1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

なぜ、一流は「数」と「数字」に差にこだわるのか

プレジデントオンライン / 2019年10月14日 17時15分

■「数」と「数字」の違いを説明できますか?

「数」と「数字」。普段なにげなく使っている2つの言葉だが、違いを説明できるだろうか? そう問われて、きちんと答えられる人は少ないだろう。そもそも、そんな問題にすら出合ったことがない。

双方の違いを普段気にしているのは数学者くらいであろう。これからその答えを説明していくが、実は容易ではない。読者の皆さんは、小学1年生の算数の教科書で最初に習ったのが、「かずとすうじ」だったことを覚えているだろうか。「かずとすうじ」こそ、その後10年以上続く数学学習の入り口なのである。

結論を急ぐことにしよう。数は「概念」であり、数字は「数の象徴(シンボル)」なのである。問題は、私たち人類が小学1年生の算数の教科書の最初「かずとすうじ」に到達するまでの実に長い経緯にある。そのことがさらっと教科書には描かれている。概念やシンボルなどといった大人にしかわからない言葉は、そこには一切登場しない。

図のように犬と牛がいたとして、それをじっと眺めていると、私たちは「犬が2」とか「牛が3」と、頭のなかに数が現れてくる。しかし、数の存在に気づいていなかった時代の人々はそうならなかった。

動物を狩りしていた石器時代には、獲物を何頭つかまえたか、その数を石を使って記録していたと考えられている。獲物1頭につき石を1つ置くという具合である。そうした数の記録で人類最古のものと言われているのは、アフリカのスワジランドの洞窟で発見された約3万5000年前のヒヒの骨に刻まれたものだ。

■数は概念・イデアの存在だということ

目に見える獲物や石を数十万年眺め続けてようやく、それらの背後にある数という「考え方(アイデア)」に到達した。これが数は概念・イデアの存在だということである。そして、見えない数を目に見える「数の象徴・形」にしたものが数字であるが、数が概念として認識される以前に数字の発明が世界中でなされていく。

現在、世界中で広く使われている「0123456789」というアラビア数字は、もともとインド人が考えたインド数字が8世紀頃にアラビアに伝わり、その後ヨーロッパに伝わって発展したもの。ローマ数字や漢数字に対して、アラビア数字は計算に圧倒的に有利であり、「アラビア算用数字」と呼ばれる所以だ。15世紀にグーテンベルクの活版印刷の発明でアラビア数字は一気に普及した。

ちなみに、「計算する」「計算機」という英語はそれぞれ「calculate」「calculator」で、「石」を意味するラテン語の「calculus」に由来している。計算の大本が、石器時代の石とつながっているというのは興味深いではないか。

数と数字の違い――。それは目に見えない存在が数で、目に見える存在が数字だということ。だから「数字を足し算する」は誤り。数字を足すことはできず、「数を足す」が正しい。

もちろん、数と数字の違いを知らないことが、日常生活で深刻な問題を引き起こすことはない。「数字」でほとんどの言いたいことは通じる。しかし、数と数字はまったく違うものであり、数学の世界は数字ではなく数というイデアの世界であることを知ることは極めて重要である。

----------

桜井 進(さくらい・すすむ)
サイエンスナビゲーター
1968年生まれ。東京工業大学理学部数学科卒業、同大学大学院博士課程中退。2000年、日本で初めてのサイエンスナビゲーターとして活動を開始。『面白くて眠れなくなる数学』など著書多数。

----------

(サイエンスナビゲーター 桜井 進 構成=田之上 信)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください