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JRの「計画運休」に怒らなくなった日本人の進歩

プレジデントオンライン / 2019年10月16日 11時15分

台風19号の接近に伴い、掲示された運休情報などを見る人たち=2019年10月11日、埼玉県川口市のJR川口駅 - 写真=時事通信フォト

■「スーパー台風」に匹敵する勢力による記録的大雨

台風19号による豪雨は各地に甚大な被害をもたらした。消防庁のまとめ(10月15日現在、第10報)によると、死者47人、行方不明者14人、負傷者は226人に上る。

今回の台風19号は一時、最大風速が60メートル前後に達する、いわゆる「スーパー台風」に匹敵する勢力となり、これまで経験したことのない記録的な大雨を降らせた。

だが、台風は地震とは違い、数日前から予想できる。予想が付くということは、事前の対策ができるということだ。そのひとつが、このところ実施されるようになった「計画運休」である。

■計画運休のできる社会は「成熟した社会」だ

昨秋の台風24号では、JR東日本が初めての計画運休を実施した。当時の朝日新聞の社説(2018年10月6日付)は冒頭でこう主張する。

「荒天が予想されるとき、事前に列車の停止を決める『計画運休』に、鉄道各社が踏み切るようになった。危険時の外出の抑制にもつながる。課題を解決しながら定着させていきたい」

計画運休を定着させていくことに沙鴎一歩も賛成だ。大きな災害が予想されるときに不要不急の外出を避けるのは当然だし、それができる社会は「成熟した社会」と言えるからである。

朝日社説は「台風24号が列島を縦断した先月30日。JR東日本は正午過ぎに、首都圏の全路線で午後8時以降の運転をとりやめると発表した。首都圏での大規模な実施は初めてで、複数の私鉄も順次、運休や減便を決めた」と書いてこう指摘する。

「荒天のさなかで列車を運行すれば、駅間での立ち往生にもつながる。乗客が閉じ込められても風雨の中での救出は難しい。計画運休はこうしたリスクを避けられるうえ、利用者は余裕をもって予定を変更でき、帰宅困難者も減らせる」
「災害に先手を打つ意味で、望ましい対応だったといえる」

計画運休はリスクの回避につながる。しかも忘れたころにやって来るのが災害である。だからこそ災害には先手の対策が肝要なのだ。

■「鉄道は運行して当然」だと思う利用者のワガママ

昨年10月6日付の朝日社説は続ける。

「円滑な運用には、気象予報を十分生かし、前日のうちに『可能性がある』ことだけでも発表するようにしたい。同時に告知を徹底する必要がある」

それではどう広く告知していけばいいのか。

朝日社説は「駅での放送や掲示に加え、ホームページやSNSを使った発信、多言語での情報提供など、多様な方法で、早く、広く知らせることが、乗り遅れや乗客の滞留防止につながる」と説明する。

計画運休は5年前にJR西日本が初めて実施した。この時は他の私鉄が運行を続けたため、JR西は批判を受けた。ある意味で利用者はワガママだ。公共の輸送機関である鉄道に対し、「運行して当然」だと思っている。

必要なことは試行錯誤だろう。今後も着実に計画運休を続けていけば、勝手な思い込みをもつ利用者は減るはずだ。

■「情報提供の方法やタイミングには見直すべき点がある」

2018年10月5日付の毎日新聞の社説は「台風とJRの計画運休 経験を積むことの大切さ」との見出しを立て、計画運休の是非を取り上げている。

その社説で毎日社説はこう指摘する。

「全面的な運休は乗客の利便性を損なうが、安全が確保できない恐れがある以上、公共交通としてやむを得ない対応だった」
「ただし、情報提供の方法やタイミングには見直すべき点がある」

情報を出すときの方法とタイミング。確かにこの2つを誤ると、利用者から非難され、公共の交通機関としての存在価値まで失いかねない。

さらに毎日社説は解説し、かつ指摘する。

「当日午後8時以降の計画運休をJR東日本が報道機関に公表したのはその日の午後0時15分だ。首都圏の在来線を全て止める異例の措置である。直前に知り慌てた人もいよう」
「計画運休はぎりぎりまで検討を要するだろうが、可能性があることは前日にも公表できたはずだ」
「そうした情報が伝えられていれば、当日の外出を極力控えるなど利用者の行動は変わっていたかもしれない」

利用者の立場に立って運行する。やはりこの基本が鉄道会社に求められるのである。

■「午後8時からの運休を当日正午に公表」では不満多数

今年9月9日に関東地方を急襲し、千葉県を中心に長期の停電や断水の被害をもたらした台風15号でも、JR東日本は在来線全線で計画運休を実施した。

JR東日本は8日午前、台風がどの時間帯にどの進路を進むかを予想した気象庁のデータを参考に検討を開始。その結果、同日の午後4時半には「首都圏の全ての在来線であす9日の始発から午前8時ごろまで運転を見合わせる」と発表した。

前述したようにJR東日本は昨秋の台風24号で初めて計画運休を実施した。そのときは午後8時からの運休を当日正午に公表したため、利用者から不満の声も出た。そのため今年9月9日の大風15号では、前日での発表となったのである。

