1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. 経済
  4. ビジネス

全否定せず話を聞けば人間関係はほぼ解決する

プレジデントオンライン / 2019年11月4日 11時15分

ハンナ・アレント 著、志水速雄 訳●「人間の条件」の最も基本的な要素「労働」「仕事」「活動」から考察し、公的領域での個人の活動の重要性を指摘する。(ちくま学芸文庫)

■ご近所付き合いが苦手だ

ご近所付き合いに悩みを抱えている方に手に取ってほしいのが、『人間の条件』です。やや難解ですが、人が社会に参加することの意義と方法を論じている哲学書です。

著者のハンナ・アレントはドイツ出身の哲学者、思想家で、「公共哲学の祖」とも呼ばれています。ユダヤ人で、ナチズムの台頭により米国に亡命しました。ナチスドイツによるユダヤ人虐殺を裁いた「アイヒマン裁判」では、「悪の陳腐さ」を問いかけ、世界中で議論を巻き起こしました。

彼女は本書で「人間の条件」、つまり人間の営みには3つの大事なことがあると指摘しています。「労働」「仕事」「活動」です。ここでいう労働とは日常的な家事と考えればよいでしょう。仕事とは生活の糧を得るためのもので、より創造的なやりがいや自己実現につながるものです。私たちはたいていこの2つだけで日々の生活を送っていますが、もう1つ、労働や仕事を超えた社会とのかかわりである活動が重要だと彼女はいいます。

活動が大事な理由の1つは、それが社会にとって必要だからです。人間がみな利己的になって社会参加しなければ、社会秩序や地域コミュニティーは損なわれます。誰もが社会にかかわることで、多様な視点を持つ人たちが自分の利害を超えて、社会の問題を考えたりすることができるようになる。ですから私たちは、ご近所付き合いや地域社会を軽視しがちですが、よりよい社会をつくるために積極的にかかわるべきなのです。

■ご近所こそが出現の空間

そのときに大事なこととして、彼女は「多数性(複数性)」と「出現の空間(現れの空間)」を指摘します。「多種多様な人びとがいるという人間の多数性は、活動と言論がともに成り立つ基本的条件である」とし、活動において多様な考えや意見が不可欠だと指摘しています。そのうえで、それらの人が偶然的に出会う場所である「出現の空間」が大事だとも別の箇所で述べています。ご近所付き合いや地域活動はそういう場なのです。

とはいえ、ご近所付き合いが苦手な人はどうすればいいのでしょうか。大事なのは認識を変えることです。そういう人は往々にして地域コミュニティーに対する偏見が見受けられます。閉鎖的であるとか、自由に発言しにくいとか。立場もそうです。会社ならば地位や肩書で周りは尊重してくれて、ものもいいやすい。しかし、地域社会ではそれがないから苦手意識が生まれる。その認識を転換するのです。

アレントによると、活動においては社会的属性は取り払うべきもので、そうした場ではむしろ個性的で自由な発想や意見が歓迎されるといいます。したがって素の自分を出しやすい環境なのです。それがわかれば苦手意識が消えて楽しめるようになるのではないでしょうか。

実は私が主宰する「哲学カフェ」も似ていて、参加者は基本的に名前や肩書をさらさず匿名で発言、対話します。加えて「全否定しない」「人の話をよく聞く」「難しい言葉を使わない」のルールがあります。このルールはご近所や地域コミュニティーでも同じです。さあ、臆することなく飛び込みましょう。

----------

小川 仁志(おがわ・ひとし)
山口大学国際総合科学部教授
京都府生まれ。京都大学法学部卒業。名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。伊藤忠商事勤務、フリーターの経歴を持つ。市民のための「哲学カフェ」を主宰。

----------

(山口大学国際総合科学部教授 小川 仁志 構成=田之上 信)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください