森田まさのり「尾田栄一郎の漫才は絶対面白い」

プレジデントオンライン / 2019年10月11日 15時15分

漫画家・森田まさのり氏。代表作に『ろくでなしBLUES』『ROOKIES』『べしゃり暮らし』など - 撮影=西田 香織

芸人の頂点を目指す若者たちを描いた漫画『べしゃり暮らし』の作者・森田まさのり氏。昨年は自ら漫才コンビを結成して「M-1グランプリ」に出場し、準々決勝に進出した。なぜ漫画家がお笑いにこだわり続けるのか。『べしゃる漫画家』(集英社)の出版を記念し、本人に聞いた——。

■M-1出場のきっかけは“相方”への対抗意識

『べしゃる漫画家』を出すことになったきっかけは、友人の写真家・タカハシアキラさんが、M-1に出た僕たち(森田氏と漫画家の長田悠幸氏。コンビ名は「漫画家」)に密着して、写真を撮ってくれていたことです。撮りためた写真を何か形にできないかと編集の人に相談したところ、この本の企画が上がってきました。まさか、自分の人生や漫画について語ることになるとは思ってもいませんでしたが。

M-1に出ることになったのは、単なるノリです。『べしゃり暮らし』はお笑いの漫画ですけど、僕はお笑いの漫画では絶対笑えないと思っているんです。ところが、長田君の『キッド アイ ラック!』という大喜利の漫画を読んだら、面白いんですよ。それが悔しくて、長田君に勝ちたくて、2016年に漫画家を集めての大喜利イベントをはじめました。

その打ち上げの席で、長田君に「今度、一緒にM-1出ようか」って声を掛けたんです。こっちはその場のノリで言ったつもりでしたが、しばらくして、「先生、ネタできました」という連絡が長田君から来まして。

その時、驚いたことが2つあったんです。1つは「本当に出るの?」。もう1つは「え、あなたがネタを書いちゃったの?」。僕は長田君に勝ちたいから大喜利もやっているのに、あなたがネタを考えちゃダメじゃない、と(笑)。やるなら僕がネタを書く、という思いがあったんです。

だから、長田君に「ネタができました」と言われても、「今ちょっと引っ越しで忙しいから、後で落ち着いてから見る」と言って、本当に引っ越しで忙しかったんですけど、その間に自分でもネタを書き始めたんです。長田君が1本書いたんで、対抗して僕は2本書きました。

■ワンピース作者は絶対面白い

ネタの出来は、お互いまあまあでした。長田君のネタがとても面白かったらどうしようと思っていたので、ちょっとホッとしましたね。長田君が書いたのは漫画家ならではのネタで、僕が書いたのは、普通の漫才師さんがやるようなネタでした。それを知り合いの芸人さんに見てもらったところ、漫画家がやるなら漫画家らしいネタをやった方がいいというアドバイスもあり、長田君のネタを育てていくことにしました。作り込んでいくうちに、元のネタとは全くちがう感じになりましたけど。

ネタの打ち合わせは、喫茶店やカラオケBOXなどでやりました。2人のテンポが結構ちがっていて、僕は早くて長田君はゆっくりなんです。2人のテンポを合わせるには、歩きながらやった方がいいという話を聞いて、井の頭公園の池の周りを2人で歩きながらネタ合わせをしたりもしました。

ネタは、僕が「どうも、尾田栄一郎です」(大人気漫画『ワンピース』の作者)と挨拶するボケではじまります。でも、そもそも僕が誰なのかを知らないお客さんばかりなので、全くウケませんでした。当の尾田君は喜んでくれたみたいです。怒っていなくてホッとしました。もし尾田君がお笑いをやったら? 漫画家として面白いことは考えられるでしょうから、尾田君が本気になったら、すごく面白いと思いますよ。

撮影=西田 香織
(写真左から)テレビドラマ化に伴い再開した短期集中連載をまとめた『べしゃり暮らし』20巻。カバーは主人公の上妻圭右(あがつま・けいすけ)。森田氏初の著書『べしゃる漫画家』 - 撮影=西田 香織

