すぐ辞める新人の言い訳「それは教わってない」

プレジデントオンライン / 2019年10月11日 15時15分

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いまでも3割の新入社員は3年以内に辞めてしまう。なぜなのか。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「上司との関係の悪さが退職理由となるケースが多い。たとえばミスをして叱られると、『それは教わっていません。教えなかったあなたが悪い』と開き直る。上司はそうした態度にあきれて、指導を放りだしてしまう」という――。

■「職場の人間関係が悪い」から辞める若手社員

10月1日の内定式が終わり、就職が決まった学生は来年4月の入社まで半年と迫った。

しかし本当に入社してくれるのか予断を許さない。就活が終わっても「本当にこの会社でいいのか」と不安にさいなまれる「内定ブルー」に陥る学生も少なくない。

実際に入社直前に内定を辞退する学生もいる。企業はそれを防止するために入社までの間に「工場視察」や親睦会などを開催してつなぎとめるのに必死だ。無事に入社にこぎつけても、1年目に11.9%、2年目に10.4%、3年目に9.5%と毎年1割ずつ新人が辞めていく(大卒、厚生労働省調査)。

なぜすぐに辞めてしまうのか。

エン・ジャパンの『「退職のきっかけ」実態調査』(2019年9月26日)によると、20代で多かった上位5つは以下の通りだ。

「給与が低かった」(46%)
「やりがい・達成感を感じない」(43%)
「人間関係が悪かった」(34%)
「企業の将来性に疑問を感じた」(34%)
「残業・休日出勤など拘束時間が長かった」(33%)

■「上司が仕事の進め方についてちゃんと教えてくれない」

このうち「給与が低い」「企業の将来性」は、入社前に調べておけば事前にわかることであり、入社後にそれを言い出すのは社員側に問題があるように見受けられる。

「拘束時間が長い」に関しては、仮に就活説明会で「当社の残業時間は短い」とアピールされていたとしたら、それは明らかに反則であり、退職したのは企業側に責任がある。

では、「やりがいを感じない」「人間関係が悪かった」はどうだろうか。長年、人事の現場を取材していると、この2点が若い社員が辞める大きな理由だと感じる。

「やりがいを感じない」という新人はどのくらいいるのか。

マンパワーグループが入社2年目までの22~27歳の正社員に聞いた調査(2019年9月25日)によると、「やりがいを感じない」が11.8%、「ほとんどやりがいを感じない」が19.8%で計31.6%もいる。

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同調査ではさらに掘り下げて、どんなときにやりがいを感じるかについて聞いている。そのベスト3は「仕事の成果を認められる」(37.6%)、「仕事をやり遂げる」(34.7%)、「自分の成長を感じる」(34.7%)である。

これは、逆に言えば、社員側が「仕事の成果が認められない、やり遂げられない、成長を感じられない」と感じれば、たちまちやりがいが失われ、離職に発展してしまうということだろう。

そしてこの問題を先ほどの離職原因である「人間関係が悪かった」と合わせて考えると「新人の指導に当たる職場の先輩や上司との関係がうまくいっていない」ことに原因がある可能性が高い。

実際に新入社員が退職する理由としては先輩や上司との関係悪化というものが目立つ。製薬会社の人事課長はこう語る。

「なぜ辞めたいのか、と聞くと、最初は誰もが会社の組織や風土が自分には合わないとか、今の仕事が自分に向いていないとか、抽象的な理由を言います。あるいは本当かどうかわかりませんが『他にやりたい仕事がある』とキッパリ言う人がいます。でも詳しく話を聞いていくと『上司や先輩とうまくやっていく自信がありません』、『ちゃんと仕事の進め方について教えてくれない』といった上司とのトラブルが原因で辞めたいと言うのです」

■上司に叱られたことをきっかけに辞めた製薬会社の新人23歳

例えば、この製薬会社の入社1年目のA氏(23歳)は、上司の課長に命じられて顧客の病院の医師との商談に赴いた。その席で医師から専門の薬剤についてあれこれと尋ねられたが、それほど知識のないA氏はしどろもどろの受け答えに終始した。たまりかねた医師は「たいした知識もないのによく商談にきたものだ。あんた、私をバカにしているのか、もう一度出直して来い」と大きな声で怒られたという。

