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日本一働きたい会社を作った"ファクトと楽観"

プレジデントオンライン / 2019年10月21日 9時15分

LIFULL 社長 井上高志氏

▼業界と会社の10年後を見通す経営書
書物や人から知恵を借り、「あるべき未来」を追求しています

■共有型経済の先にあるもの

ロスリングほか『ファクトフルネス』(日経BP社)は、「データや事実にもとづき、世界を読み解いていこう」と提案する本です。ここでは人々の世界についての理解が、いかにイメージ先行であるかが鮮烈に示されます。経営者は思い込みに囚われると経営を誤ることになるため、事実に基づいて判断することが特に重要です。

一方、ディアマンディス、コトラー『楽観主義者の未来予測』(早川書房)は、何かと悲観的な未来予測が多い中で、「世界は確実に良くなっている」「水、食料、住宅、教育、医療、エネルギーなどが全ての人々に行き渡る世界は必ず実現できる」と説いています。

私の好きな言葉にアラン・ケイの、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」があります。ケイはパーソナルコンピューターという概念を提唱し、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズに大きな影響を与えた科学者です。つくりたい未来を示し、「こっちに向かおう」と世界を引っ張り、実現する。私も「あるべき未来とはどんなものだろう」と思い描きつつ、日々努力しています。

事業を通じてよりよい未来をつくり出すうえで、何を自分が解決すべき社会課題とすべきなのか。これについて示唆を受けたのが、リフキン『限界費用ゼロ社会』(NHK出版)です。ここで著者は「テクノロジーの進歩により、モノやサービスを生み出すコスト(限界費用)は限りなくゼロに近づき、企業の利益は消失して、資本主義に代わって共有型経済が広がってゆく」と説きます。

私たちは「住まい」を扱う事業を行っていますが、人間の暮らしの中で最も限界費用が高いのが住まいです。そこで「場所の制約からの解放」をミッションとして、2019年から新しいプロジェクトを始めました。個人が住まいを所有するのではなく、ごく低額の費用さえ払えば、世界のどこでも自由に住め、そこで仕事もできるという社会を構築する試みです。私自身、書物やさまざまな人の知恵を借りながら、「あるべき未来」を追求しているのです。

▼新たな視点で世界をとらえる歴史書
数万年以上のスパンで見なければ今の自分の立ち位置もわからない

■100年後を見据えたビジョン

経営者にとって重要なのは、50年後、100年後の未来を考え、「100年後にどういう社会をつくっていくべきか」というビジョンを持ち、高い視座から事業を発展させていくことだと考えます。

竹村真一氏が中心となって開発した「触れる地球」。(読売新聞/AFLO=写真)

ハラリ『サピエンス全史』(河出書房新社)は、人類が誕生した7万~8万年前まで遡り、「農業」「貨幣」など、人類史上でどんな革命が起き、それが人類にどのような影響を及ぼしたのかを論じます。歴史の解釈は人により様々で、本書の解釈も著者独特のものですが、マクロな視点から今の世界のありようを考えさせられる良書です。

同じ著者による『ホモ・デウス』(河出書房新社)は人類の未来について考察した本で、『サピエンス全史』と合わせて1つのシリーズのようになっています。デウスとはギリシャ神話の最高神ゼウスのことで、著者は本書で「人類はこれから神の領域に入っていく」と説いています。

私は「100年後の未来社会はどうあるべきかを知るために、古今東西の叡智を集めよう」と考え、2014年に「ネクストウィズダムファウンデーション」を創設しました。かつて坂本龍馬らが集った寺田屋のように、志士たちが集まって国を憂い、議論をする場をつくろうと始めたものです。始めた時点では100年後の世界など想像もつきませんでしたが、6年間活動を続け、様々な方にお話をうかがうなかで、最初はぼんやりしていたイメージが少しずつ立体的になってきました。

たとえば財団の評議員をお願いしている京都造形芸術大学教授の竹村真一さんは、デジタル地球儀「触れる地球」で知られ、本書の著者ハラリと同じように地球の歴史を俯瞰し、137億年前の宇宙の誕生から電子顕微鏡レベルの話にまで自由に行き来する方です。

