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N国党に「宣伝補選」を許した自民不戦敗のウラ

プレジデントオンライン / 2019年10月11日 19時15分

記者会見を終え、ポーズを取るNHKから国民を守る党の立花孝志党首(参院比例代表)。参院埼玉選挙区補欠選挙に出馬する意向を表明した=2019年10月8日、東京・永田町 - 写真=時事通信フォト

自民党が10月10日に告示された参院埼玉選挙区補欠選挙に候補者の擁立を見送った。これまで4期16年知事を務め、県内では圧倒的な知名度を誇る上田清司氏が出るため、「勝ち目なし」と判断したのだ。自民党が不戦敗を選ぶのは珍しい。どんな裏事情があったのか――。

■「安倍1強」にもかかわらず、なぜ不戦敗を選んだのか

補欠選挙は、立憲民主、国民民主など野党が支援する上田氏と、NHKから国民を守る党の立花孝志氏の一騎打ち。現職参院議員の職をなげうって「話題の」立花氏が参戦したことで注目度は高まったが、選挙の本質は自民党が独自候補を擁立しなかった点に尽きる。

6日発表された共同通信の世論調査では安倍内閣の支持率は53.0%。自民党支持率は42.1%。数字を見る限りでは高値安定。野党側の支持は伸び悩んでおり「安倍1強」は揺るがない。ここで自民党が不戦敗を選ぶというのは常識的には考えられない。

もちろん埼玉県の地域事情もある。8月に行われた県知事選では、上田氏の後継指名を受けた参院議員の大野元裕氏が出馬して、自民党などが推す新人に勝利。その流れをかって上田氏が出馬するのだ。よほど強力な候補でなければ勝つのは難しい。

自民党が国政選挙の補選で不戦敗を選ぶのは2016年4月の衆院京都3区補選以来。「京都3区」と言ってもピンとこないかもしれないが、育休取得を宣言した自民党の宮崎謙介衆院議員(当時)が女性タレントと不倫していたことが報じられ、議員辞職したのを受けた補選。いわゆる「ゲス不倫」補選だ。

この時は、選挙区内で自民党に対する批判が高まり候補擁立を見送った。不戦敗はそれ以来、というのだから非常事態である。

■「上田氏は憲法議論に前向きであることを表明済み」

自民党は4月の衆院大阪12区、沖縄3区補選で敗北。先に紹介した埼玉県知事選に加え岩手県知事選でも支援する候補が敗れている。7月の参院選では貫禄をみせたものの、散発的に行われている補選や大型地方選では負けが目立つ。それだけに、参院埼玉補選は、本来なら有力候補を立てて勝利を目指したいところだった。

ところが、である。自民党側を取材していても焦燥感はほとんど感じられない。その理由を、下村博文党選対委員長がこう語っている。

「上田氏は出馬会見で完全無所属、憲法議論に前向きであることを表明している」

つまり上田氏は野党勢力、非改憲勢力ではなく、自民党と協力関係をつくる改憲勢力と受け止めているのだ。

もちろん下村氏の発言は、不戦敗になることへの「負け惜しみ」の側面はある。上田氏が主として野党勢力に担がれて選挙戦を戦うのは間違いないのだ。

■上田氏当選の場合は「二階派入りする」という噂

ただし、下村氏の発言が虚言と言い切れない側面もある。上田氏は、1993年の衆院選で小沢一郎氏らが率いる新生党で衆院議員初当選。新進党、民主党などを経て知事に転じた。こう表現すると根っからの野党政治家のようにみえるが、そうではない。新生党に加わる前は新自由クラブ、自民党に所属。ルーツは保守政治家なのだ。

9月20日の出馬会見では、憲法について「9条は自衛隊の存在が重きをなす条文になっているべきだ」と発言。自民党が目指す「9条に自衛隊明記」に理解を示しているとも受け止められる発言だ。さらに上田氏は「国会時代の仲間らから『政治の場で県政をバックアップしながら国政の課題に取り組め』という声を受け止めた」と発言している。

「国会時代の仲間」としてすぐに浮かぶのが自民党の二階俊博幹事長。二階氏と上田氏は新生党、新進党で同じ釜の飯を食った仲。二階氏は上田氏に対しては「立派にやってこられた。今後も活躍されるだろう」と、エールを送る。

補選が告示された10日には、自民党の平沢勝栄衆院議員が上田氏の応援に駆けつけ「二階氏から応援してこいと言われている」と語った。永田町では、上田氏が当選した場合、二階派入りする、という噂が絶えない。

■N国が憲法改正で安倍自民党と協調する可能性はある

二階氏といえば、野党にいた議員を自身が率いる自民党二階派に受け入れながら勢力拡大を図っていることで知られる。一例が民主党幹部として自民党と敵対してきた細野豪志氏。今は二階派入りし、自民党入党をうかがっている。上田氏が当選した場合、細野氏のような形で、二階氏と政治行動を共にする可能性はゼロではない。

二階派は「訳あり」の政治家を受け入れることで「自民党の駆け込み寺」などとありがたくないニックネームをつけられている。しばしば、党内他派閥との軋轢も生む。しかし、上田氏の「引き抜き」に成功すれば、それは安倍晋三首相をはじめ、自民党全体から歓迎されることになる。

「上田氏はもともと自民党側の政治家だった」という理屈が立てば、補選で不戦敗したことへの言い訳が立つ。さらに重要なのは、参院で改憲勢力が1つ増え、安倍氏の悲願である改憲発議のために必要な「3分の2」に1歩近づくこともできるのだ。しかも、戦わずして、それが実現できる。

もし補選で立花氏が勝つことになっても、シナリオはさほど変わらない。「『NHKをぶっ壊す』と安倍政権が手を組む可能性」で紹介した通り、N国は憲法改正などで安倍自民党と協調する可能性は十分ある。

参院埼玉選挙区補選は、もはや27日の投票日以降に関心が集まりつつあるのだ。選挙の後、当選した方の議員に、自民党がどのようなアプローチをかけるか……。そのドラマの主役は、補選で勝った参院議員ではなく80歳の老獪な政治家・二階氏ということになるのかもしれない。

(プレジデントオンライン編集部)

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