その日は叱られたショックで会社に戻る気が失せ、直帰。翌日、医師に言われた薬剤の情報を調べていると、課長がやってきて「お前なにやってんだ。○○先生から電話が来てカンカンに怒っていたぞ」と叱りつけられたという。

■「課長が教えてくれなかったせいで顧客に叱られたんです」

ムッとなったA氏は「薬の情報について課長は教えてくれませんでしたよね。そのせいで先生に叱られたんです。だから今調べているんです」と返した。

すると課長は「お前なあ、そんなことは先輩の○○に聞けばいいじゃないか、事前に調べて訪問するのは常識だろう。第一、どうして昨日のうちに報告しないんだ。お前のせいで謝罪に行かなければいけないだろ」と、怒鳴られた。

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この後、A氏は課長に退職届を出したという。辞める覚悟のA氏は人事課長にも上司の態度をこうなじったという。

「営業の研修を受けて薬剤の知識はそれなりに持っているつもりです。担当する専門領域の薬剤の処方などはある程度先輩や上司から指導を受けましたが、個別の薬剤については医師にどのように説明するのか教わっていません。新人に対して丁寧にわかりやすく指導するのが指導役の先輩や上司の役割ではないんですか。自分なりに必死に勉強しているのに、うちの会社ではそれをフォローする仕組みが欠けているのではないですか。それなのになぜパワハラを受けないといけないんですか」

パワハラかどうかはともかく、指導体制が確立していないというA氏の理屈も確かにそうかもしれないと人事課長は思った。上司の教育や接し方にも問題があるが、その一方で今どきの新入社員の特性を改めて知らされた思いだったという。

「最近の新入社員は性格的にはガツガツしていなくて、仕事をソツなくこなす、いわゆる“良い子”が多い。5段階の成績ではオール4のイメージ。教科書通りにやることはすごく得意だし、ある意味で優秀です。ただし、“失敗を恐れる優等生”でもある。だから教えてもらっていないことをやることを極端に嫌がる。何かミスをして叱っても『教えてもらっていませんから』と平気で言う。それでいて相手の懐に飛び込むのも下手。へりくだって教えてくださいと言うのが嫌だし、教えてくれないのも嫌なのです」(人事課長)

■体育会出身の上司と新人とのトラブルが目立つ

教えられた仕事は忠実にこなすのだが、失敗したくないので教えられていない仕事に挑戦しようとしない。それをやってミスしても「教えなかったあなたが悪い」と、自分の失敗を認めない。

その結果、上司や先輩とこじれると、簡単に退職してしまう。こんな新入社員と、「先輩の1を聞いて10を知れ」とか「失敗を重ねてこそ成長につながる」などと教えられた上司世代と波長を合わせるのは難しいだろう。

実はこうした新人とのトラブルが「体育会出身の上司との間で目立つ」と語るのは小売業の人事部長だ。

「体育会出身の上司の多くは人一倍後輩の面倒をみます。体育会出身者は総じて素直です。大学時代、練習の中で何か失敗して先輩が注意すると『わかりました』と言って自分で何がいけなかったのか考えようとする。だから、後輩にもそうした素直さ・謙虚さを求め、きちんと応えた後輩をかわいがります」
「しかし、新人が店舗の商品の仕入れ数を間違える失敗をして『お前の責任だからな、気をつけろ』と叱ると『そこまで教えてもらっていいません』と言い返される。自分の責任と認めない態度に憤慨するのです。大概の上司は言い訳されるのが嫌いなのですが、体育会系の上司ほど反発されると怒ってしまい、教育もしたくないし、二度とこいつとは仕事をしたくないと思ってしまう。その結果、ほったらかしにして新人が職場で浮いてしまい、辞めてしまう」

■「そんなことぐらいで辞めるのか」という昔の常識は通用しない

こうした新人と上司との摩擦は間違いなく退職の引き金になりがちだ。「そんなことぐらいで辞めるのか」という昔の常識は通用しない。

しかも最近の新入社員は上司の言動やパワハラに敏感だ。日本能率協会の「2019年度新入社員意識調査報告書」によると、どんなときに転職を考えるかという質問に「パワハラやセクハラがあったとき」が76.8%、「職場の人間関係が悪いとき」が73.5%を占めている。この2つの理由は明らかに先輩・上司に起因するものだ。

それは、言葉や思いが互いにかみ合わないという価値観のギャップが大きく影響している。新入社員の離職を防止するのは決して簡単なことではない。

写真=iStock.com/takasuu
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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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