職場の足の引っ張り合いに巻き込まれない方法

プレジデントオンライン / 2019年10月15日 6時15分

アクサ生命社長兼CEO 安渕聖司

会社に入ったからには、できるだけ出世したい。しかし、その過程ではライバルとの駆け引き、派閥争いから社内恋愛まで「嫉妬」と無縁ではいられない。そんなしがらみを上手にやりすごす方法はないものか。周囲の目を気にせずキャリアアップできる人の思考法について、アクサ生命の安渕聖司社長に聞いた──。「プレジデント」(2019年11月1日号)の特集「『嫉妬』の黒い心理学」より、記事の一部をお届けします。

■レースの先頭を走りたい【若手編】

(悩み)上昇志向が強く、出世争いでも絶対に同僚や後輩に負けたくありません。どうすれば出世街道を歩むことができますか?

【安渕】そもそも私は「出世したい」と思ったことが1度もありません。私にとって興味があるのは、「どうすればより大きな仕事ができるか」「どうすれば自分をもっと成長させられるか」ということだけです。

私が新卒で三菱商事に入社したのは、海外で働いてみたかったことと、会社に留学制度があったことが理由です。この2つの夢を叶えるには、より大きな仕事をして早く成長するしかないと考えました。だから若手の頃から、常に自分の2つ上くらいのポジションにいる上司や先輩たちの仕事を見て、いかに早くそれに追いつくかを考えてきた。上司に頼まれた仕事をやり切るのはもちろん、頼まれなくても仕事に役立つ情報があれば勝手に調べたり、周囲の期待以上の成果を出そうと考えるようになりました。

それは出世のためではなく、目の前にあるハードルを越えて120%の仕事をすることが単純に楽しくて好きだったからです。それを繰り返していたら、結果的に肩書がついてきた。それが私の率直な感想です。

その人にどんな仕事が与えられるかは、「スキル×経験」の掛け算で決まります。課長に見合うスキルと経験があればその役割が与えられ、社長に見合うスキルと経験があればその役割が与えられる。自分の掛け算値を高める努力を続ければ、周囲が「あの人ならこの仕事ができるだろう」と評価し、それに見合う役割をオファーしてくれるのです。

出世を目的にすると、かえって出世できずに終わることが多いものです。なぜなら「社長になりたい」が目的になると、無駄なことを考えるから。それよりも「どんなスキルや経験を身に付けるべきか」に集中すれば、確実に成長できる。その満足感や達成感こそが、人間を前に進ませる原動力になるのです。

写真=iStock.com/eclipse_images
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/eclipse_images

■出世の早さに差が出る【課長編】

(悩み)同期の中でも昇進が遅く、先に出世していく仲間を見ると妬ましくなります。安渕さんは優秀な人に嫉妬したことはありますか?

【安渕】嫉妬はしませんね。優秀な人を見ると「こんなにすごい人がいるんだ」と感心はしますが、それは嫉妬ではなく相手に対する評価にすぎません。特に同じ会社の人に対して、妬ましいと感じた経験はまったくありません。それは「ライバルは会社の中ではなく、外にいる」と考えていたからです。

30代でハーバード・ビジネススクールに留学したときも、世界にはとんでもなく優秀な人間がいるという現実に直面しました。数字に強い人もいれば、組織論に詳しい人もいて、それぞれに高い専門性を持つ人が集まっていた。しかも最初はネーティブの英語の速度についていけず、さすがに「とんでもないところへ来てしまった」と焦りました。

でも優秀な人たちに囲まれたからこそ、気づいた自分の強みがありました。それは、「皆の意見をまとめたり、人と人とをつないだりして、1つのチームをつくることが自分は得意なのではないか」ということ。特定の分野に優れた人は、その方向にまっしぐらに進んでいくので、ほかの人が言うことに耳を貸さない傾向があります。数字に強いと、「数字が証明しているのだから、おまえの意見は意味がない」で終わってしまうわけです。

そこで私がメンバーの間に入り、「数字も大事だが、ほかの視点も大事なんだよ」と説明することで、議論の全体像をつくり上げることができた。私がやったことはチームリーダー的な役割になるのでしょうが、それが自分にできることなのだという感覚を掴んだのはこの留学中です。

大事なのは人を評価するときに、自分と比べないこと。おそらく「出世できるか、できないか」に敏感な人は、肩書やポジションという形で、自分を認めてほしいと考えているのではないでしょうか。でも自分で自分の良いところを肯定すれば、他人の評価に依存しなくなります。人と自分を比べるのではなく、自分で自分の個性を認めることができれば、過度に人を意識することもなくなる。大事なのは他人の負の感情を気にしないことです。

■人が変わったと言われる【部長・役員編】

(悩み)昇進した途端「偉そうな態度をとるようになった」と悪評が広まっているようです。部下の数が増えるのですから、周囲への態度が変わって当然だと思うのですが、間違っているでしょうか。

【安渕】肩書とは「誰が偉いか」を決めるものではなく、その人が組織の中で果たすべき「役割」を示します。私には社長の肩書がついていますが、それは会社の中で一番偉いという意味ではなく、「経営や組織全体を最も大きな視点で捉える役割」をもらったということ。その役割を頂いたことはとても嬉しく思いますが、肩書さえあれば人がついてくるわけではありません。周囲の信頼や協力を得られるかどうかは、自分の力次第なのです。

Getty lmages=写真

私は自分や相手の肩書がどうであれ、人によって態度を変えないことを徹底してきました。その背景には、ボランティア活動の経験があります。私は12年ほど前から、海外の難病施設を手伝いに行く、養護施設の高校生に英語を教えるプログラムなど、いくつかの社会活動に参加してきました。こうした場所では、会社での肩書は通用しません。ボランティアの参加者たちは互いをさんづけで呼び合い、それぞれが何ができるかを考え、自分の役割を果たすのです。

こうして上下関係のない環境を経験すると、会社でも肩書で物を言うことはなくなります。自分が肩書に縛られやすい自覚がある人は、ぜひ会社の外の世界に触れ、上下関係のない人間同士の付き合いを経験することをおすすめします。

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安渕 聖司(やすぶち・せいじ)
アクサ生命社長兼CEO
1955年、兵庫県生まれ。79年早稲田大学政治経済学部卒業後、三菱商事へ入社。ハーバード・ビジネススクールMBA修了。2007年からGEコマーシャル・ファイナンス・アジア社長に就任。09年日本GE、GEキャピタル社長。19年4月より現職。

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(アクサ生命社長兼CEO 安渕 聖司 構成=塚田有香 撮影=市来朋久 写真=Getty lmages)

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