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なぜ各国の代表は16歳の少女に圧倒されたのか

プレジデントオンライン / 2019年10月1日 19時15分

第74回国連総会 気候行動サミットで、トランプ米大統領をにらみつけるグレタ・トゥンベリさん。 - 写真=ロイター/アフロ

■「すべての未来の世代の目はあなた方に向けられています」

あのアメリカのトランプ大統領もたじたじだったし、日本の環境相として国際社会の檜舞台に立った小泉進次郎氏も存在感がなかった。

9月23日、ニューヨークの国連本部で開かれた「気候行動サミット」で演説した、スウェーデンの高校生環境活動家、グレタ・トゥンベリさん(16)のことである。彼女の演説はほかのだれよりも注目を浴び、各国の政府代表はみな圧倒されていた。

「私たちはあなたたちを見ている」
「すべての未来の世代の目はあなた方に向けられています。私たちを裏切るなら決して許しません」
「もう逃がさない」

各国代表に力強い口調で訴えかけ、早急な温暖化対策を求めた。とても16歳の少女とは思えない。感激屋の沙鴎一歩は仕事場のテレビで演説の様子を見ていたが、彼女のストレートな怒りに思わず涙が込み上げてきた。

■「きれいな空気や水を求めている」ととぼけたトランプ氏

気候行動サミットでは、国連のグテレス事務総長が「77カ国が2050年までに温室効果ガス排出を実質ゼロとする目標を公表した」と明らかにした。

しかし、各国の姿勢には依然、大きな温度差があり、世界全体の排出増は止まらない。主要排出国の動きは鈍く、世界2位のアメリカと5位の日本は気候行動サミット上の問題から発言する機会さえ与えられなかった。

トランプ氏は当初、不参加の予定だった。しかし突然会場に現れ、記者団に「私はきれいな空気や水を求めている」ととぼけていた。会場に用意された席に10分ほど座った後、姿を消した。

来年から本格的に運用が始まる気候変動抑制を目指すパリ協定からアメリカは脱退する。トランプ氏は地球温暖化の問題など、本気で考えていない。トランプ氏の頭の中には、来年11月の大統領選しかないのだろう。

■トランプ氏の皮肉に、さらなる皮肉で応戦する度胸

興味深いのが、ロイター通信が配信した写真である。記者団から質問を受けているトランプ氏に対し、背後からグレタさんがにらむような視線を送っている。

グレタさんと地球温暖化対策に消極的なトランプ氏との“戦い”をみごとに象徴しており、この写真が話題になるのはよくわかる。

2人の“戦い”は今後も激化するだろう。トランプ氏は、グレタさんについて「明るく、すばらしい未来を楽しみにしているとても幸せな少女のようだ」とツイッターに書き込んだ。

これを見たグレタさんはツイッターのプロフィールに「明るく、すばらしい未来を楽しみにしているとても幸せな少女」と書き込んだ。トランプ氏が投稿した皮肉交じりのツイートに対して、皮肉で応戦したのだ。16歳の少女にしては出来過ぎだとも思うが、彼女は本物なのかもしれない。

グレタさんは一時的にTwitterのプロフィールを「明るく、すばらしい未来を楽しみにしているとても幸せな少女」と変えた。(写真=グレタさんのTwitterより)

■トランプ応援団のFOXテレビもグレタさんに謝罪

アメリカではFOXニュースが23日に放送したテレビ番組で、出演者の男性評論家が「彼女は精神的に病んでいる。両親や左翼に利用されている」と発言し、問題となった。この問題ではFOX側が早々に謝罪している。FOXはトランプ氏に好意的なテレビ局だ。そのFOXが謝罪するということは、“グレタ対トランプの戦い”は、いまのところグレタさんが優勢のようだ。

ちなみにグレタさんは「自分はアスペルガー症候群」と公表し、「アスペルガー症候群は才能であって決して障害や病気などではない」という問題提起も行っている。

アスペルガー症候群とは広い意味での「自閉症」のひとつのタイプで、幼児期に言語発達の遅れがなく比較的わかりにくいが、成長とともに対人関係の不器用さがはっきりすることが特徴だ。あの演説から判断する限り、たしかにアスペルガー症候群が病気だとは思えない。

■ジャンヌ・ダルクを連想させる女性たちの活躍

演説でのグレタさんの迫力を見て15世紀のフランスの国民的英雄とされる少女、ジャンヌ・ダルクを連想した。

同時に民主主義と自由を求め、中国の習近平(シー・チンピン)政権と戦う香港の22歳の活動家、周庭(英名・アグネス・チョウ)さんや、頭部に銃弾を受けても負けずに女性への教育を求め続け、2014年に17歳でノーベル平和賞を受賞したパキスタン出身の人権運動家、マララ・ユスザイさんを思い出した。

