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貧民窟にいた子が名門大学の教授になれた理由

プレジデントオンライン / 2019年11月3日 11時15分

エリック・ホッファー 著、中本義彦 訳●港湾労働の傍ら図書館に通い、独学で哲学者を目指した著者。「沖仲仕の哲学者」の名声を受けるまでの人生を振り返る。(作品社)

■親の存在がうっとうしい

中高年世代にとって、親との関係は切実な問題です。最大の懸案は介護でしょう。正直、老親の存在を負担に感じたり、うとましく思うこともあると思います。そうした悩みに対して、私はあえて「それでいいんですよ」と肯定的に助言したいと思います。現実問題として「人生100年時代」といわれるいま、100歳の親を80歳の子どもが面倒を見ることは不可能です。

そこで大切なのが発想の転換で、そのための多くのヒントが得られるのが、『エリック・ホッファー自伝』です。著者のエリック・ホッファーは米国の哲学者で、生涯自由を追い求め、多くを背負い込まず、自分を愛する生き方を貫いた人です。世間の軸ではなく、自分の軸で幸福を追求しました。それは彼の生い立ちと深く関係していることが本書に示されています。

ドイツ系移民の子として米ニューヨークに生まれたホッファーは、7歳で母親と死別するとともに失明します。15歳で奇跡的に視力が回復。以来、貪るように読書に励みました。しかし、正規の学校教育は受けていません。18歳の頃に父親が他界、天涯孤独の身となります。ロサンゼルスの貧民窟で暮らし、28歳のときに自殺を試みて未遂に終わります。

その後はカリフォルニアで季節労働者として農園を渡り歩く傍ら、図書館へ通い独学。長年サンフランシスコの港湾で沖仲仕として働き、「沖仲仕の哲学者」とも呼ばれています。後年、カリフォルニア大学バークレー校で教鞭も執りますが、65歳まで沖仲仕の仕事はやめず、港湾労働者の労働組合幹部も長く続けました。また、女性から好意を寄せられても独身を貫きました。

■独自性を与える弱者の役割

彼は世間的な成功や幸せには背を向け、自分を愛する生き方を通します。彼にとって自分を愛するとは、自由であることでした。読書や執筆の時間があれば、それ以外は普通の生活ができるだけのお金と健康、それだけで十分とします。長く不幸のどん底にいたことで、何が自分にとって真の幸せなのかを知り、多くを求めなかったのです。

ただし、彼が追求した自由な生き方は、決してネガティブな意味での、わがままな自由ではありません。彼はずっと弱者の味方、大衆の味方でした。本書で彼は、「弱者が演じる特異な役割こそが、人類に独自性を与えているのだ」と述べています。人の弱さは肯定されるべきものです。実際、人の弱さが世の中をよくしている側面があります。強い人ばかりの社会は息苦しくて生きにくいものです。

ホッファーがいうように、自分の弱い部分をネガティブにとらえる必要はありません。親の介護も、すべてを背負い込まないことです。いまの時代、さまざまな介護サービスが利用できます。自分が苦しければ、ほかの方法を探せばいい。日本人は自分を犠牲にしてしまいがちで、またそれが美徳のように考えられています。それでがんばりすぎて、潰れてしまう人が少なくありません。そうなれば親も不幸です。自分の幸せを優先し、できる範囲でやる。もう少し気楽な生き方をホッファーにならってはどうでしょう。

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小川 仁志(おがわ・ひとし)
山口大学国際総合科学部教授
京都府生まれ。京都大学法学部卒業。名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。伊藤忠商事勤務、フリーターの経歴を持つ。市民のための「哲学カフェ」を主宰。

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(山口大学国際総合科学部教授 小川 仁志 構成=田之上 信)

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