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16歳に共鳴した"世界最大デモ"若者たちの怒り

プレジデントオンライン / 2019年10月7日 15時15分

過去最大の環境保全デモで演説したスウェーデンのグレタ・トゥンベリさん(16) - 撮影=Kazushi Udagawa

ニューヨークの国連本部で開かれた「気候行動サミット」では、開催前に過去最大の環境保全デモが行われた。その多くは、アマゾンの森林火災をはじめとする環境対策への世界の対応に抗議する10~20代のアメリカの若者たちだった。なぜ、彼らはこれほどまでに怒っているのか——(前編、全2回)。

■アメリカの若者が奮起した「過去最大の環境デモ」

60カ国以上のトップたちが気候変動に関して具体策を表明する「気候行動サミット」が9月23日、ニューヨークの国連本部で開かれた。日本では小泉進次郎環境相が就任後の「外交デビュー」を果たしたことが話題になったが、世界が注目したのはなんといっても、スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥンベリさん(16)による涙ながらの演説だった。

サミット開幕前のニューヨークでは、高校生などの若者が中心になって温暖化対策を訴える大規模なデモが行われた。グレタさんが一人で始めた抗議行動がきっかけとなったデモは、主催団体発表で約25万人が参加。世界150カ国以上で400万人を超える人々が「今すぐ温暖化対策を!」と同時に声を上げる、過去最大規模の環境デモとなった。

気候変動を食い止める活動は、いまや世界中で最も関心の高いムーブメントになっている。その大きなうねりの中心にいるのがアメリカだ。ドナルド・トランプ大統領が、人間の活動による地球温暖化を否定する姿勢をとり続けている中、政権に抗議する若者たちの声が日増しに高まっているのだ。

撮影=シェリー めぐみ
「化石燃料をやめろ」と書かれたプラカードを掲げるデモ参加者 - 撮影=シェリー めぐみ

こういった環境保護活動はこれまで幾度となく行われてきたにもかかわらず、今回のような大きな動きに発展することはなかった。彼らの怒りをひとつにする大きな引き金となったのは、折しも南米・アマゾンで発生していた未曾有(みぞう)の森林火災だった。

■衛星写真に映る無数の炎を見て衝撃

アマゾンの熱帯雨林が燃えている――。8月下旬、アメリカのテレビやネットメディアは数日に渡り、このニュースをトップ扱いで報じた。

それによると、今年に入って起きたアマゾンの山火事は7万5000件と昨年の2倍近い数で、アメリカ合衆国の半分もの面積に当たる550万平方キロメートルのうち、すでに九州全域以上の面積が焼失したという。その様子は衛星写真に無数の赤い炎の点としてはっきりと映し出され、無残に焦土となった熱帯雨林の残骸の映像も繰り返し報道された。

情報が伝わるスピードも早かった。ネットはもちろん、学校で、オフィスで、まさに火のようにまたたく間に広がったのだ。

それを受けて、どうやってアマゾンを救えばいいかというメディア記事とそれに応える一般市民の声がネット上に溢(あふ)れ、レオナルド・ディカプリオなどのセレブがいち早くアマゾン森林保護活動への参加を宣言。アマゾンを救うには森林伐採の最大の原因となり、温室効果ガスを多量に排出している畜産を減らすしかないと、肉の消費を減らすことを呼びかける若者も次々と現れているのだ。

一見地球の片隅で起きている森林火災が、なぜここまでのハレーションを起こしているのだろうか? それは多くのメディア報道を通じて一般市民もセレブも共有した、ある衝撃のヘッドラインがきっかけだった。

■災害が増える中、「地球の肺が燃えている」

ブラジルは近年の経済後退により、積極的な経済開発を掲げるジャイール・ボルソナーロ大統領が今年就任した。もっとアマゾンを農業や畜産に利用しようという方針で、森林伐採の規制を緩和してきた。今回の火災も、伐採した森林を燃やして農地や牧場にする動きが原因とされている。しかしボルソナーロ大統領は当初「消すためのお金はない、そもそも火災は環境保護団体による放火(根拠はない)」と反論していた。