世界中にポピュリズム(大衆迎合主義)がはびこり、トランプ氏のような自国第一主義を唱える政治家に人気が集まる一方、周さんやマララさん、そしてグレタさんのような、いわゆる草の根の若い女性たちが自由を求めて活躍している。

ポピュリズムと民主主義、自国第一主義と博愛主義。いまや時代はカオスの嵐の中に突き進もうとしている。

■「大西洋をヨットで横断」の資金はどこから出たのか

報道によると、グレタさんはスウェーデンの首都ストックホルムの出身。昨年9月のスウェーデンの総選挙で議会前に1人で座り込みに入り、地球温暖化を防ぐ対策を求める活動を始めた。選挙後も毎週金曜日に学校を休んで座り込みなどの活動を続けている。

こうした彼女の活動が注目を集め、昨年12月にはポーランドで開かれた国連の気候変動枠組み条約会議(COP24)などに招かれ、演説を行った。

今年9月にはノーベル平和賞に準じる「ライト・ライブリフッド賞」を受賞した。同賞は環境や人権問題に尽くした人にスウェーデンの財団から毎年贈られる賞だ。もちろん今年のノーベル平和賞も期待されている。

ところでニューヨークの国連本部で開かれた気候行動サミットにグレタさんは、「温室効果ガスを大量に排出するから」と航空機の利用を中止。2週間かけてイギリスから大西洋をヨットで横断してニューヨークに到着した。

ヨットの運航費や人件費などかなりの額に上るはずだ。これまでのグレタさんの活動費も含めて考えると、一体どこからそうした多額の資金が出ているのだろうか。彼女の両親は俳優だという。俳優にそれだけの資金が出せるのか。背後にそれなりの団体が付いているのかもしれない。

■“グレタスタンス”の訴えから離れない毎日新聞

冒頭で沙鴎一歩は「思わず涙が込み上げてきた」と単純に褒めたたえてしまったが、彼女の背後関係もおさえる「複眼」を持つことが必要だ。

新聞各紙も気候行動サミットを取り上げた。9月25日付の毎日新聞の社説はこう指摘する。

「今回のサミットでグレタさんは、各国首脳が関心を寄せるのは『お金や永続的な経済成長というおとぎ話』と断じた。『(対策に失敗すれば)その結果と生きていかなくてはならないのは私たちです』とも述べた。破局を見ずに済む大人世代とは比べものにならないほどの危機感が、今の若者たちにはある」

見出しも「若者の危機感に応える時」である。

グレタさんの活動の重要性は分かる。だがしかし、毎日社説はグレタさんに入れ込み過ぎではないか。公器である以上、もう少し冷静になってほしいと思う。

残念だが、最後も「大人には、若者の申し立てに応える責任がある」と“グレタスタンス”の訴えから離れない。

■朝日社説も「若者の怒り受け止めよ」と同じ

次に同日付の朝日新聞の社説。「若者の怒り受け止めよ」という見出しからして、毎日社説と同じである。毎日と朝日がお互いに示し合わせてそれぞれの社説を書いたのではないかと、疑ってしまう。

朝日社説は主張する。

「グレタさんら12カ国の少年少女16人は『気候危機は子どもたちの権利の危機だ』と、国連子どもの権利委員会に救済を申し立てた。サミット直前には160カ国以上で400万人を超す若者の一斉デモがあった。こうした若者たちの怒りを重く受け止めねばならない」

若者の怒りに目を向けることは大切だ。ただ毎日社説と同様、“グレタスタンス”からある程度離れて論じることも考えてほしい。

朝日社説は終盤で指摘する。

「日本への風当たりも強い」
「国内外に数多くの石炭火力の新設計画があり、政府の排出削減目標も腰が引けている。今回のサミットに安倍首相は出席せず、小泉環境相は対策強化を何一つ打ち出さなかった。日本には危機感がないのか、と疑われても仕方あるまい」

安倍政権嫌いの朝日社説だけはある。

■政治家や閣僚の発言が「セクシー」でいいのか

小泉氏は国連の場で記者会見し、「グレタさんの言葉はとても印象に残った。私も含めてみんなが重く受け止めたと思う。いまのままでいいとは思っていない。日本ももっと存在感を示さなければならない」と語った。今後、日本として具体的な温暖化対策をできる限り早く示してほしい。それがグレタさんら若者の怒りを受け止めることにつながるからである。

また記者会見で小泉氏は「セクシー」という英語を使って物議をかもした。本人は「性的」という意味ではなく、「わくわくする」という意味で使ったといっている。それなら、どんなわくわくする提案があったのだろうか。温暖化対策と同様、政治家、とくに閣僚の発言は分かりやすく、具体的であるべきだ。

最後にひと言。読売新聞(9月25日付)や産経新聞(9月25日付)も、「気候行動サミット」を社説で取り上げてはいる。だが、グレタさんへの言及は少なかった。保守的新聞には“グレタスタンス”は苦手なのだろうか。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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