なぜ容姿差別をするのは"美しくない人"なのか
プレジデントオンライン / 2019年10月4日 6時15分
■言葉をなくしても差別はなくならない
——人は無意識に、相手を容姿でジャッジしがちです。
「あの人かわいいね」とか「ブスだよね」などと思うことを、私は差別だとは思いません。だけど、人種差別や国籍差別と同じように、容貌を理由に職業を限定するとか、性的な侮蔑の言葉を投げるとかというのは完全に差別だと思います。
——小説家デビューされた15年前、顔写真が新聞に載り、ネット上で容姿に関する差別的な書き込みをされて傷ついたと記されていますね。「ブス」という言葉に長年対峙してきた山崎さんが、なぜ「ブス」の本を執筆し、「ブス」という言葉を繰り返し使うのでしょう?
私は、「ブス」という言葉は言っていいと思っています。たとえば、障がい者差別でも、障がいの話をしなければ差別がなくなるのかというと、そうではない。人種差別の問題でも、国籍や肌の色の話をしなければいいのかというとそうではなく、きちんと話したほうが差別はなくなる。「自分の肌の色に自信を持っています!」と言えるほうがいいじゃないですか。それと同じで、容姿の話をしないというのは、違うと思うんです。
「ブスだから」と話し始めると、相手が当惑して話題をそらそうとするので、場を凍らせる言葉だなとは、私も思います。でも、「美人」や「ブス」という言葉をもっとフラットに使って、「自分の顔立ちに自信を持っています」と言えれば、それでいいと思う。
■容姿にまつわる面倒くさい応酬
——私事ですが、子供の頃に周りから「ブス」と言われることが多かったため、客観的に見れば決して陰口を叩かれるほどのブスではなくても、自分を大変なブスだと思って生きてきた紛れもない事実があります。だけどそれを人に言うと、「いやいや、そんな」と話をそらされる。その応酬が正直面倒くさいです。
その応酬をしなければいけない空気ってありますよね。こちらが「ブスです」と言ったら、「ああ、そうなんだ」とただ受け取ってもらえたら嬉しいですよね。「私、美人です」も言ってはいけないワードのようになっているじゃないですか。容姿の話をすると、本人ではなく、話し相手がどう思っているかという話に刷り変わる。美人の人で、「私、顔しか取り柄がないんで」と返すなど、かなり場に気を使って話す人もいるらしいんです。そんな薄氷を踏むような思いでコミュニケーションしなければいけない圧がある。
私もブスだと中傷される被害を受けたのは完全に事実で、その話をしたいときって、自分が自分の顔をどう思っているのかという話をしたいわけでも、相手が私の顔をどう思っているのか聞きたいわけでもなく、「こういう被害があったんだよ」というエピソードを話したいだけ。「実際にこういう被害がありました」ということをただ聞いてもらえたらありがたいんです。
——痴漢の被害の話もそうですよね。「被害を受けて、大変だったね」でいいのに、なぜか「見栄を張るな」などと嘲笑されることもある。
性犯罪の被害を話すと「その顔で被害に遭うわけがない」とネットで炎上するという話も聞きます。事実を言っているのに、顔のジャッジの話になる。“美人差別”の場合もそうです。芸能人が「クラスで浮いていてツラかった」などと過去の話をした際、「そこまで美人でもないのに」と容姿の話にすり替えられてしまう。女性は、仕事の話をしても、性犯罪に遭った話をしても、容姿をジャッジする話に刷り変えられがちです。
■美男美女はブスを叩かない
——不思議なのですが、生まれながら容姿に恵まれた人は、他人の容姿を何とも思っていない傾向があると感じます。
私もそれは経験的に感じますね。仕事で会った人や友達を見ても、「イケメン」や「美女」と言われる人は、あまり容姿差別をしない。意外と相手の顔を気にしていない。たぶん、恋愛にも困っていないから、会う人、会う人、恋愛対象になるかどうかをそんなに吟味しないんじゃないかな。
自分に自信を持てない普通の人が、ブスが自信満々で表舞台に出ているのを見て「なぜ?」と感じ、叩きたくなるのかもしれません。仕事や人生にストレスを抱えてたり、自分に自信を持てずに悩んでいたりする人が世間に多いんだろうなと思います。
——表向きでは、容姿に関して言及するのはとにかくダメという風潮もありますね。
10~20年くらい前は、メディアも「ブス」や「美人」をいじっていい世界だった。それが「容姿差別はダメ」という認識が広がってきたとたん、「とりあえず使わないようにしよう」「面倒なコミュニケーションは避けよう」と、容姿に関するフレーズはカットされてしまうようになった。今は過渡期だと思うので仕方ないことではあるんですけど、最終的には、「『ブス』や『美人』という言葉は気兼ねなく使いながらも、容姿差別はしない」という世の中を目指せればいいですね。
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1978年生まれ。性別非公表。2004年『人のセックスを笑うな』でデビュー。しばらく「山崎ナオコーラ」でネット検索すると第2検索ワードに「ブス」と出ていたが、堂々と顔出しして生きることに。著書は『美しい距離』『ニキの屈辱』など多数。
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(山崎 ナオコーラ 構成=新田理恵 撮影=市来朋久 写真=iStock.com)
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