これに対し、ヨーロッパ、特にフランスのエマニュエル・マクロン大統領が「対応しないなら貿易で圧力をかける」と宣言したが、この時マクロン大統領が「アマゾンは地球の酸素の20%を供給している地球の肺だ。これは世界の危機、私たちの家が燃えているのだ」と訴えた。それがそのままヘッドラインとなり大きく報道されたのだ。

多くのアメリカ人はこれを見て震え上がった。

撮影=シェリー めぐみ
「私たちの家が燃えている」と書かれたプラカードを持つ参加者(右)。デモには未成年も多く参加した - 撮影=シェリー めぐみ

アメリカ人が恐れを感じた背景には、ここ数年の史上まれにみる規模の災害の頻発がある。巨大な山火事があちらこちらで起き被害も拡大、また10年、20年に一度とされるハリケーンや水害が数年を待たずに発生している。

異常な高温や竜巻の発生も目立つようになり、跡形もなく壊滅した街や、水没する街の映像も珍しくなくなった。多くの人が、気候が変わりつつあるのを実感し始めたところだったのだ。

そこに報道されたのがこの火災のニュースだった。世界を代表する熱帯雨林アマゾンで、これまでにない大規模な森林火災が起きている。その原因は経済を優先した人間の手によるものである事実を突きつけられたのだ。

■バラバラに見えた異常気象が大火災でつながった

気候変動は火災の直接の原因ではないとはいえ、温暖化による高温で乾燥した気候のせいでより延焼しやすくなっているのは間違いない。さらに、通常はアマゾンの熱帯雨林によって吸収されている二酸化炭素を含む温室効果ガスが、火災のために逆に大気中に放出されているのも事実だ。

また進行する森林破壊の結果、アマゾンは砂漠化のリスクがますます高まっている。本当に「サバンナ」化してしまった場合、その分の二酸化炭素が吸収されなくなるから、温暖化はますます進行するというサイクルが起こってくる。昨年国連が発表した「向こう12年間に有効な対策を行わなければ、温暖化に歯止めがかからなくなる」という警告も重なった。

これまで、アメリカ国内で散発的に起こっていた気候変動を感じさせる気象や、国連をはじめとする専門機関や科学者からの報告が、世界の熱帯雨林の象徴であるアマゾンで起きたことで、これまでバラバラだった点が突然ひとつの線となり、面となって目の前に迫ってきたような感覚かもしれない。

■セレブやアパレルブランドもいち早く表明

セレブや企業の反応も早かった。もともと熱帯雨林保護活動に熱心だったレオナルド・ディカプリオは、アマゾンの保護活動に対する5億円の寄付を宣言。また彼が投資し、若者にカルト的人気のシューズブランド「オールバーズ」が、ミネラルウォーター「Just Water」(ウィル・スミスと息子のジェイダンが共に創業)との限定コラボシューズを作り、収益の100%を寄付することも決定した。

このほか、ファストファッションのH&M、スニーカーのVansなど、ミレニアル世代・Z世代(1981年~2010年くらいまでに生まれた世代)が支持するブランドが、森林火災に対するブラジルの対応を懸念し、ブラジル産皮革の購入を取りやめると発表している。

一方、一般市民がアマゾンを救うにはどうすればいいのか? という情報もネット上をかけ巡った。

そこで目を引いたのは、自然保護団体への寄付、抗議活動への参加などとともに「森林伐採の原因となる紙の消費を減らす」、さらには「肉の消費を減らす」という提案がされていたことだ。

■「肉消費を抑えよう」にニューヨーク市も賛成

米農務省によれば、ブラジルの肉の生産量は世界の20%を占めているという。アマゾン火災の原因とされる熱帯雨林の農地化は、世界の肉の需要に応えるための畜産を振興するのが目的。だったら肉の消費を減らすことで、少しでも森林破壊を防ごうという発想だ。

