新卒採用面接に「1人200時間」かける理由
プレジデントオンライン / 2019年10月11日 11時15分
■2ランク上の人材を採用するために
——会社トップの横田さん自らが採用を担当するなど、創業時から採用、人材の育成を重視してきたのはなぜですか。
【横田】ディーラーの経験もない、ずば抜けた能力もない、そんな私がどうすればいい会社がつくれるか、と創業当時に思いを巡らせたのが事のはじまりです。それにはいい人材を採用すればいいだろう、と考えて、最初の10年間は私が採用の仕事も担当していました。その間採用に使ったお金が1億円以上。同業他社の5倍以上の費用と3倍以上の労力をつかっています。いまでもその姿勢は変わっていません。面接に最低で30時間、多い人には200時間もかけることがあります。採用に関与する人間は100人以上です。社員のほとんどが関わっているといっていいでしょう。それで今年採用したのは、男性1人、女性1人の計2人です。
——横田さんが考える採用したい人材、いい人材とは?
【横田】採用にあたっては、人柄と価値観がわれわれの会社に合っているか、一言でいえば人間力を重視します。
それに加えて意識したことは、優秀な人材を採用することです。在籍している社員と同じレベルの人を採用していたのでは、なかなかいい会社にはなりません。下手をすると衰退してしまいます。どのくらいのレベルの人を採用すればいいのか、と考えました。1ランク上の新入社員を採用できたとして、10年先輩を超えるのが5人のうち1人か2人しか見込めない。というのは、それほど能力ない上司や先輩の下につくと、人は育たないからです。これだと、いい会社をつくるのに、50年ほどかかってしまう。2ランク上の人材を採用すれば、10年先輩の指導的立場の人を超えるのが5人のうち2人か3人くらいは出てくるだろう。これなら、そんなに年数がかからずにいい会社がつくれるかな、と考えました。創業時の10年間、私が採用を担当していたときに2ランク上の人材だと見込んで採った社員が成長して、いまでは社長や役員、子会社の社長などをやっています。
——そういう採用を続けることでいい会社へと変わっていったわけですが、たとえば退職率はどう変わりましたか?
【横田】1980年の創業時から最初の10年間の退職率は、トヨタディーラーの全国平均と同じ8~10%でした。次の10年間は4~5%まで下がり、その次の10年間では1~2%になって、それがいまも続いています。
若手社員からトップに至るまで人を育てる土壌を30年以上かけてつくりあげてきました。今年の新入社員歓迎会の席では、入社2年目の先輩社員がこう言っていました。「仕事は厳しいことがいっぱいあるけれど、何があっても私たちがあなたを守ります」と。これは、管理職クラスが言うレベルの内容です。
■失敗は人を成長させる最高の育成法
——人の育て方について、もう少し聞かせてください。経営方針として「教えない」「上意下達をしない」というのがありますね。
【横田】指示命令は1ランク上の社員が下の社員に向けてするものです。しかし、「俺の言うことを聞け」でやっていたのでは、人は言われたこと以上には成長しない。日頃から自分で考えて仕事をしていれば、1ランク上の社員の価値観と知識・能力が短時間で身に付いていきます。そうなれば、いちいち上司に相談する必要がなくなりますね。
——マニュアルもつくらないそうですね。
【横田】マニュアルや仕組みがきちんとできていると、効率よく仕事ができます。目先の対応はそれでいいかもしれませんが、マニュアルに頼っていると、人は考えようとしなくなります。つまり、人がロボット化してしまうわけです。それだと、不測の事態や世の中の変化に対応していけない。直近でいえば、トヨタ系のディーラー政策の大転換があります。これまでは護送船団方式のチャネル別販売でしたが、今後はその垣根がなくなって、どの車種を扱ってもいいことになります。こういう事態にどう対応していくのか。マニュアル漬けになってしまった人間からは、柔軟で新しい発想は出てきにくいでしょう。