■漫才がウケると「どっ」という言葉が押し寄せる

M-1に出る前は、舞台を体験することで、いろいろなことを吸収できるだろうなと思っていたんですけど、実際に出てみると、とんでもなく緊張して、それどころではなかったです。それよりも、取材で楽屋に入らせてもらったり、袖から見ていたりした方が、よほど勉強になります。

それでも、実際に舞台に立ってみて、笑い声の浴び方とかを体感できたことは大きかったですね。『べしゃり暮らし』では、漫才がウケた時に「どっ」という言葉で表現してきたんですが、それが間違っていなかったことがわかり、自信をもって描けるようになりました。

もともと子どもの頃からお笑いが大好きで、しゃべりがうまかったら芸人さんになりたかったくらいなんです。だから、最初の連載漫画だった『ろくでなしBLUES』が終わった時点(1997年)で、次は『べしゃり暮らし』を描こうと思っていました。

でも、連載していた『週刊少年ジャンプ』の当時の副編集長から「お笑いは絶対漫画では無理だ」と却下されました。「もう一本ハードなやつを描いた後だったらいいよ」と言われて、次に描いたのが野球漫画の『ROOKIES(ルーキーズ)』でした。

■「インプットが足りない」と言われて

確かに、漫画で笑いを表現するのは難しい。ただ、僕がやりたかったのは、読者をネタで笑わせることではなくて、昔から憧れていた芸人の人間ドラマを描くことだったので、自信はありました。

でも、今にして思えば、やっぱり、あのタイミングでやらなくて良かったです。当時はまだ30歳と若く、『べしゃり暮らし』の世界観を描くのは無理でしたし、物語の柱になるM-1も、まだ始まる前でした。『べしゃり暮らし』は、M-1という、主人公たちが目指す目標がちゃんとあったからこそ描けた話ではありますね。それに、当時は芸人さんたちの取材もできていませんでした。

僕は高校を卒業してすぐ漫画の世界に入ったので、この世界のことしか知りませんし、仕事ばかりであまり外にも出ません。新人編集者に「先生はインプットが足りないからなあ」と言われたことがあるくらいです。『ろくでなしBLUES』や『ROOKIES』は高校時代の経験と想像だけで描いていましたけど、『べしゃり暮らし』はお笑いの世界のリアルな話なので、芸人さんや吉本興業の養成所(NSC)などを取材させてもらいました。

撮影=西田 香織

■漫画と漫才のネタの面白さはちがう

また、別の新人編集者からは、他の人が描いたお笑いの漫画を読むように言われたんですけど、僕はすごく影響を受けやすいんで、読まないようにしました。編集者には「それじゃあ先生、伸びませんよ」と言われましたけど。

『ろくでなしBLUES』を描いていた頃、大人気だった漫画『ビー・バップ・ハイスクール』(きうちかずひろ作)を読んで影響を受けてしまったことがありました。それだけに、他の人の本や漫画を読むよりも、芸人さんたちから直接話を聞きたかったんです。

実際に芸人さんたちとお付き合いをさせていただいて、芸人さん同士の接し方や、先輩後輩の付き合い方などがよくわかりました。例えば、『べしゃり暮らし』の中で、デジきんの金本が後輩にたばこを買ってこさせて、そのおつりを後輩にあげるシーンが出てきますが、あれも実際にあったことをもとに描いています。

漫画と漫才のネタを比べると、どちらも起承転結があって、似た部分はあると思います。でも、実際の漫才は、ネタだけじゃなくて、芸人さんのキャラクターであったり、声の張り方であったり、間であったり、それら全てが組み合わされて面白くなっていると思うので、漫画の中で、ネタだけで面白くするのは難しいですね。

■ネームは必ず声に出して読む

漫才のシーンに関しては、イメージだけでセリフは書かないという選択肢もありました。でも、せっかくセリフが書けるんだから、そこは逃げないで、恥をかくつもりで描くことにしました。ネタを書いて披露するって、結構恥ずかしいことなんですね。だから、お笑いの漫画を描かない人は多いと思います。その点、僕は割と恥知らずなところがあるので、こういう漫画を描けるのは僕だけだと思っています。