身のまわりしか見ていないと、自分が今、歴史上のどこに立っているのかわかりません。今の時代を知るにも未来について考えるにも、人類誕生まで遡って初めて見えてくることがあるのです。

■GDPと幸福度に相関なし

今の世界は各国が経済的繁栄を求めて競っていますが、GDPと国民の幸福度には相関性がないというのが、専門家の一致した見解です。つまり世界は人々が幸せになるためとは異なる、間違った目標を追い求めているのです。

では現在のものに代わる新しい社会システムを、どうやってつくっていくのか。目標にすべきは人々の幸せです。そこで18年に幸福に関する学術研究の助成や普及を目指す「LIFULL財団」を設立し、また「幸せは大事だ」という考えを人々に共有してもらうために、「PEACE DAY財団」も立ち上げました。

LIFULLの経営理念も「常に革進することで、より多くの人々が心からの『安心』と『喜び』を得られる社会の仕組みを創る」としています。

今の社会システムでは、世界人口が100億人になったら破綻してしまうでしょう。人類の叡智を集め、100億人が200億人であっても幸せに生きられる社会を実現しなければなりません。

▼自らの原点を深く認識する哲学書
「論語」と「算盤」を高い次元で両立させることが経営です

■起業したてのころに読んだ本

初めて稲盛和夫さんの著書を読んだのは26歳、私がサラリーマンを辞めて起業したばかりのときでした。それが『成功への情熱』(PHP文庫)です。

稲盛和夫氏(左)と渋沢栄一。(右:毎日新聞社/AFLO、=写真)

稲盛さんは誰にでもわかりやすい、語りかけるような言葉と文章で、「利他が大事だよ」「人間ってこういうもんだよ」と説いておられます。初めて読んだときは、まだ「利他」という言葉もあまり知られておらず、私も「利他って何だ?」から始まったのですが、今ではLIFULLの社是も「利他主義」としているほどです。

稲盛さんの著作の中で、初めての方にお勧めしたいのは利他などについてわかりやすく説いている『生き方』(サンマーク出版)です。私自身は『京セラフィロソフィ』(同)を日々持ち歩いています。

経営者としての私をつくってくれた稲盛哲学。その教えを実践すること、そして後の世代に引き継いでいくことが恩返しだと思っています。幸い最近は若い経営者の中にも、稲盛さんのように心の持ち方を重視し、自らの手で社会的課題を解決しようという人が増えてきていると感じます。

渋沢栄一『論語と算盤』は明治の大事業家による語りおろしで、当時の大ベストセラー。守屋淳訳『現代語訳 論語と算盤』(ちくま新書)がわかりやすいでしょう。

ここで説かれているのは、「商売をする者は心の持ち方と事業、両方をしっかりしなければいけない」ということです。

江戸時代には武士はずっと論語(道徳)を学んでいたわけですが、時代が変わり、武士という職業・階級はなくなってしまいました。「これからは武士も算盤(事業)をやらなければだめだ」となったわけです。さらに渋沢栄一は「商人も算盤を使うだけでなく、論語を読まなければだめだ」と、商道徳の大事さを説いています。

■究極的には「利他」を選ぶ

「LIFULLは『利他』を社是としていますが、上場企業である以上、利益を上げていかなくてはならない。これは矛盾しませんか」。セミナーなどでよく受ける質問です。そういうとき、私はこの本を引き合いに出して説明します。

いくら利他を掲げても、経営者が事業に失敗してしまったら、従業員は仕事を失い、家族を養うこともできません。それでは人を幸せにするどころではないでしょう。だから私は「『論語』と『算盤』を高い次元で両立させることが経営だと思っています」と断言します。

ただ、それでもどちらかを選ばなければならない、という究極の判断を迫られたとしたら、私は「論語」すなわち「利他」を選びます。そもそも自分は何のために事業を始めたのか。そう自問すれば、答えは明らかだからです。

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井上 高志(いのうえ・たかし)
LIFULL 社長
1968年、横浜市生まれ。青山学院大学経済学部を卒業後、リクルートコスモス入社。97年に独立、現職。日本最大級の不動産・住宅情報サイト「LIFULL HOME’S」を展開。

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(LIFULL 社長 井上 高志 構成=久保田正志 撮影=永井 浩、若杉憲司 写真=読売新聞/AFLO、毎日新聞社/AFLO)

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