なぜ「利益を優先しない経営」で成功したのか
プレジデントオンライン / 2019年10月17日 11時15分
■全社員が勝利者になること
——会社の歩みから、人材育成、組織づくりのことなどを聞いてきました。今回は会社経営をテーマに伺います。横田さんの著書のタイトル『会社の目的は利益じゃない』は、かなり衝撃的です。意図するところをお聞かせください。
【横田】『会社の目的は利益じゃない』は、出版社の意向でそういうタイトルになってしまいましたが、私としてはサブタイトルにある、「誰もやらないいちばん大切なことを大切にする経営とは」ということを伝えたくて本を書いたんです。
「会社経営では利益が大事ではないとはどういうことですか?」「それで経営が成り立つんですか?」などと講演や勉強会などでよく尋ねられます。「いちばん大事なのは全社員が勝利者になることで、それを継続し続けるために必要なのが利益ですよ」と説明をするのですが、これがなかなかわかってもらえない。
——横田さんは、社員を幸せにすることは「目的」であり、利益や売り上げを増やすことは「目標」だ、という言い方もされていますね。ここのところを、もう少しわかりやすく教えてください。
【横田】私のなかでは、「目的」は質を追求するもの、「目標」は量を達成するもの、と分けて考えています。「目的」は価値観、理念、志など数値化できないもの、進むべき方向を追い求めるものです。社員の幸せ、お客さまの幸せ、社会貢献などは「目的」です。「目標」は量を求めたり、数値化できるもの。会社経営でいえば売り上げ、利益、シェアなど、個人でいえば営業成績、給与などです。
「目的」とは、いわば経営理念です。これがしっかり浸透していないのに、「目標」である売り上げや利益ばかりを追い求めると方向が定まっていないので、右往左往してしまう。そのために、利益などの面でいい結果が出ず社員は疲弊していく、というサイクルに陥るのです。
■「幸せ」の循環を広めていけばいい
——たしかにそうですが、多くの経営者は会社を持続的に成長させたい、そのために会社を大きくしようとしています。
【横田】なぜ会社を大きくしなければならないのか。たとえば、その会社が安いものを世界中にたくさん提供することを大義名分に掲げてやっている、とします。私からみると、それはwin-lose、一人勝ちのためにやっていることであって、目指しているのはwin-winではないですよね。若いときにヨーロッパ企業の視察ツアーで食品を製造、販売している優良企業を訪問したときのことを思い出します。社員が30人もいない小さな会社でしたが、何百年という歴史がありました。日本の経営者が「こんなにいい業績が続いているのに、なぜもっと規模を大きくしないのですか?」と質問したところ、「規模を大きくすれば、同業他社の売り上げを奪うことになる。奪われたほうは、取り返そうとして値段を下げてくるでしょう」という答えが返ってきました。
われわれの業界でも、一台でも多く売ろうとして値引きに走ってしまう。その繰り返しで、泥沼状態に陥っていくだけです。
——では、横田さんが思い描くいい会社とはどんな会社なのですか。
【横田】会社は社会貢献のために存在する。社会貢献の中で、いちばん大事にしないといけないのはいちばん身近な社員の幸せ=EH(Employee Happiness)です。その幸せな社員が、車の販売、アフターフォローを通じていいサービスをお客様に提供して、お客様を幸せにする。幸せな社員の数を増やし、幸せなお客様の数を増やしていく。この関係性、循環を広めていくと、会社は自然に大きくなる。そういう位置づけです。
社会を自分たちの外に置いていて、何かをやった余力で、稼いだお金の一部を社会に還元しよう。そう考える経営者の方が多いように見受けられます。「利他」が大事だという考え方も、その裏側には「自利」を追求していると社会的に尊敬されないから、ということがあるように思います。そこを私は「三方良し」(=売り手良し、買い手良し、世間良し)の考え方で整合性をとろうとしています。
——お客様への感謝イベントではクルマは1台も売らないそうですね。お客様は幸せになるでしょうけど、そろばん勘定はどうなっているのですか?
【横田】お客様を幸せにするためにやっているイベントは、持ち出しです。時間を無駄にしている、という見方もあるかもしれません。でも、私はそれを「損」とは考えていない。社員が自分の喜びのためにやるのだから、「精神的に得をしている」わけです。社員がお客様のためにあれこれと時間を費やして汗をかくのは、自分のためになること。それをやり続けたら、自然に業績が上がるでしょう。
■本質的な問題になぜ取り組まないのか
——たしかにそうですが……、その関係性を理解し、実践できる経営者は極めて少ないかもしれません。
【横田】こういう質問もよく受けます。「採用活動や人材教育などが大事なのはわかりました。しかし、それに多くの時間や人手を使ってしまうと、日々の受注活動、メンテナンス、クレーム処理などが後回しになってしまい、売り上げも利益も減ってしまうのでは?」と。
たしかに、目先のこと(問題対処)より、本質的な問題(問題解決)に時間をかけてしまうと、一時的に実績は下がるかもしれない。でも、ネッツトヨタ南国では、しばらくすると業績が元の100に戻り、そのうち実績が120くらいになっていきます。
——多くの経営者は横田さんの経営を目指したいのに、それをなぜやり遂げられないのでしょうか。
【横田】どこの会社も、目の前に見えている問題には対処(問題対処)するけど、隠れている問題を発見して解決(問題解決)することをやろうとしないからです。会社を挙げて問題解決に取り組めば、かけた時間の分だけ、間違いなく良い会社にすることができます。
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ネッツトヨタ南国相談役、ビスタワークス研究所顧問
1943年生まれ。日本大学理工学部卒業後、カルフォニアシティカレッジに留学。西山グループ系列の宇治電化化学工業、四国車体工業を経て、1980年トヨタビスタ高知発足と同時に副社長に就任、87年代表取締役社長。2007年代表取締役会長、10年取締役相談役。1917年から続く西山グループの資本家の一員として、愛媛トヨタ自動車の代表取締役も務める。著書『会社の目的は利益じゃない』。DVD『横田英毅のこう思う』。横田さんの経営哲学を解説した著書として『「教えないから人が育つ」横田英毅のリーダー学』がある。
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(ネッツトヨタ南国相談役、ビスタワークス研究所顧問 横田 英毅 構成=PRESIDENT経営者カレッジ事務局 撮影=小川 聡)
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