1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

「1人前600円の自炊」に頼る母親は甘えているか

プレジデントオンライン / 2019年10月17日 6時15分

一食分の食材とレシピが一袋にまとめられている - 画像提供=オイシックス・ラ・大地

調理に必要な材料とレシピをセットにした、「ミールキット」の利用者が増えている。業界大手のオイシックスは定期購入会員が12万人を超えた。1人前で約600円の「自炊」を利用するのは、どんな人たちなのか——。

■子育て中の共働き会社員世帯が主な購入層

業界大手のオイシックス・ラ・大地がミールキット「Kit Oisix(キットオイシックス)」の販売を始めたのは、2013年。2017年ごろから利用者が増え始め、2019年3月には定期購入会員が12万人を超えた。オイシックスでは青果や加工食品も販売しており、全体の会員は約22万人。2017年のデータによれば、キットオイシックスの購入者は30~40代が7割以上、さらに子供のいる人が7割で、子育て中の共働き世帯が購買の中心層だという。

「ミールキット」とは、調理に必要な材料をセットにした商品だ。キットオイシックスには、カット済みの野菜や味付けされた肉、調味料など、人数分の材料とレシピが同梱されている。ニンジンやカボチャなど固くて切るのに時間と手間がかかるものはすでに切ってあり、肉類は味付け済みだ。食材とともに届いたレシピを見ながら調理し、家にある皿に盛り付けるだけで、一食分のメニューができる。献立を考え、食材を購入し、調理する手間を省くことができ、食材を余らせることもない。

同社では、①主菜と副菜の2品が20分で完成、②全てのメニューに5種類以上の野菜を使用、③オイシックスの取り扱い基準を満たした契約農家・契約メーカーの食材のみを使用という条件の下、キットを開発。毎週、和・洋・中20メニュー以上を取り揃(そろ)えて献立のマンネリ化を防いでいる。

■2017年から2019年で認知度は約4倍に伸びた

安全性を重視した家庭向け野菜の宅配を中心に展開していた同社には、顧客から「料理をしたくても忙しくてできない」「野菜の使い方がわからない」などの声が届いていた。そこで、レシピと食材のセット販売を始めたところ、熱狂的な支持が集まり、ミールキットの本格的な開発に至ったという。

特に累計出荷食数の伸び率が高くなったのが、2017年以降だ。同社はその理由を、認知度の向上にあると考えている。調査を行った結果、2017年には20.7%だったミールキットの認知度が2019年には80.8%まで上がり、約4倍に伸びていることがわかった。執行役員でサービス進化室室長の菅美沙季氏は、こう振り返る。

「当社のサービスを初めて使う人向けの『お試しセット』にミールキットを入れ続けてきました。それがSNSで発信されたり、テレビや雑誌で紹介されたりしたことで、世の中の認知度が上がっていったと思います。インスタがはやりだした時には、インスタグラマー監修の商品を発売したこともあります」(菅氏)

撮影=プレジデントオンライン編集部
執行役員/サービス進化室室長の菅美沙季氏 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

■大人用の料理から「とりわけ」ができるシリーズもある

利用傾向を調べると、時間や子供の有無によって選ぶ商品が変わるという興味深い調査結果が出た。例えば時間に余裕があり、手の込んだ料理を作ることが可能な家庭には、レストランの味を家庭で楽しめる「シェフシリーズ」が人気だ。シェフや料理研究家が監修したメニューで、誰でも簡単に目新しい料理を作ることができる。このような家庭の場合、1週間に1~2回分のミールキットを注文するのが恒例だ。

仕事や子育てで忙しく、調理時間をできる限り減らしたい利用者には、「クイック10」のシリーズが好評だ。野菜や肉類をバランスよく食べられる主菜・副菜が、たった10分で完成する。このような家庭では1週間に3~4回分注文するのが定番だが、毎日ミールキットを頼んでいる家庭もあるという。最近は、大人用の食事を作りながら0~2歳の子供用の食事をとりわけられるシリーズも人気だ。

■顧客調査で利用者の胃袋をつかむ

さまざまなシリーズが開発されている背景には、徹底した顧客調査がある。各部署が顧客に対して、味や見た目、作り方など細部にわたり意見を聞いていく。菅氏自身も顧客の家を訪問し、冷蔵庫の中身を見せてもらっているそうだ。

「実際に購入している食材を見ると気づきが多いです。事前に行ったヒアリング内容とは違う点が見えたり、数値には表れない気持ちを感じ取れたりします。顧客からの提案を聞きに行くのではなく、『ミールキットについて困りごとはないか』『こういう新商品があったら欲しいと思うか』など、常に顧客目線でヒアリングを行っています」(菅氏)

また、価格設定にも細心の注意を払っている。ミールキットは、基本的には2人前と3人前を販売している。2人前の場合、最低価格は980円。有機栽培の野菜を使用して添加物を減らすとどうしても価格がつり上がってしまうため、クリスマスやハロウィーンなどの特別メニューは2000円を超えることもある。しかし1人前で換算したときに1000円を超えると、顧客の家計を圧迫しかねない。価格に対する納得感と安全性を重視した上で、2人前で1200~1300円の価格帯の商品が多い。1人600円程度の計算だ。

■「手作り感」を残すことで、罪悪感をなくす

とはいえ、オイシックスのミールキットはすべての野菜や肉類をカットしているわけではない。例えば「そぼろと野菜のビビンバ」の場合、千切りに時間のかかるニンジンはカット済み、卵は温泉卵に加工しているが、傷みやすい小松菜は束で届けている。品質を管理する部署と協力し、鮮度や品質、時短の可否や顧客の要望などを踏まえて決めているそうだ。

あえて切る工程を残すことで、「手作り感」を出せるというメリットもある。レンジで解凍するだけの冷凍食品や、熱湯を注ぐだけのフリーズドライとは異なり、利用者が自分好みの調味料や食材を足して作ることもあるそうだ。ミールキットは、「全く料理をしていない」という後ろめたさや罪悪感を減らしつつ、自己流の味を追求できる、ほどよい位置にある。

■「塩一つまみ」がわからない人でも作れる

料理に不慣れな人にもミールキットは使えるようになっている。

「『塩一つまみ』の分量がわからない、『鍋にひたひた』の加減がわからない、という顧客の声に耳を傾け、レシピを進化させてきました。『お茶碗1杯分』という言葉にグラム数を併記したのも、アンケートに『きっちり計りたい』という声があったから。『扇切り』という表現を『4等分』に変えるなど、ちょっとした表現の変化で料理のしやすさは変わります。ミールキットが家に一つあれば、自分一人で簡単に料理ができると実感してほしいです」(菅氏)

最近は、「妊娠中、療養中で妻が料理を作れないときでも、ミールキットがあれば夫に料理を任せられる」という声もよく聞くそうだ。仕事や子育てに追われる忙しい現代人が食卓で豊かな時間を過ごすのに、ミールキットが一役買っているようだ。

----------

華井 由利奈(はない・ゆりな)
ライター
愛知県出身。椙山女学園大学卒業後、印刷会社に就職。デザイン業務を1年間担当した後、コピーライターとしてトヨタ系企業など100社以上の取材を行う。2016年に独立し、2018年に初の自著『一生困らない 女子のための「手に職」図鑑』を光文社より出版。5刷2万7000部を達成した。現在は2作目を執筆しながら、日経ウーマンオンラインなどで女性活躍、働き方、教育、生活情報を中心に執筆。全国各地の中学・高校・大学や教育講座で講演も行っている。

----------

(ライター 華井 由利奈)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください