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精神科医「高学歴な人が性犯罪に突然走るワケ」

プレジデントオンライン / 2019年10月13日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/South_agency

ダメだとわかっていても、性犯罪をしてしまう人がいる。精神科医の和田秀樹氏は「どんなに頭のいい人であっても、過労や睡眠不足、過度なストレスなどにより脳が誤作動を起こすことがある。そうなると理性では止められない」という――。

■なぜ、30代男性は人前で女の子の教え子に抱き着いたのか

本来賢い人がなんらかの要因で突如バカになってしまうケースを精神科医の視点で分析している本連載だが、最近、私のクリニックにそうした患者が2人立て続けにやってきた。医師には守秘義務があるので、内容を一部改変して紹介することをご了承いただきたい。

ケース1は、繁盛している教育産業の経営者の30代男性である。

高学歴で、ある教育関連の企業に勤務していたが、数年前に独立。生徒も大勢ついてきて、またたくまに複数の教室を展開する教育産業のオーナーになった。ところが、この男性はある日、こともあろうに大勢の生徒がいる前である女性の教え子に抱きついてしまった。場合によっては強制わいせつ行為で逮捕されてもおかしくないが、平身低頭で教え子とその親に謝罪してことなきを得た。その後、この男性は自分の父親に付き添われて私のクリニックにやってきた。

診察時に本人に聞くと、「これまでにそういう既往はないが、この手の性的異常行為は常習性があると聞いたことがあり、またやってしまうのではないか不安です」と答えた。

ケース2は、現役の40代男性医師である。

数年前に駅で盗撮をやって、スマホを奥さんに取り上げられた過去がある。現在、スマホは持っていない。今回は、本人は酔っていてよく覚えていないが、電車で痴漢をして被害女性に駅員に突き出された。この男性も、やはり常習性が不安になり、家族に連れられての来院となった。

ケース1、2とも、まさに「賢い人がバカなことをした」事案であるが、果たして本人たちが心配するように常習性=依存性の可能性があるだろうか。

■「やったらまずい」と思っていても性犯罪する人は心の病

依存症というと、本欄でも以前、アルコール依存やギャンブル依存症が賢い人をバカにするものとして紹介したことがある。

また、最近では、万引きが犯罪とわかりつつもやめられない心の病「クレプトマニア」がある種の依存症として注目されている。この病は、女性に多いとされているが、社会的地位の高い人にもいて、賢い人をバカにするものと言えないことはない。

一方、痴漢や盗撮についても、知的な文化人が捕まることもあり、やはり、「頭はいいのに性癖が」と叩かれることになる。痴漢や盗撮のケースでは「やったらまずい」と頭ではわかっているのにやめられないとしたら、やはり依存症の症状に近いものを私は感じる。

写真=iStock.com/joyt
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/joyt

日本の場合、性犯罪者について処罰感情が先立つことが多い。だが、症状の程度にもよるが、性犯罪はカウンセリングを行わなければ治らない心の病であり、カウンセリングなどの対策を行わないと再犯を繰り返してしまうリスクも高い。

依存症というのは意志が壊される病気だ。「●●しないようにしよう」という意志の力でなんとか対処しようとしてもいかんともしがたいところがある。

■脳のソフトが故障しているのだ

心の病には、依存症のほかにもいくつもある。

例えば、その行為が不合理だと思っていても、それをやらないと不安や不快感のテンションが高すぎて、結局、その行為をやめられない・とまらないという強迫神経症である。

また、鍵が閉まっているか心配になって、何百回、ひどい場合は何千回も鍵の確認に行く確認強迫や、ばい菌が除去されたか気になって何時間も手を洗い続ける手洗い強迫という病気もある。

前出のクレプトマニアについては、依存症というより、欲しいものを見ると、タダでそれを盗らないと気が済まない強迫神経症の一種だという考え方もある。

このクレプトマニアの人にしても、痴漢がやめられない人にしても、それが確信犯的な娯楽になっている(それはそれで病的だが)のでなく、したくないのにしてしまう状態だとしたら、やはり依存症、あるいは強迫神経症といっていいかもしれない。

要するに、脳のソフトが故障しているのだ。カウンセリング治療をしても治るとは限らないが、治療をしないと治る見込みはきわめて低い。

■心の病でなくても、教え子に抱き着いてしまうことがある

冒頭で触れた2人の場合、本人も家族も再犯のリスクがあるのなら、それをカウンセリングなどの治療でなんとか回避しようと考えたのだろう。賢明な判断だ。

2人を診察した私は、彼らの発言などから見て、依存症や強迫神経症のレベルではないと判断した。依存症・強迫行為というには、過去のトラブルの頻度が少なすぎるからだ。

それにしても、なぜこの2人は女の子に抱きついたり、痴漢したりしたのか。

人間はみな欲望を抱く。だが、その中には、法律的にも一般常識的にも容認されないものがある。たとえば、男性なら温泉で女湯を覗いてみたいという願望や、豊かなバストの女性が目の前に現れた時につい触りたくなるといった衝動だ。そういう不埒なことを考えたとしても病気ではないが、実際にそれを実行すれば当然、犯罪の扱いを受け、断罪される。

