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お金やモノが増えると「心」が貧しくなる理由

プレジデントオンライン / 2019年11月2日 11時15分

中野孝次 著●所得の欲望から自己を解放することが、自分たちの心を自由にし、豊かにすることを、数多の文人たちの生き様に見てとる。(文春文庫)

■老後のお金が足りないのではないか

金融庁金融審議会が、「公的年金だけでは、老後の生活資金が2000万円不足する」という試算を出したことは記憶に新しく、老後の生活資金に不安を覚えた人もいるかもしれません。しかし、会社に定年まで勤めて、厚生年金を受給しているシニア世代の多くは、贅沢をしなければ生活に困窮することはないでしょう。それに、お金の多寡だけで、豊かさが決まるわけでもありません。

私の母は父を亡くした後、60歳から77歳で亡くなるまでの18年間、月約17万円の遺族年金を受け取り、家庭菜園の世話などをしながら、悠々自適の一人暮らしをしていました。そして「あなたみたいに朝から晩まであくせく働かなくても、あなたよりもずっと心豊かな生活で幸せよ」と口にしていました。

そこで、老後の生活を考えるときにおすすめしたい本が、20世紀を代表する評論家の1人、中野孝次氏が著した『清貧の思想』です。日本で古来、脈々と受け継がれてきた「清貧」を尊ぶライフスタイルに注目し、それを再評価したものです。本書は、バブル経済崩壊直後の1992年に出版され、たちまちベストセラーになりました。バブルの夢から覚めた日本人は、金銭欲と物欲を追い求める価値観を見失い、虚脱状態に陥っていました。そこに「精神的な豊かさ」という新たな価値観を示され、心引かれたのでしょう。

■清貧を貫いた本阿弥光悦

そして本書では、清貧で知られた古の文化人たちを、人生の達人として紹介しています。戦国末期から江戸初期にかけて幅広く活躍した芸術家、本阿弥光悦は、京都屈指の富豪に生まれながら、清貧を貫いた1人ですが、中野氏はその母、妙秀が、光悦の生き方に影響を与えたと指摘しています。こんなエピソードが、本書に載っています。

光悦は若い頃、茶の湯に凝っていて、あるとき、お気に入りの「瀬戸(せと)肩衝(かたつき)の茶入れ」を買い、懇意にしていた大名、前田利長に見せにいきました。すると、帰りがけに前田家の重臣たちから、「殿もお気に召したようだから、白銀300枚で譲るように」と懇願されましたが、丁重に断ったのです。その顛末を帰宅してから妙秀に話したところ、「よくぞ、断った」と大いに喜んだそうです。お金に左右されず、「純粋に茶の湯を楽しむ」という精神を優先した光悦の姿勢を、妙秀は高く評価したわけです。

清貧は、「貧乏」とは違います。貧乏の場合、お金がなく、貧しい暮らしをせざるをえない。しかし、清貧の場合、お金があるにもかかわらず、「物質的に豊かな暮らし」をあえて求めないのです。所有するお金やモノが増えると、それらに人生を支配されるようになり、精神的な豊かさが奪われてしまうからです。

また本書は、僧・源信が『往生要集』で示した「足ることを知らば貧といへども富(ふ)と名づくべし、財ありとも欲多ければこれを貧と名づく」という教えを紹介しています。財産は整理し、少数の気に入ったモノにこぢんまりと囲まれつつ、心豊かに暮らしていく。そう考えていけば、老後のお金の心配など解消するのではないでしょうか。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』など著書多数。

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(小宮コンサルタンツ代表取締役会長CEO 小宮 一慶 構成=野澤正毅)

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