漫才のシーンを描いてみてわかったのは、ボケが右側にいないと描きにくいということです。漫画は右から左に読んでいきますから、ボケて、突っ込むという流れをスムーズにするには、右にボケ、左にツッコミという立ち位置がいいんです。

『べしゃり暮らし』の主人公・圭右(けいすけ)の漫才での立ち位置は右側です。最初はボケだったので、それで良かったんですが、途中からツッコミに変わった時に、これはやりにくいな、と思いました。だから、漫才をしている2人の後ろ姿をあえて描くことで、ツッコミの圭右が左側に来るようにして、ボケからツッコミへの流れをスムーズにするような工夫をしました。

撮影=西田 香織

ネームを作る時は、いつも自分でセリフをぶつぶつ声に出しながら書いています。周りから見たら不気味ですよね。だから、いつも仕事場で1人きりの時にやります。音読して、テンポなどがしっくりこなければ直すんです。そもそも、僕は黙読というのがなかなかできなくて、人の漫画でも文章でも、声を出して読まないと読めないんですよ。目だけでなく耳からも入ってこないと、頭に入らないのかもしれません。

■お笑い漫画のギャグは絶対にダメ

僕はギャグシーンを描くのが大好きで、『ろくでなしBLUES』や『ROOKIES』にはたくさん入れています。だけど、『べしゃり暮らし』では、ギャグは一切描いていません。「笑い」がテーマの漫画でウケを狙うためのギャグを描いてしまうと、何が面白いのかがわからなくなってしまうからです。だから、例えば『ろくでなしBLUES』の小兵二のような、リアルではない漫画的なキャラクターは絶対出せないんです。そういう意味では、『べしゃり暮らし』の校長先生はちょっと『ろくでなしBLUES』よりのキャラになっていて、失敗だったかもしれません。

『ろくでなしBLUES』にはギャグシーンがたくさんありますけど、登場人物たちは突っ込んだり呆れたりするだけで、決して笑いません。その方が、読者が笑えるからです。もし小兵二が何か面白いことをやって、周りの人が笑ったとしたら、そのシーンは読者から見ると、つまらなくなってしまうはずです。

それに対して『べしゃり暮らし』は、お笑いがテーマなので、主人公が面白いことをやったら、周りの人たちは笑わないといけません。しかし、そんなふうに先に笑われてしまうと、読者にとっては面白くないはずなんです。だから、読者を笑わせようとするのは、早々に諦めました。漫画の中の人も笑っていて、読者も笑ってくれるなら、それが一番いいんですけど、難しいですね。

■漫画家を辞めて芸人になる日

森田まさのり(著)/タカハシ アキラ(写真)『べしゃる漫画家』集英社

僕自身は芸人さんに憧れているので、本当は人前に出てふざけたいし、テレビとかに出て笑ってもらいたいんです。けれど、それを上回る「緊張しい」なんで、実際にやるのは難しい。M-1の時は、とにかく練習に練習を重ねて、ライブは全部で16回やりました。そうすることで、少しずつ慣らしていったんです。1回「どっ」という笑いをもらうと、緊張しなくなるんですよね。

初めてのM-1で準々決勝まで行ってしまったので、またM-1に出るかどうかはわからないです。でも、どこかの舞台にはまた立ちたいと思います。やっぱり、あの時の興奮や喜びは忘れられないですし、もう一度味わってみたいですから。もし「漫画家をやめて、芸人になってください」というオファーが来たらどうするか? 嫁と相談します(笑)。

撮影=西田 香織

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森田 まさのり(もりた・まさのり)
漫画家
1966年滋賀県生まれ。高校在学中に手塚賞佳作を受賞し、漫画家デビューを果たす。1988年、「週刊少年ジャンプ」において『ろくでなしBLUES』で連載デビュー。その後、『ROOKIES』『べしゃり暮らし』とヒット作を連発。2018年には「M-1グランプリ2018」に出場し準々決勝に進出、ベストアマチュア賞を受賞した。

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(漫画家 森田 まさのり 構成=増田 忠英)

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