——そういうマネジメントをしていると、才能ある若手はぐんぐん伸びていきますね。ただ、経験不足などが原因で失敗することもあると思います。そのリスクはどう考えているのですか。
【横田】会社としては社員が失敗するよりは、失敗しないほうがいいに決まっています。しかし上司の指示命令でやっていると、自分が失敗したときに何が原因だったのか、気付かずに終わってしまうことが多い。そうでなくとも、失敗したら上司から問い質されるので、本人は言い訳します。本人が失敗した部分も包み隠してしまう。人は自分が思うようにやってみて、うまくいかなかったことに対して初めて反省します。失敗はその人を成長させる最高の人材育成法なんです。若手社員は失敗することで、上の人の価値観、能力、知識などを身に付けて短い期間で成長します。こういう仕組みができると、会社は放っておいてもどんどん良くなっていきます。
『「教えないから人が育つ」横田英毅のリーダー学』で著者の天外伺朗さんが私のことを例に挙げて、経営者が「愚者の演出」をしていると組織が活性化する、フロー経営ができる、と書いているのですが、社員はトップの意向や評価を忖度(そんたく)せずに、自分からどんどんやりたい仕事をやっていくわけです。
■敗者を生まない人事制度とは?
——話を聞けば聞くほど、ユニークな会社経営をしていますね。その根底にあるものは何でしょう。
【横田】経営理念はいくつかあるのですが、社員皆が覚えている項目が一つだけあります。それが「全社員が人生の勝利者になる」。私が一番大切だと考えていることです。営業のスタッフには自分で立てた販売目標はありますが、会社からノルマを与えて競わせることはしません。担当者が不在のときでも、お客様のために最善のサービスをすることが目的なわけですから。
——ただ、昇進昇格は年功序列ではなく、実力主義ですよね。競争原理が働けばそこに勝者と敗者が生まれるのではないですか。
【横田】たしかに、営業成績の優劣や昇進昇格を社員同士の競争ととらえると、組織には勝者もいれば、敗者もいるし、周りの人間の成功や出世を妬(ねた)むものです。しかし、そういう心理が働くのは、実際の能力や周りの評価に比べて自分を高く評価しているからです。自分を客観的に、正確に見える鏡をその人の周りにたくさん置くようにすればいい。その鏡として、双方向の人事考課制度をつくったのです。一つが自己申告考課表、もう一つが社員の投票に基づいた優秀社員表彰制度で、「安全運転推進賞」「地域美化推進賞」など100前後の賞を用意しています。周りの社員がその人のいいところを見つけて、褒めてあげるわけです。こういうことが根付いてくると、自分の立ち位置を認識するし、周りの人に対するネガティブな感情が生まれにくくなります。そのいい例が、現在の社長に対する評価でしょう。彼は先輩社員を追い越して社長になっていますが、ナンバー2の2年先輩が、私にこう言っています。「私が彼を全面的にサポートしますから心配いりませんよ」と。彼が社長になることに、社内で誰も不満を抱いていないのです。
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ネッツトヨタ南国相談役、ビスタワークス研究所顧問
1943年生まれ。日本大学理工学部卒業後、カルフォニアシティカレッジに留学。西山グループ系列の宇治電化化学工業、四国車体工業を経て、1980年トヨタビスタ高知発足と同時に副社長に就任、87年代表取締役社長。2007年代表取締役会長、10年取締役相談役。1917年から続く西山グループの資本家の一員として、愛媛トヨタ自動車の代表取締役も務める。著書『会社の目的は利益じゃない』。DVD『横田英毅のこう思う』。横田さんの経営哲学を解説した著書として『「教えないから人が育つ」横田英毅のリーダー学』がある。
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(ネッツトヨタ南国相談役、ビスタワークス研究所顧問 横田 英毅 構成=PRESIDENT経営者カレッジ事務局 撮影=小川 聡)
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