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「社長を目指す人」に一番大切な思考習慣とは

プレジデントオンライン / 2019年10月18日 11時15分

1964年に設備機器のリース事業からスタートし、リースの持つ「金融機能」と「モノを見定める専門性」を生かし、船舶・航空機・自動車リース、不動産・保険・銀行・資産運用、環境エネルギー、コンセッション事業など、隣へさらに隣へと事業領域を拡大してきた。

日本で新しい金融手法であったリース業を祖業として、融資、投資、生命保険、銀行、資産運用、自動車関連、不動産、環境エネルギー、コンセッション(公共施設などの運営権)事業などへと、多角的に事業領域を拡大してきたオリックス。同社の創業メンバーの一人で、2014年まで30年を超えてグループCEO(最高経営責任者)を務めたのが、ミスター・オリックスともいうべき宮内義彦氏だ。その語り口は静かだが、時に厳しく、企業社会と経営に対する洞察に満ちている。これからの企業経営を担う人材に向けて、経営に関する持論や自らの経験を縦横に語ってもらった。(第1回/全3回)

■自分の立ち位置を理解するべき

——経営者を目指す人に重要なことは何だと思いますか。

【宮内】何より、自分の置かれた立ち位置を客観的にしっかりと理解しておくことです。それがないと、これから何をすべきかを考えることができないからです。

自分の立ち位置を知るためには、まず日本の社会というものをきちんと理解しなければなりません。具体的には、取り巻く環境と歴史観を理解する、ということです。

前者に関していえば、世界と日本という“横”の比較をすると、現在、日本の経済力(GDPベース)はアメリカ、中国の後塵を拝し、全世界の5%程度でしかありません。人口でいえばその割合はもっと低く、全世界の1.7%にしかすぎない。この数字を知っただけで、「このまま日本にいて、日本人だけを相手にしていて大丈夫だろうか」と思う人はたくさんいるはずでしょう。

一方、歴史軸に沿った“縦”の認識を深めるという点では、私の見るところ、今の日本社会は戦争に負けた1945年を契機に作られたものです。それまでの社会のアンチテーゼとして形成され、以後70数年が経過しましたが、大枠はほとんど変わっていません。「このままでは済まないはずだ。特に今後10年、大きな変化に見舞われるだろう」というのが私の見立てです。

写真提供=オリックス
オリックスは、再生可能エネルギーの発電に力を入れている。経営者の描く成長戦略の中身が社会のためになっているか否かが、判断基準のキーポイントとなる。 - 写真提供=オリックス

——宮内さんはオリックスという企業を通して、日本の産業界になかったリース業という領域を切り開き、事業の多角化と海外進出を広く進めてきました。

【宮内】オリックスの歴史を振り返ると、実は失敗もたくさんしています。「あの時にこれを知っていたら、もっとうまく事業ができたのに」と後悔することももちろんあります。あとで気づく、ということがたくさんあるのですが、渦中にいる時はわからないものなのです。

最近、若い経営者がよく私に相談に来られますが、言葉だけでお話ししても真には理解されないだろうなあ、ということもあります。ことに失敗に関しては、実地で痛い目に遭わないと骨身に応えてまではわからないでしょう。それには、先ほど申し上げた日本社会というものをよく理解する必要があるんですね。

■社会のために何ができるか

——もう少し具体的に教えてください。

【宮内】ベンチャー企業の場合は生き残ることが最重要課題ですから、いかに利益を確保するかが経営者の最大の関心事になります。ところが、ベンチャーの段階を脱し、組織も大きくなって余裕が生まれてくると、経営者は利益一辺倒ではなく、「社会のために何ができるか」という意識を持つ必要がでてきます。日本ではリーディング・カンパニーになればなるほど、経営者にその意識が求められます。

昨今はその傾向がさらに強まっています。企業の役割は本来、効率よく社会に富を作り、収益を上げることです。そうして作り上げられた富をどう分配するかは政治が決めることなのですが、その分配がうまくいっているか、という政治の役割部分についても、企業が関心を向けなければいけないようになってきているのです。言葉を変えれば、「社会の感性のほうが経済合理性より強い力を持つ」ということです。よい経営を行い、収益を上げているのに、社会から一人勝ちとか格差拡大の元凶だと見なされてしまうかもしれない。その場合、時として雇用を守るために赤字事業を継続せざるを得ないといった、社会性重視の経営を余儀なくされてしまうのです。

