1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「メモ魔」がシリコンバレーで顰蹙を買うワケ

プレジデントオンライン / 2019年10月4日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/nonohana

メモする人とそうでない人は、どちらがビジネスに強いのか。BBT大学副学長の宇田左近氏は「日本人のメモ取り文化は、シリコンバレーで顰蹙(ひんしゅく)を買うケースも多い。インプット志向のメッセンジャーはお断りだからだ」という——。

※本稿は、宇田左近著『インディペンデント・シンキング』(KADOKAWA)を再編集したものです。

■リーダーはホワイトボードの前に立て

コンサルティング会社にいたときは、答えが見えない難問にしばしば直面した。自分で最初から解決策がわかるような問題だったら、クライアントは外部には頼まない。

その際のミーティングで私は、自分が招集した会議の場合、自分でホワイトボードの前に立つようにしていた。答えが見えない時ほど、何が目的で、どういう議論をしてもらいたいかは、「招集者が責任を持って伝えるべきこと」であり、参加者には、アウトプットを期待し、その前提の中でできるだけ多様な知恵を出してもらいたいという理由だ。

当然ながらミーティングの最初に、目的あるいは期待成果について参加者と共有する。何のためのミーティングで、何を解決しようとしているかをあらかじめ参加者の頭に入れておく。そのうえで、参加者には個々が主導的に思考を働かせながら問題発見と解決を行なってもらいたいので、こちらの言うことあるいは他のメンバーの言ったことをいちいちメモすることで頭が働かなくなるのは、なんとしても避けてもらいたいと考えていた。

■一方通行のミーティングでは意味がない

「私がホワイトボードに書くので、皆は頭だけを使ってほしい」と伝えることで、個々人の自由な発想、気づき、そして忖度や誰のためにといった組織の理屈から解放された、インディペンデント・シンキングを期待した。

誰の話であれ一方的に聞くことに集中してメモをとっていれば、必然的に思考は止まる。メモをとって「いい話を聞いた」と感じたところで、たいていそれで終わる。

その場で得たものを吸収しながらどんどん血肉にしていくためには、メモなど脇に置いて、自分の頭をフル回転させて思考、咀嚼(そしゃく)する必要がある。その場でアウトプットできるかどうかの思考力が必要だ。

話す側としても、どれだけたくさんの人が自分の話を聞いてくれたところで、せっせとメモをとってなんの意見も出ないようなら話す甲斐(かい)がないというものだ。話すと同時に相手が反応し、随時様々な意見が出てくる場ほどエキサイティングなものはない。「ミーティングはイーブンで終われ」と拙著『インディペンデント・シンキング』の中で述べたが、一方的に話して終わり、聞いて終わりのミーティングには両者得がない。

■硬直した縦割りサイロはメモ魔だらけ

その後、日本郵政の民営化、あるいは電力会社の改革に臨んだ際に感じたのは、ひたすら人の言うことをメモに取る「メモ取り文化」だ。これはローエンド・組織エリート(組織で上に行く術(すべ)には長じているが、外に出ると何もできない可能性の高い人たち)に特に強く見られる現象だということもわかった。

誰が偉いかで善悪が決まる組織の場合には、偉い人の言ったことを一字一句逃さないというのが、組織エリートの条件となる。また会議自体も「問題解決」ではなく、「上意下達のため」である場合が多く、その場合は「偉い人のコメント」こそが記録すべきものとなるわけだ。

また、出席者あるいは陪席者が異常に多くなるのも、ローエンド・組織エリートたちの特徴だ。一心不乱にPCに向かってベタ打ちしている参加者を見ると、この人は自分を記録係として考えていて、問題解決への貢献にはまったく興味がないのだと推測してしまう。そしてそれが習性と化している場合、ちょっとやそっとでは治らない。

しかし不確実な問題、答えの見えない問題の解決のためには、「おっしゃることはもっともです」などというコメントは不要であり、こちらの言うことにうなずきながらメモをとってもらいたくもない。そういう忖度(そんたく)系の態度に価値はない。

■シリコンバレーで顰蹙を買うケースも

この日本人ビジネスパーソンのメモ取り行動が顰蹙を買うケースも現れた。たとえばシリコンバレーやリトアニアなどでは、日本からの「見学者・訪問者」が招かれざる客になっているケースがある。現地で説明を受けると、報告書作成のためにひたすらメモをする。質問も、帰国後に上司などから重箱の隅をつつかれないように微に入り細に入りとなる。説明する側もこれらの人が意思決定のできない立場であることはお見透し、インプット志向のメッセンジャーはお断りということになる。

私のミーティングでは、ホワイトボード上には議論の結果として、いくつかの意味合い、あるいは次のステップが記録されていくことになる。

皆さんも一度試してほしいが、このときにそこで行なわれた議論を単に羅列的にメモするだけでは能がない。議論されたことをMECEに切り分け、いくつかの異なった課題に区分したうえで、その意味合いをいくつかに整理して記述することができれば、更なる議論を誘発しミーティングも一歩進むだろう。そして、必ず次のステップを明示する。答えが見えない問題に取り組む際の、リーダーの手腕が問われることになる。

さて、ここでリーダーを自認する皆さんは胸に手を当てて考えてみてほしい。自分がどっかり座って長々と発言し、それをせっせとメモにとるメンバーたちを見て、なんとなくいい気分になっている、なんてことはないだろうか?

