重要だという助言は、やっぱりその通りでしたね。「これで限界」じゃなくて、信じて諦めなければうまくいくんですよ。
![](https://president.jp/mwimgs/1/a/220/img_1a3d860e67af48b5acc365b215c49c0c206161.jpg)
私は、世論というのはその時々の感情を大きく反映するものだと思っています。そんな中で本質、理性を見失わず、間違っていないと信じることを自信を持ってやり続ければ、時間経過の中で局面を変えることができると思います。平和安全法制も当時は「徴兵制復活」「戦争法案」とか言われていましたが、今、当時のような批判する人はいませんよね。
前駐日米国大使のウィリアム・ハガティさんとは親交がありましたが、彼は私がこの本を愛読していることを知り、離任直前のある日、パウエルさんの直筆サイン入りの自伝の原書をプレゼントしてくれました。引退後、英語を勉強して、いつか読めたらいいなと思っています。
![](https://president.jp/mwimgs/b/7/670/img_b7e273dd7a1faa5b7087bcd065abdb9d1058259.jpg)
----------
内閣官房長官
1948年、秋田県生まれ。高校卒業後上京し就職。法政大学卒。代議士秘書、横浜市議を経て、96年衆議院選挙で初当選。以後6期連続小選挙区当選。元総務大臣。大臣当時にふるさと納税を創設。現在、内閣官房長官。著書に『政治家の覚悟』。
----------
(内閣官房長官 菅 義偉 構成=いつか床子 撮影=大沢昭一 写真=AFLO/時事通信フォト)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
浜辺美波、AIで復活させたいのは卑弥呼!「いまの日本を見てほしい」
映画.com / 2024年7月26日 15時35分
-
菅義偉前総理 国際教養大20周年式典で基調講演 墓参りでは同級生と旧交
ABS秋田放送 / 2024年7月22日 18時23分
-
赤楚衛二、坂本龍馬役と行ったり来たりで会場爆笑 GACKTは困惑「次にしゃべるのはハードル高い」
ORICON NEWS / 2024年7月16日 18時44分
-
赤楚衛二が坂本龍馬に、GACKTが織田信長になりきる まさかの展開に共演陣「やるなら最初に言ってください!」
ORICON NEWS / 2024年7月16日 18時43分
-
「豊臣秀頼は本当に秀吉の実子だったのか」女性に囲まれていた秀吉が50代になって急に子宝に恵まれる不思議【2023編集部セレクション】
プレジデントオンライン / 2024年7月4日 7時15分
ランキング
-
1年金15万円・81歳の母だったが、55歳長男が「私の老後は絶望的です」と悲観する「親の老人ホーム請求額」に驚愕
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月28日 10時15分
-
2恋人としては良いけど… 男性が「結婚をためらう女性」の特徴とは
ananweb / 2024年7月27日 20時15分
-
3女性から自然と「好かれる/嫌われる男性」に共通している“6つの特徴”
日刊SPA! / 2024年7月28日 8時52分
-
4「熟年離婚」「ローン一括返済」「冬のマラソン」65歳をすぎて“やってはいけない”10のこと
週刊女性PRIME / 2024年7月28日 11時0分
-
5これは今すぐ試したい!岡山県が提唱する、驚くほど簡単で綺麗な桃の切り方とは。≪実際にやってみた≫
東京バーゲンマニア / 2024年7月27日 19時9分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
![](/pc/img/mission/point-loading.png)
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください
![](/pc/img/mission/mission_close_icon.png)