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なぜ"家族への事業承継"はうまくいかないのか

プレジデントオンライン / 2019年10月24日 11時15分

巨大複合商業施設「グランフロント大阪」。多目的ホール、オフィス、ホテル、レストラン、コンベンションセンターなどで構成されている。

日本で新しい金融手法であったリース業を祖業として、融資、投資、生命保険、銀行、資産運用、自動車関連、不動産、環境エネルギー、コンセッション(公共施設などの運営権)事業などへと、多角的に事業領域を拡大してきたオリックス。同社の創業メンバーの一人で、2014年まで30年を超えてグループCEO(最高経営責任者)を務めたのが、ミスター・オリックスともいうべき宮内義彦氏だ。その語り口は静かだが、時に厳しく、企業社会と経営に対する洞察に満ちている。これからの企業経営を担う人材に向けて、経営に関する持論や自らの経験を縦横に語ってもらった。(第3回/全3回)

■後継者は育成するものなのか

——経営者の重要な仕事のひとつに自分の後釜となる後継者の育成があります。宮内さんはこの問題にどうやって対処してきましたか。

【宮内】後継者は育成するものではなく、育ってきた人の中から経営者として見込みがある人を選ぶものではないでしょうか。

意中の人物をトップに据えてみる。トップをやらせてみたら、さらに立派になるだろうと思って抜擢(ばってき)するわけです。その結果、周囲の期待に応えて、さらに成長する人もいれば、逆にダメになってしまう人もいる。こればかりはいろいろです。やらせてみないと分からない。

オーナー経営者ではなく、社員から昇格してトップになった人の中には、自分を見失ってしまうケースもあります。昨日までは役員の一人だったのに、トップになり周囲から「社長」と呼ばれると、自分の立ち位置がわからなくなってしまうことがあるのです。会社の規模が大きいほど、多くの人が付き従ってくれるので、経営トップの役割を理解しないまま、つい自分が「偉くなった」と勘違いしてしまう。そのような人がトップになった場合、会社の成長はそこで止まってしまいます。

オリックスが多様な働き方のために提案する、新しいタイプのサービス付きレンタルオフィス。写真は「クロスオフィス六本木」

「位が人を作る」といいますが、そういう意味では違うと思います。位が人を“狂わせる”のです。とてもよい方向に狂わせることもあれば、悪い方向に狂わせることもある。一般論でいうと、日本人はトップになると、守りに入る人が多い気がします。

一方、アメリカではトップになった途端、より短期思考に陥りがちです。四半期ごとに株主からの厳しいチェックが入りますし、株価連動報酬をもらっている経営者も多い。「経営者の仕事は株価を上げることだ」というシステムが出来上がっているわけです。一方の日本の経営者は、不思議と株価にはあまり関心がない人もいます。どちらも極端で、その中庸を目指すのがよい経営者なのでしょう。

——オーナー系の中小企業の場合、人材が枯渇しがちで、経営を息子や娘に事業を継がせるケースがよくあります。これについてはどう考えますか。

【宮内】「継がせると決めない」ことが最善の策だと思っています。私が知る範囲では、家族内の承継ではうまくいっていないケースのほうが多いように思います。創業して成功した初代の子供に、同じように経営の才能が備わり、同じように優秀な事業家に育つ確率だけに賭けるより、内外から、次の経営者にふさわしい人材を広く求めたほうが、事業承継が成功する可能性がぐっと高まるはずです。

オリックスは私個人の会社ではありませんが、私の息子には「お前はオリックスには入れないぞ」と言ってきました。今になって聞くと、「中学生の頃からおやじにはそう言われてきた」と言っています(笑)。

■組織で動け、組織図で動くな

——企業の組織作りにおいて大切なことは何でしょうか。

【宮内】組織を平面で見るのではなく、立体的に見ることを心がけてはどうでしょう。いわば円錐型として組織を見るのです。

多くの社員は自分が所属する部署と、それに関係した部署にしか関心を示しません。しかし、そうした社員ばかりだと会社組織はうまく回っていきません。たとえば、本社の営業部と関連会社の営業部とは、業務上の密接なつながりがあるケースが多いのですが、情報を共有せずに顧客を囲い込んだりする。そんな例が各社で山ほどあるはずです。一つの企業体である以上、あらゆる部署が有機的つながりをもって動くべきなのです。

それを認識してもらうには、経営者は円錐型で組織をとらえ、その見方を社内に浸透させなければなりません。さまざまな部署が互いに接しながら積み重なり、会社という円錐が成立している。平面の組織図ではなく、そんな組織像を社内で共有してほしいのです。私はよくこう言っていました。「組織で動け、組織図で動くな」と。

