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老舗ブランドの命を救うファンサイトの使い方

プレジデントオンライン / 2019年10月11日 11時15分

画像=Beach「バニラヨーグルト コミュニティ」

発売から25年を越えるロングセラー商品「バニラヨーグルト」が売り上げを伸ばしている。発売元は日本ルナ。大手メーカーに比べて宣伝予算が限られるなか、日本ルナはファンを集めた「コミュニティサイト」を作った。そこで見つかった「新しい食べ方」が老舗ブランドに新たな活路をもたらした——。

■メディアが変わると、マーケティングも変わる

メディアが変わると、マーケティングが変わる。小さなブランドが自らに潜在していた価値に気づき、新たな取り組みを展開する。そこで必要となる機動性に富んだ展開が、ウェブ利用の拡大ととともに、低予算で実行可能となっている。今回取り上げる小さなブランド「バニラヨーグルト」は、この可能性を捉えている代表的な例だ。

現在、メディアの地殻変動が急速に進んでいる(図表1)。地上波テレビの広告費をインターネット広告が上回る日が迫っている。プロモーションの王者の入れ替わりは時間の問題だ。

いや、実質的な交代はもう完了しているともいえる。ウェブ上を流通する情報は広告に限らない。企業のプロモーションには、オウンド・メディア(企業ホームページなど)による情報発信、そしてアーンド・メディア(個人のブログやSNSなど)を通じた情報拡散もある。これらを総合したプロモーション上の影響力は、すでにテレビ広告を上回っていると見られる。

ウェブを活用すれば、情報の普及を進められるだけではない。プロモーションの比重をウェブに移すことで企業は、取り巻く状況を迅速に理解し、小規模に移動し、適応を進めていくことが容易になる。

このメディアの変動への対応を迫られているのは、誰もが知る巨大ブランドだけではない。これはスモールだがグッドなブランドにとっての追い風である。

日本の広告メディアの動向
日本の広告メディアの動向

■なぜロングセラーのバニラヨーグルトは売り上げを伸ばしたか

「バニラヨーグルト」は、そんなニッチ・ブランドのひとつ。日本ルナ株式会社が販売するデザートヨーグルトである。

バニラヨーグルトの特徴は、手間と時間がかかる生産方法であり、長時間発酵が生み出す、まろやかで豊かなコクにある。ヨーグルトのトップシェアを争うブランドではないが、発売から25年を超えるロングセラー商品として、根強い人気を保っている。

日本ルナは昨今のメディアの変化を捉えて、新たなチャレンジに踏み切っている。

2016年に日本ルナは、「バニラヨーグルト コミュニティ」というブランドコミュニティ・サイトを開設した。会員数は年々増加しているが、その規模は現在でも数万人程度。会員数や閲覧数などの規模では、大手メーカーのサイトには遠く及ばない。

しかし、サイトの開設は意外なメリットがあった。日本ルナは、ブランドコミュニティ・サイトの運営をはじめたことで、バニラヨーグルトをどのような顧客が、どのような食べ方をしているかを、リアルにつかめるようになった。これが派手さはなくとも、しっかりと消費者の反応を得られるプロモーションへとつながっている。

その一例を、2018年のバニラヨーグルトを凍らせる食べ方のキャンペーンから見ていこう。

日本ルナはこのキャンペーンで、「バニラヨーグルト コミュニティ」を活用した。コミュニティサイトで「バニラヨーグルトを凍らせる食べる方を知っていますか?」「どれくらい凍らせるのが好きですか?」といった投稿募集の呼びかけを行ったのである。そして、そこに会員から寄せられた生の声を取り入れたメッセージを作成し、ホームページに掲載したり、店頭でのPOPに使ったりするキャンペーンを展開した。

■「凍らせて食べてみよう!」と提案

日本ルナのマーケティング部ではそれ以前から、消費者のなかにバニラヨーグルトを凍らせて食べる人がいることを、営業部の情報収集によって把握していた。しかし、どのくらいの人たちがそのような食べ方をしているか、その訴求力がどの程度あるかについては、つかみかねていたという。バニラヨーグルトは与えられた予算が限られていたため、大々的なマーケティング・リサーチができなかった。

そこで日本ルナは「バニラヨーグルト コミュニティ」の会員に向けて、凍らせて食べたことがある人がどれくらいいるかを尋ねることから、キャンペーンをはじめた。25%ほどの人から、凍らせて食べたことがあるとの回答が寄せられる一方で、「そんな食べ方があるなら、やってみたい」との声も集まった。

意を強くした担当者が、コミュニティ会員に向けて「凍らせて食べてみよう!」と呼びかけたところ、「凍らせるなんて、思いつきませんでしたが、やってみるとおいしい」などの反応があった。さらにトロッと派、シャリシャリ派、カチカチ派など、冷凍にかける時間の違いによる、さまざまな味わいを楽しむ人たちがいることが浮き彫りになっていった。

写真提供=日本ルナ
商品画像は企画当時のもの。 - 写真提供=日本ルナ

この盛り上がりを受けて、凍らせる食べ方を広めるべく、その推奨の仕方、食べ方のアレンジ、呼び名などの募集や投票が行われた。日本ルナはこうした経緯を、ホームページでのニュース発信、店頭でのPOPなどで紹介し、コミュニティへの参加が呼びかけた。SNSでの口コミの広がりなども期待しての取り組みである。

結果はどうだったか。日本ルナによれば、2018年度のバニラヨーグルトは、特に新商品の追加投入などは行わなかったにもかかわらず、国内ヨーグルト市場のダウントレンドのなかで、売り上げ実績で前年を上回ったという。ライトユーザーの購買頻度が上昇するなどのブランド・ロイヤルティの向上が、コミュニティ内で確認されている。

■ウェブが可能にした小規模事業へのマーケティングの活用

企業経営を、顧客を中心においた発想で展開する。このマーケティングという経営思想は、20世紀の大衆消費社会のなかで発展した。19世紀後半に始まる第2次産業革命は、飛躍的な工業生産量と一次産品流通量の増大を社会にもたらした。この変化に乗るべく20世紀の企業は統合的な対市場活動に乗り出した。マーケティングは巨大化する企業の対市場活動に貢献するべく、発展を遂げた。

しかし今は21世紀のただ中だ。新しい世紀に入り、すでに20年近い年月がたつ。グローバル化、サービス化、デジタル化と、新たに広がるフロンティアに、いまマーケティングは挑んでいる。

ウェブがマーケティングにもたらした変化は数多くあるが、そのひとつに、より小規模な企業でもマーケティングをやりやすくなった点がある。SNSやeコマースは、大企業のマーケティングにも広く活用されているが、テレビ広告や全国チェーンの活用と比べると、規模の小さな事業にも低予算で活用しやすい。

バニラヨーグルトのキャンペーンでは、大規模な消費者調査やテレビ広告が行われたわけではない。日本ルナは、営業部がつかんだ情報を基に、ウェブ上のブランドコミュニティでのやり取りを重ねながら、POPなどによる店頭でのキャンペーンを展開することで、消費者とのコミュニケーションを機動的に進めている。

ウェブをプロモーションに活用することによって企業は、状況を迅速に理解し、小規模な活動を通じて機動的に対処し、適応を進めることが可能になる。この機動力を利かせた展開は小規模事業に向く。しっかりとファンをつかんできた小さなブランドが、新たなマーケティングの可能性を捉えている。

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栗木 契(くりき・けい)
神戸大学大学院経営学研究科教授
1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。

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(神戸大学大学院経営学研究科教授 栗木 契)

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