通常、この手の欲望を実際の行動に移さないような機能が人間の脳には備わっている。それが理性であり、脳科学者たちはそれが大脳皮質、とくに前頭葉の働きだとしている。

写真=iStock.com/mrPliskin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mrPliskin

年齢を重ね、高齢者になると次第に前頭葉が委縮し、その機能低下が起こる。そのため腹が立った時に衝動が抑えられずに暴言を吐いたり、暴力を振ったりする人が増える。これが暴走老人のメカニズムと考えられている。

この極端な事例が、前頭側頭認知症と呼ばれるものだ。万引きや痴漢行為をした人を画像検査で調べてみると前頭葉が激しく萎縮していることがある。私が監督を務めた2作目の映画『「わたし」の人生 わが命のタンゴ』(2012年公開)はこのタイプの認知症の親をもった子供の苦悩を描いたものだ。

■原因となるのは、寝不足や薬、アルコール、ストレス

先の2人は年齢的にみても、こうした脳の劣化が行動の原因ではないだろう。だが、脳委縮がなくても、一時的に脳機能の低下を引き起こすことがある。原因となるのは、寝不足や薬やアルコールの影響、ストレスなどだ。そうした状況で人は普段は抑えている欲望が抑えきれなくなって、行動に移してしまう。

2人のうち、教育産業のオーナーは、部下のスタッフの配置転換に伴う過労が原因と考えられた。もうひとりの医師は、院内で人間関係のストレスを抱えていたところにアルコールが入っていた。

■脳のコンディションが悪いと、欲望のコントロールが利かない

私は、この2人に次のようなアドバイスした。

「おそらく、あなたはご心配になるような性依存症のようなものではありません。ただ、人間というものは、過労やストレス、アルコールなどの影響で、欲望のコントロールがおかしくなることがあります。あなたの欲望そのものは、誰にもある類のもので、異常と悩むことはありません。しかし、ストレスや寝不足で、行動に移してしまったということは、ストレスや寝不足に弱いタイプなのかもしれません。それを肝に銘じて、なるべく、ストレスをため込まないようにし、過労を避けるようにしてください。あと、アルコールを飲まれるときも、外でなく、家族とご一緒のときがいいと思います」

写真=iStock.com/Taku_S
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Taku_S

要するに、脳のコンディションが悪いと、欲望のコントロールが利かなくなることがあるので脳を含めた体調維持の重要性を伝えたわけだ。

私は今回、自分のクリニックに駆け込んできた2人を「病的な人間の異常な行動」だとは考えていない。人間の理性は意外にもろく、脳の誤作動でまともに働かなくなることはしばしば起きるからだ。

■事件を起こして社会的な信用を失う前にするべきこと

働き方改革などが叫ばれているが、過労や寝不足、仕事のストレス、人間関係のトラブルにより、うつ病などの心の病になるだけでなく、このような形で理性のタガが外れることもある。

最近はようやく過労問題やうつ病などに対する社会的な認識も高かったので、職場の理解を得ることが以前ほどは難しくなくなっているだろう。

しかしながら、ストレスや飲酒などにより脳のコンディションが悪い状態で、「事件」を起こしてしまった場合、社会的信用を失い、解雇の理由になりかねない。

この手の「事件」でなくても、脳のコンディションが悪いために、普段は温厚な人間が暴言を吐いたり、暴力をふるったりするために、一気にパワハラのレッテルを貼られてしまうこともある。昨今しばしば問題になるあおり運転も、普段は温厚なのに、たまたま脳のコンディションが悪い時にやってしまった人もいるかもしれない。

昔と違い、酒の席だからとか、虫の居所が悪かったからとかいう理由で水に流される時代ではない。スマホで写真や音声などの証拠が残され、場合によってはそれが瞬く間に拡散されることもある。

・自分で過労と感じたら休む。
・十分な睡眠をとる。
・人間関係などストレスがひどいと感じたら、誰かに相談する。
・会社で受けさせられるストレスチェックのテストで高い点になっているようなら、医務室その他できちんと相談を受ける。

これらのことを心がけることで、自分の社会人経験=人生の危機を遠ざけることができるのだ。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
国際医療福祉大学大学院教授。アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹こころと体のクリニック」院長。大学受験生向けの通信指導事業「緑鐡受験指導ゼミナール」代表。I&Cキッズスクール理事長。東京大学医学部卒業。ベストセラーとなった『受験は要領』や『「東大に入る子」は5歳で決まる』ほか著書多数。

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(精神科医 和田 秀樹)

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