オリックスでは、グローバルな環境保全活動の一環として、台風被害を受けたフィリピンのルソン島でマングローブの植樹活動を行っている。

■企業活動の本質と社会的責任

——このところ、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)といった非財務情報を企業評価に取り入れようとする動きが急拡大しています。その3つの単語の英語の頭文字をとったESG投資が日本でも拡大しているのです。こうした風潮をどうとらえていますか。

【宮内】昔、CSRという言葉がはやりました。Corporate Social Responsibilityの略で、企業の社会的責任を意味します。ESGはその今版なのでしょう。私はCSRもESGもある意味実に空疎な言葉だと感じるんです。

そもそも企業にとっての社会的責任、社会貢献活動は、会社が存続し、人々に望まれる商品やサービスを作り出し、多くの人を雇用し、税金を支払って、社会の安定や成長に資するということではないでしょうか。そのことの価値の大きさに比べたら、CSRと称して何かに寄付をしたり、社員をボランティアに駆り出すことはもちろん大切な活動ですが、企業活動の本質ではありません。

オリックスにも企業財団があり、全国の社会福祉施設に福祉車両を寄贈したり、最近では、地域の人々が子供たちに食事や居場所を提供する「子ども食堂」への支援を行っています。しかし、社業をしっかり遂行し、「よい会社」になるようしっかり運営していく。それこそが社会のためにあるべき企業の姿なはずです。

——社業で余ったお金を何かに寄付するのはいいことだと思うのですが。

【宮内】もちろんそうです。経団連が1990年に始めた、経常利益や可処分所得の1%以上を自主的に社会貢献活動に使おうという趣旨のワンパーセントクラブは素晴らしい活動だと思っています。が、声高に叫ぶような話でもない。陰徳を積むということです。いわば、寺社へ参拝してお賽銭を入れるような話です。自分はお賽銭をいくら入れたとはあまり言わないものでしょう。

そのCSRの今版ともいうべきESG、これも不思議な点があります。環境(E)と社会(S)への配慮を怠らない、というのは企業経営の目標です。そこまではよいのです。でも、ガバナンス(G)は経営の目標ではなく、手段です。目的と手段をごちゃまぜにしてESGという標語にしているようで私自身はとても違和感を持っています。

オリックスの電子計測器、ICT関連機器サービスでは、必要な機器をタイムリーにレンタル提供し、企業資産の最適化をサポート。社員の働き方の質と生産性向上が、良質なサービスを提供する大切なカギとなる。

■生産性の向上にこそ取り組むべきだ

——昨今の働き方改革についてはいかがでしょうか。

【宮内】現在の働き方改革は残業時間の削減ばかりに焦点が当てられ、「仕事を早く切り上げて家に帰ろう」というメッセージにとどまっている気がします。政治家が有権者にアピールするために、「働き過ぎはよくない」と訴えるのは、ある意味、理解できます。私が違和感を覚えるのは企業側の反応なのです。

企業の人事担当者は法に抵触することのないよう、社員の労働時間、残業時間、休暇の適正取得に追われているように見えます。しかし、働き方改革の本質はそこなのでしょうか。

日本の産業構造はいつの間にか第3次産業がその7割を占め、それが日本経済の中核を担っているわけですが、その生産性が欧米に比べると著しく低いことをご存じでしょうか。米国の第3次産業の生産性を100とすると、日本の小売業は24、飲食業は30しかありません。

働き方改革において企業がまっさきに取り組むべきは、この低い生産性をいかにして向上させるか、ということのはずでしょう。それを後回しにして、労働時間だけを短くしたら、企業の業績は低下してしまいます。必然的に、働く人の賃金も低くなります。そうなると消費意欲も衰えますから、経済全体のパイ、GDPが小さくなってしまう。それではみんなが困ります。

早く帰るのは結構、有休を多く取れるようにするのももちろん結構です。でもそうやって労働時間を短縮するのであれば、産業界をあげて生産性の向上に取り組まなければならない。あらゆる経営者はこのことを肝に銘じるべきです。

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宮内 義彦(みやうち・よしひこ)
オリックス シニア・チェアマン
1935年神戸市生まれ。58年関西学院大学商学部卒業。60年ワシントン大学経営学部大学院でMBA取得後、日綿実業(現双日)入社。64年オリエント・リース(現オリックス)入社。 70年取締役、 80年代表取締役社長・グループCEO、 2000年代表取締役会長・グループCEO、14年オリックスの経営から退きシニア・チェアマンに。総合規制改革会議議長など数々の要職を歴任。現在は一般社団法人日本取締役協会会長などのほか、カルビー株式会社、三菱UFJ証券ホールディングス株式会社などの社外取締役も務める。著書に『“明日”を追う【私の履歴書】』『グッドリスクをとりなさい!』『私の経営論』『私の中小企業論』『私のリーダー論』など。

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(オリックス シニア・チェアマン 宮内 義彦 文=荻野 進介)

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