撮影=Kazushi Udagawa
メッセージの中には、ヴィーガンになることを呼びかけるものや、畜産が温室効果ガス排出の原因になっていることを訴える内容もあった - 撮影=Kazushi Udagawa

そもそも若いミレニアル&Z世代のアメリカ人の間では、アマゾンをはじめとする森林破壊とその原因となる畜産の問題は、この火災が大きなニュースになるずっと前から問題視されていた。こうした情報を拡散したのはストリーミングで見られるドキュメンタリー映画や、YouTubeコンテンツとSNSである。

畜産から発生する温室効果ガスは世界全体の15~18%に上り、地球温暖化に多大な影響を与えていること。その畜産を進行するためにアマゾンの熱帯雨林が破壊されていることも広く知られるようになっていた。

その結果、ここ1~2年で環境保全のためにヴィーガンになったり、または肉の消費を控えようという若者が増えている。深刻な肥満問題を抱えるアメリカでは、そもそも自分たちが肉を食べすぎているのではという疑問が浸透してきていることも影響している。

ニューヨーク市ではこの秋から1週間の給食のうち、月曜日だけお肉をやめ、ベジタリアンの食事を提供するという「ミートレス・マンデー」を始めた。その理由も「健康と環境のため」と謳(うた)っている。

健康、環境、それに動物愛護も加わってひとつのムーブメントを作っているのだ。

■主食を断つことで政権に抗議

環境問題解決のために肉を控えるなんて、そんな焼け石に水のような……と思うかもしれない。しかしご存じの通り、トランプ政権は地球温暖化の原因を人間の活動によるものだとは認めていない。だからパリ協定から離脱し、石炭産業を奨励し、多くの環境規制を緩めている。

そんな中で、肉を食べないという選択は実は小さなものではない。なぜならアメリカ人にとって、肉は主食だからだ。日本人にとって米が主食であるように、それを食べないというのは心理的にも肉体的にも相当な変化、時には負担を伴うもので、それだけ彼らが危機感を感じているということにもなる。それは何もしない政府に対するせめてもの抵抗であり、周知する手段という考え方もできる。

同時に、肉を食べないという発想を押し付けてほしくないという抵抗や反感が強いのも事実だ。そこで、その抵抗を少しでも小さくしようという発想から、新たなビジネスも生まれてきている。

■大火災が世論にもたらしたものとは

今アメリカの最大のヒット食品の一つは、豆などで作られた代替肉バーガーだ。今や一般のスーパーやバーガーキングなどでも売り出されており、消費する人の8~9割はヴィーガンでもベジタリアンでもない、普段から肉を食べる若者なのである。まさに肉に変わるオプションとして、また新しくワクワクする食アイテムとしてトライしている状況だ。

代替肉が狙うのはアメリカの食肉市場だけではない。世界で経済発展が進む中、特にアジアを中心とした食肉需要の爆発的な急増に応えるためには、もっと畜産を振興しなければならないが、環境を破壊せずにそれを行うのはもはや難しい状況になっていると考えられている。

そこで大きく期待されているのが代替肉だ。バークレイズ・グループは、代替肉の向こう10年間の成長は、現在の100倍に当たる1400億ドルにまでに達し、食肉市場の10%を占めるようになると予測している。

その代替肉への注目も、今回のアマゾンの火災を受けてより高まったと言えるだろう。金融大手・UBS幹部の「代替肉は環境を救うことができる」というコメントが報道されるなど、環境を守りつつ世界の肉需要をどうするかは産業界、経済界を挙げての問題になっていることをうかがわせる。

こうしたニュービジネスが勃興(ぼっこう)する一方で、この肉問題はいつの間にか別の分野にも飛び火している。来年のアメリカ大統領選の争点の一つになりつつあるのだ。(続く)

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シェリー めぐみ(しぇりー・めぐみ)
ジャーナリスト・ミレニアル世代評論家
早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。オフィシャルブログ

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(ジャーナリスト・ミレニアル世代評論家 シェリー めぐみ)

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