■台風という自然相手の予想には難しさが伴う

ところが、数多くの路線で「9日午前8時ごろ」には運行が再開できず、しかも再開時間は何度も繰り下げられた。再開を見込んで各駅に集まった多くの乗客が長時間待たされ、長蛇の列ができた。

JR東日本は乗客の利便性を考慮して「午前8時ごろ」としていたが、台風の進み具合が予想よりも遅く、利用者から批判されることになった。

予想が外れた場合、「想定外だった」と決まり文句を繰り返しても仕方ない。そのときは素直に謝罪し、次に活かすことが大切である。実際に改善が進めば、利用者からの批判は減っていくはずだ。台風は今後も必ずくる。失敗したら次の台風対策に役立てればいいのである。

■「非常時対応の認識の共有が災害に強い社会をつくる」

さて今回の台風19号に対する計画運休はどうだったのか。各紙の社説を読んでいこう。10月14日付の朝日社説は中盤で次のように書く。

「今回の台風は日本に近づいても勢力が衰えず、気象庁は早くから注意を呼びかけていた。12日から13日にかけては、5段階ある警戒レベルのうち最大値5にあたる大雨特別警報を、順次各地に発令した。それでも甚大な被害が出た。人々に危機感がいつ、どれだけ伝わったのか、検証がいるだろう」

そのうえで最後に「一方で、鉄道の計画運休や商業施設の休業、イベントの中止などがあらかじめ発表され、混乱の回避につながった。経験を重ね、非常時の対応について認識を共有していくことが、災害に強い社会をつくる」と指摘する。

台風被害は来年以降も心配されるが、日本の社会は計画運休を受け入れられる成熟した社会に向かっていると思う。

■重要なのは「安全を優先する危機管理の意識」だ

読売新聞(10月14日付)の社説も、計画運休などの事前の対策について評価している。

「気象庁は今回、早い段階から警戒を呼びかけた。これを受け、JRや私鉄各社、航空会社は計画運休や欠航を発表した。スーパーなども休業を決めた」
「顧客や従業員の安全を優先する危機対応が、企業に根付きつつある。多くの人が事前に食料や防災品を買い求め、不要不急の外出を避けることにつながった。早めの対応で、国民生活への混乱は最小限に抑えられたと言えよう」

台風は進路の予想ができるため、早めの対応が可能だ。いつまでにアナウンスをすればいいか、という知見がさらにたまっていけば、混乱はより小さくできるはずだ。

■判断を「交通機関任せ」にできない状況もある

産経新聞(10月14日付)の社説は後半でこう書いている。

「鉄道をはじめとする交通機関はいち早く計画運休を発表し、混乱を最小限に抑えた。ただしこれは、通勤通学客が少ない週末だったためでもある」
「平日の混乱を防ぐためには、交通事業者任せではなく企業や学校が計画休業、計画休校で協力する必要がある。それが社員や顧客、生徒を守ることにもつながる。安全重視こそが時代に求められた課題である」

交通機関が止まるから計画休業を実施するのではなく、企業や学校が自主的に休む基準を整えていく必要があるのだろう。首都圏の計画運休ばかりが話題になるが、地方であれば判断を交通機関任せにすることはできない。大規模化している自然災害への対策を立てておかなければいけない。

■「ハードに頼る洪水対策は限界」は本当なのか

東京新聞(10月14日付)の社説は「鉄道各社は計画運休を決め、レジャー施設やコンビニなども休業を発表。多くの人が先月の台風15号の経験を生かして備えた。それでも、多くの死者・行方不明者が出た」と書く。

この東京社説で気になるのが「それでも」の次の「多くの死者・行方不明者が出た」である。そう思って読み進むと、東京社説は最後にこう書いている。

「山間地で森林が伐採されたり、地形が変わったりすると、雨水を一時的に貯留する能力が低下し、地表を流れるスピードが速くなる。市街地化が進んでいくと、雨水が地下に浸透しにくくなる。防災対策が進む一方で、危険性も増していた」
「昨年も西日本豪雨で二十五河川の堤防が決壊。岡山県では多くの死者を出した」
「気象庁気象研究所によると、西日本豪雨は地球温暖化にともなう気温の上昇と水蒸気量の増加が影響している。スーパー台風は珍しくなくなるかもしれない」
「堤防のかさ上げやダム建設といったハードに頼る洪水対策は限界を迎えている。抜本的に見直す必要がある」

「スーパー台風が珍しくなくなる」というのは分かる。だが、洪水対策のどこを見直せばいいというのか。おそらく「山間部での伐採を計画的に進めるべきだ」と言いたいのだろうが、樹木が育つには何年もかかる。伐採を少なくしたところですぐには効果が出ない。そもそも深層崩壊のような災害は、森林では防げない。その点で、河川の堤防は古くから進められてきた実効性のある洪水対策だ。このタイミングで「ハードに頼る洪水対策は限界を迎えている」とまで言えるのは、なぜなのだろうか。違和感を持った。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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