40代の不本意な異動はキャリアの糧になるのか
プレジデントオンライン / 2019年10月23日 11時15分
想定外の配置転換で喪失感や焦りから抜け出せません
入社以来、営業職一筋で25年以上がたちました。昨年まで営業部で管理職を務めていましたが、突然スタッフ職へ異動を命じられ、やりがいや楽しさを見つけられないまま1年が過ぎてしまいました。
これまで、営業をしている自分が好きでずっと働いてきたのですが、今は想定外の配置転換への戸惑いと、思うように進まない業務へのいら立ちが続く日々です。自己肯定感が下がり続け、プライベートでも前向きになれません。
営業時代の激務の生活とは違い、現在は平日夜も時間ができるようになり、土日は完全に休暇をとれます。なのに、ライフサイクルが変わったことで、自分の中で「ゆとり」よりも「喪失感・焦り」が強まっている気がします。
46歳で初めて突き付けられた環境変化に対応できず、この会社で働き続けたいのか、転職したいのか、自分の希望さえわからなくなり日々悩んでいます。
この年齢で次のキャリアを考えるには、何から始めたらよいのでしょうか。意に沿わない業務や異動を命じられた時、これは自分のためなのだと考えるにはどんな視点を持てばよいでしょうか。書籍やネット記事に目を通したり、イベントに参加したりして、外部の情報を取り入れる行動もしてはいますが、配置転換による自信喪失から、未来に向けて気持ちをうまく切り替えられず、現在に至っています。(47歳・商社勤務・課長クラス)
■環境の変化によるストレスは業務以上
25年といえば4半世紀。相談者さんは、まさに激動の時代を営業として駆け抜けてこられたのですね。タフさを求められると同時に、とても疾走感のある日々だったことでしょう。仕事の内容以上に、日々の時間の流れ方や周りの人間関係、すべてが変わってしまったことに戸惑う気持ちはよくわかります。
![](https://president.jp/mwimgs/1/b/-/img_1b179dff7dcc31bd51114bad1d638f1956905.jpg)
変化というものは、それがよいことでも悪いことでもストレスになると言われます。変化によるストレスは、不慣れな業務以上に心に負担をかけるもの。結果、本来なら楽しみのはずの余暇でさえ、喪失感や焦りを感じるだけの時間になってしまい、前向きになることも難しいのだろうと思います。
まずは、悩んでいる今の自分を否定しないことが大切です。そして、少し引いて観察してみる視点、いわゆる「メタ認知」を持って自分を客観視してみてはいかがでしょうか。
例えば90歳まで生きるとしたら、今悩んでいるこの瞬間は人生の通過点の一つでしかありません。私自身、これまでのキャリアは紆余(うよ)曲折ばかりでした。どんな職種・業務に携わるかを「選んだ」と言える経験がないまま、その時々で任された役割をやってきました。キャリアの積み方としてはかなり遠回りですが、ただ、その分たくさんの景色を見ることができたと思っています。
■自分が持つ「営業経験」の価値に気づいて
そうした経験をもとに、相談者さんには2つのことをお伝えしたいと思います。1つめは「この仕事は何につながっているの?」と考えて業務に生かすこと。仕事は、ささいに思えるものでも必ず会社のビジョンにつながっています。どんな業務にも意味があり、会社にとって大きな価値があります。社長を務める者として、これは間違いないと断言します(笑)。
「この商品を通して社会に貢献したい」といったビジョンは、企業にとって営利以上に重要な意義を持ちます。そうしたビジョンを実現する上で、相談者さんの今の業務はどんな役割を果たしているのでしょうか。目の前の業務を、少しだけ広い視野から見つめてみてください。
役割は、営業職だった時とは違うかもしれません。けれど、それもまた会社にとっては価値があるのです。サポート職やスタッフ職の中には、すばらしいマインドを持って業務に取り組み、チームに刺激を与えている人もたくさんいます。そうした人たちに共通するのは、「自分の仕事は何につながっているのか」が見えていること。
目の前の業務の先を見ているので、課題に対して先回りでき、かつ一つひとつの仕事を着実に、期待を超えるレベルでやり遂げる。組織はそうした人をリスペクトします。頼れる人として自然と情報が集まるようになるので、彼らは結果として“存在感のあるかけがえのない人材”になっていきます。
相談者さんの営業職としての経験は、今の業務においても大きな強みになるはずです。営業未経験者が知らない世界を知っていることは「価値」であり、部内での存在感にもつながります。加えて、会社における自らの役割をしっかり理解していれば、会社は「もっと活躍させたい」と思うはず。そう考えると、今回の異動はチャンスとも言えるでしょう。
■どう評価されるかよりどう貢献するかを考える
2つめは、スタッフ職も管理職も社長も、所詮は「役割」であると考えること。もしかしたら、相談者さんの喪失感の一因は、今回の異動を降格ととらえていることにあるのかもしれません。でも、仕事上の立ち位置は、人間としての尊厳や誇りと直結するものではありません。社長も、偉いのではなく、責任を担う役割というだけのことです。
今はどうしてもキャリアのことばかり考えてしまうと思いますが、自分の人生の落としどころは「会社」ではなく「自分」なのだということを忘れないでください。人生をどう生きていきたいかは、会社ではなく自分が選ぶのだと考えられるようになれたら、未来に対して前向きな気持ちが生まれるのではないでしょうか。
もう一つ、会社がどう評価してくれるかと悩むよりも、自分がどう貢献できるかを考えたほうが気が楽になると思います。長く勤務されているそうですから、会社に対しては愛着もお持ちでしょう。その愛着ある会社に、あるいは目の前のプロジェクトに、どう貢献できるか考えてみてはいかがでしょうか。
相談者さんには営業職とスタッフ職、両方の経験と実績があります。少し心に余裕を持つだけでも、他の人には見えない、自分だけに見える景色があることに気づけると思います。社内人脈もあるでしょう。これらはまぎれもなく貴重な資産です。この資産は出し惜しみせず他の人と共有してもいいし、新たなチャレンジに生かしてもいい。相談者さんが自由に使えるものなのです。
仕事漬けの時には持てなかった余暇の時間を生かして、自分の満足感や幸福感の在りかを探してみるのもおすすめです。満足感や幸福感は、人生はもちろん仕事に取り組む上でも重要なものです。47歳という年齢は、経験もあり未来もまだまだあるすばらしい時期。この時期にダイナミックな変化の機会を持てたことを、「よかった」と思えるようになっていただけたらうれしいですね。
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DECENCIA 代表取締役社長 ブランドディレクター
1976年生まれ。鹿児島女子大学卒業後、北京清華大学へ語学留学。帰国後、旅行代理店に入社。退職後に派遣社員となり、数社を経て2007年ポーラ・オルビス ホールディングスに派遣。同年ディセンシアに出向、正社員となる。CRM統括部長、取締役を経て2018年より現職。
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(DECENCIA 代表取締役社長 ブランドディレクター 山下 慶子 写真=iStock.com)
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