ふるさと納税"行き過ぎた返礼品ブーム"の歪み
プレジデントオンライン / 2019年10月15日 12時15分
■寄付集めを重視する姿勢が強すぎる
最近、“ふるさと納税”の返礼品が過度になっているとの批判を耳にする。一部で、行き過ぎた返礼品が提供されるケースが出ているようだ。監督官庁である総務省も、返礼品の一部に問題は発生しているとの認識を示している。
そうした批判もあり、6月以降、静岡県小山町、大阪府泉佐野市などがふるさと納税への参加を認められなくなった。一部の自治体では、寄付集めを重視する姿勢が強くなりすぎ、“ふるさと納税”本来の趣旨が見落とされてしまった。すでに泉佐野市は総務省と法廷で争う構えを示している。
ここで政府・納税者・自治体は、ふるさと納税制度の本来の趣旨に立ち返らなければならない。同制度の最も重要なポイントは、各自治体が地元企業などと連携してその魅力を高めてふるさと納税を呼び込み、地方経済の活力向上につなげることだ。政府は、本来の趣旨にもとづいたふるさと納税を目指して、関係者にていねいな説明を行い十分な理解と納得を得る必要がある。
■“ふるさと納税”の本来の意義
ふるさと納税には、国という行政システムに頼らず人々の自由な意思にもとづいて、地方自治体に財源を再分配するという機能がある。それは、自治体、各地の企業、納税者の3者にとって利得(メリット)があるはずだ。
ふるさと納税では、納税者が自分の応援したい自治体に寄付を行う。自分が生まれた地域でもよいし、自然災害に見舞われた地域、あるいは魅力的な物品が生産されている地域など、どの自治体にふるさと納税を行うかは個人の判断次第だ。
各自治体がふるさと納税を通して財源を確保するには、その地域の魅力を高め、磨き、発信しなければならない。ふるさと納税には、各自治体がみずから新しい発想を取り入れ、創意工夫の発揮を目指す呼び水となる可能性がある。
その地域に魅力を感じ「応援したい」と思う人は寄付を行う。この納税者は、住民税などの控除を受けることができる。それに加え、特産品などを“返礼品”として受け取ることもできる。これは、納税者にとって大きなメリットだ。
同時に、自治体はふるさと納税を通して財源を確保できる。地方の企業も、返礼品の提供を通して自社の強みをアピールすることなどができる。それは、わが国の地方経済の活性化にとって重要だ。
■返礼品競争が激化
ふるさと納税は、人々の自由な考えを活かして納税者の満足感と地方の活力向上の両立を目指そうとする制度だ。その発想は、これまでの地方財政制度とは大きく異なる。
わが国では、地方交付税によって自治体間の財源の不均衡を解消することを目指してきた。この制度では、政府が集めた税金を、官僚組織が合理的と判断した基準にもとづいて、各自治体に再分配する。いくらの交付税を、どこに配るかは財務官僚の考えが影響する。
一方、ふるさと納税では、一人ひとりの納税者(国民)から、直接、自治体に資金が回る。中央政府の所得再分配機能を経由することなく、個人の意思にもとづいて地方にダイレクトに財源が移るのが特徴だ。
問題は、自治体が他よりも多くの寄付を集めようとして、過度な返礼品を提供するようになってしまったことだ。ふるさと納税制度は、地方貢献・応援という理念にもとづくアイデアの創出促進よりも、返礼品競争が激化してしまっていると指摘する経済の専門家もいる。一部では、地元の企業が取り扱っているからという理由で、他の都道府県の特産品やギフト券、家電などを返礼品として提供するケースもある。これは行き過ぎだろう。
同時に、地方の応援よりも、返礼品を目当てにふるさと納税を行う人も増えている。この結果、一部の自治体では住民税収の落ち込みが軽視できない問題になってしまった。
■「ふるさと納税で困っています」
神奈川県川崎市は市民向けのパンフレットに「ふるさと納税で困っています」と題したコラムを掲載した。それによると、同市では他の自治体にふるさと納税を行う市民が増加し、市税が49億円も流出してしまった。これは、ふるさと納税の負の側面といってもよいだろう。
本来、返礼品を提供することの根本的な目的は、寄付への“お礼”だったはずだ。それに加え、農産・海産物などの提供による地域の魅力発信や、体験型観光需要の創出などを通した話題作りなどのためにも、返礼品を提供する意義はある。
これに対して、他地域の産品や家電、ギフト券などを返礼品にして寄付を集めようとする発想は、本来の枠組みから逸脱してしまっているといわざるを得ない。なお、わが国の地方財政法では「地方公共団体は、(中略)他の地方公共団体の財政に累を及ぼすような施策を行つてはならない」と定めている。
6月、総務省は寄付額の3割以下の地場産品を返礼品として認めることを決め、過度な返礼品競争を是正しようとしている。その一方、泉佐野市などは地方分権一括法に則り、「国と自治体は対等であり、総務省は助言を行うことはできても、規制はできない」と反発している。現時点で、国と地方の意見の対立がどう解消されるか、特定の見解を示すことは難しい。
■本来の趣旨にもとづいた制度運営が必要
政府は、“地方を応援する”という本来の趣旨に立ち返り、ふるさと納税制度の運営を修正していかなければならないだろう。
ふるさと納税制度のアイデアそのものは、わが国が地方創生を進める上で重要と考える。少子化、高齢化、人口減少の3つが同時に進む中、地方から都市部へ移住する人が増えてきた。地方経済の維持には、各自治体が企業と連携して産業基盤を整備するなどし、持続的に地域の活力を高めようとすることが大切だ。
ふるさと納税は、こうした取り組みを支える枠組みとして創設された。納税者が各自治体の取り組みを評価し、応援したいと思うところに寄付を行う。それを用いて、自治体は自らの力で成長を目指す。さらに財源を確保するために自治体は、企業などと協力してより良いアイデアやモノを生み出そうとしなければならない。
各地の企業がより良いモノなどを生み出し、返礼品を通して消費者がそれを評価し、需要が喚起されるという好循環が生み出されれば、地方の経済活動は活発化する可能性がある。ふるさと納税には、地方創生を後押し、さまざまな展開に波及する側面があるといえる。
■地域ブランドを創出するには
それをきっかけに、自治体・企業が評価の高かった産品のブランド化(地域ブランドの創出)を進め、都市部や海外市場での流通を目指すこともあるだろう。それは、地方の力で“ヒト・モノ・カネ”を呼び込み、自力で成長を目指すために重要な取り組みの一つとなろう。
ふるさと納税は、こうした本来の趣旨に立ち返って運営されるべきだ。ふるさと納税制度の根本的な発想が誤っていたとはいえない。返礼品競争が行き過ぎ、それがある程度の期間続いたことが問題だ。
政府と自治体は、納税額を増やさんがために、過度な返礼品をつけることを戒めながら、原点回帰を目指すべきだ。そのためには、政府が返礼品に関するルールを定めるだけでなく、趣旨に沿った成功例、そのケーススタディなどをより積極的に紹介し、原点にもとづいた運営への理解と賛同を自治体や納税者から得ていくことが求められる。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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