その点、アメリカは違います。企業は社会全体のことより自社のことを優先して考えて富の最大化を目指せばいいという暗黙の了解があるのでしょう。

こうした問題に限らず、経営者は会社の規模や置かれた状況によって、自身の考えや物事の基準を柔軟に変えていかなければいけないということです。

——一方で企業は成長することを断念するわけにはいきません。自社の成長か、社会性重視か、その線引きが難しい。

【宮内】経営者が描く成長戦略の中身が社会のためになっていればいいのではないでしょうか。儲かれば何をやってもいい、という姿勢は慎むべきだと思います。

例えば、バブル崩壊前の1980年代、勇名をはせていたいわゆるサラ金大手の利益は、オリックスの利益より一桁も上でした。どのような経営をしているのだろうと思い、経営者に一度、お目にかかってみたことがあります。でもやっぱり違う、われわれがやるべき事業はほかにあると判断し、それ以上、入り込むことはありませんでした。

写真提供=オリックス
太陽光を利用した水耕栽培施設で野菜の通年栽培が可能に。安心・安全でおいしい野菜が多くの消費者に届けられている。 - 写真提供=オリックス

——バブルの頃も、オリックスは大規模な不動産融資や証券会社が主導する財テクには手を出しませんでした。

【宮内】単純に「こわいな」と思ったんです。「世の中、浮かれているけれど、どこか変だぞ」という思いがぬぐえませんでした。

そのきっかけになったのが、ある銀行の頭取から聞いた一言でした。「日銀がここまで金融を緩和しているのに、上がるのは株式、不動産などの資産の価格だけで、物価が上がらないのが不思議だ」と。これが意味深い言葉に思えて、慎重に行くべきだと判断し、不動産融資の縮小を社内で指示したのです。当時は「社長は間違っている」と社内でいわれたりしましたし、会社を去る幹部社員もでたりしましたが、結果的に判断は正しかったと思っています。

バブルが崩壊する直前、不動産価格が下落しているのを見た某有名企業の社長より、「今が買い時です。一緒に買いましょう」と電話で言われたこともありますが、もちろん、丁重にお断りしました。今はその企業は影も形もありません。

どうしてそのような判断ができたのか。今から考えると、頭で考えたというよりも、肌感覚が教えてくれたとしか言いようがありません。

■経営者にとって重要なマクロ観

——ふとした一言に着目された話が象徴的ですが、マスコミの報道や専門家の発言をうのみにせず、独自の物の見方を身に付けることも経営者にとっては重要ですね。

【宮内】その通りです。私はそれをマクロ観と呼んでいます。国際政治や世界経済についての知見を深め、そこから、時代や国境を超えた大きな流れを捉え、自社や自分の立場に置き換えてみる。これがマクロ観を持つということです。

喫緊の問題としては、まず米中関係です。一生懸命、情報を集めて勉強し、自分なりの見立てを持ち、それを前提にして自社の戦略や計画を考えなくてはなりません。

米中関係の悪化は関税引き上げ合戦となり、世界中に不況をもたらします。不況になったらアメリカは金利を下げるでしょうが、日本はすでに相当の低金利ですから、これ以上は金利を下げられない。だとしたら、日本政府はどうやって不況に対応しようとするのか。そこまで考えるのが経営者の仕事だと思うのです。

企業経営にインパクトを及ぼす技術動向も探っておかなければならない。今でいうと、IoT(身の周りのあらゆるモノがインターネットにつながる仕組みのこと)やAI(人工知能)を活用したデジタルトランスフォーメーションです。この流れが自社にどういう影響をもたらすか、これらをどのように取り込んでいくか、これも経営者は必死に勉強しなければなりません。

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宮内 義彦(みやうち・よしひこ)
オリックス シニア・チェアマン
1935年神戸市生まれ。58年関西学院大学商学部卒業。60年ワシントン大学経営学部大学院でMBA取得後、日綿実業(現双日)入社。64年オリエント・リース(現オリックス)入社。 70年取締役、 80年代表取締役社長・グループCEO、 2000年代表取締役会長・グループCEO、14年オリックスの経営から退きシニア・チェアマンに。総合規制改革会議議長など数々の要職を歴任。現在は一般社団法人日本取締役協会会長などのほか、カルビー株式会社、三菱UFJ証券ホールディングス株式会社などの社外取締役も務める。著書に『“明日”を追う【私の履歴書】』『グッドリスクをとりなさい!』『私の経営論』『私の中小企業論』『私のリーダー論』など。

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(オリックス シニア・チェアマン 宮内 義彦 文=荻野 進介)

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