なかには「人の話を聞くときはメモをとれ」とはっきり口にするリーダーも存在する。間違えてはいけない数字や人名の伝達ならまだしも(それはそれでメモではなくメールで送れと私は思うが)、自分が話しているのだからメモをとれという類のリーダーだとしたら要注意だ。

もしあなたがそういう上司についてしまったときは、メモには落書きでもしておいて、今後の自分の身の振り方を考えたほうがいいかもしれない。

■では、意味のあるメモの取り方とは

会議やミーティングに参加するメンバーには「義務」がある。それはobligation to dissent(反論の義務)だ。上司であったとしても、もし意見が違っていると思った場合には、反論することはあなたの権利ではなくて義務であるということだ。自分の担当以外についても全体課題の解決について疑問があれば発言する。あとになって、とやかく言うのは反則だ。そこでは「ファクトベース」ということを共有していることが必要だ。ファクトがなくて感覚だけで意見をいうのでは意味がない。

一方、自分の意見だけを主張していても全体の議論は深まらない。また新たな知見も生まれない。どうしたら議論を深めることができるのか、みんなが同じ方向に向いていて思考が広がらなくなったときに、あえて、別の角度からの論点あるいは反論を述べることも有効だろう。「自分がそのミーティングでどのような価値を提供するのか」を常に考えるべきである。

その時のメモの使い方について、次のように考えてはどうだろうか。リーダーがホワイトボードの前に立つというのは、チームメンバーがメモをとることに集中して思考停止になることを避けるためだ。他方、私の場合、自分が聞き手の場合には常にメモ帳は手元に置いておく。それは「人の言ったことを記録する」のではなく、「自分が次に発言しようとする内容」を論理的に整理するためだ。繰り返すが、インプットのためではなくあくまでアウトプットのためだ。

■イシュー解決の手立てになる

人の言ったことはすでにホワイトボードに書かれており、あるいは議事録がとられる会議ならますます書く必要もない。

宇田左近著『インディペンデント・シンキング』(KADOKAWA)

むしろ自分の意見のポジショニングや、今ある議論に対しての軸出しなどにメモを使う。議論に貢献するうえで有効なのは、今の議論のイシューが何であり、そのイシューを解決するにあたって正しい議論がなされているかどうか、メモを使って常にチェックしていくということだ。そして、その問題解決に貢献できる意見、あるいは視野が狭まっているときに大きく振るための意見とは何かなどを考える。その際、「そのために3つの重要なポイントは何か」などをメモ上で確認しておけば、だらだらした発言にならないだろう。何を言いたいのか途中でわからなくなったり、脱線したりすることもない。

あとはそのミーティングで得られた主要なことを自分の言葉で3つ程度に整理して書いておくこともある。それだけ見ればそのミーティングで誰が何を言っていたか、それぞれの発言の価値や貢献度合いも思い出すことができるはずだ。余談ながら、そのうち年齢とともに物忘れが激しくなったら、別の意味でメモは必須になるかもしれない。この場合、人の言ったことを忘れないようにということではなく、「自分の言ったこと」を書いておくことになろう。

そうでないと「あの人はいつも同じことを言う」という揶揄(やゆ)の対象になってしまうからだ。メモは「人の言ったことを書きとめるのではなく、自分の言いたいことを整理するために使う」ものだが、もし「自分の言ったことを書かねばならなくなった」ら、引き際は近いのかもしれない。

----------

宇田 左近(うだ・さこん)
ビジネス・ブレークスルー大学 副学長 経営学部長 教授
株式会社荏原製作所独立社外取締役、取締役会議長、公益財団法人日米医学医療交流財団専務理事。東京大学工学部、同修士課程修了。シカゴ大学経営大学院修了。日本鋼管(現JFE)、マッキンゼー・アンド・カンパニー、日本郵政株式会社専務執行役、東京スター銀行COO、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)調査統括・原子力損害賠償・廃炉等支援機構参与、東京電力調達委員会委員長等を経て現職。著書に、『なぜ、「異論」の出ない組織は間違うのか』(PHP研究所)、『プロフェッショナル シンキング』(共著、東洋経済新報社)がある。

----------

(ビジネス・ブレークスルー大学 副学長 経営学部長 教授 宇田 左近)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください