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世界中の起業家が「ロケット開発」を進めるワケ

プレジデントオンライン / 2019年11月23日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maginima

元ライブドア社長の堀江貴文氏をはじめ、電気自動車テスラCEOのイーロン・マスク氏、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏と、世界中の起業家たちがロケット開発を進めている。そんなロケット市場の現状と将来を解き明かす。

■月旅行を目指す前澤氏が乗る宇宙船

ZOZO創業者の前澤友作氏は、2019年9月12日に社長を辞任した。辞任理由について、前澤氏は「宇宙にどうしても行きたい」と述べた。2018年9月に発表されたとおり、前澤氏は月旅行を計画している。

宇宙ベンチャーの中で、世界的な代表企業が米国のスペースX(エックス)だ。前澤氏が月旅行をする宇宙船の開発企業である。CEOは電気自動車メーカーのテスラCEOでもあるイーロン・マスク氏だ。スペースXが開発し、現在打ち上げを行なっている大型ロケット「ファルコン9」について、野村総合研究所の八亀彰吾主任コンサルタントは次のように述べる。

「現在のロケットの打ち上げ市場は、価格破壊を実現したスペースXのファルコン9が圧倒しています」

世界ではマスク氏のほか、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏を筆頭に宇宙ロケットの開発が進められており、民間企業による宇宙開発の新潮流は「ニュー・スペース」と呼ばれている。

日本はどうか。民間企業による宇宙開発で記憶に新しいのは、元ライブドア社長の堀江貴文氏が出資している「インターステラテクノロジズ(IST)」だ。19年5月、観測ロケット「MOMO」3号機の打ち上げ実験を実施し、同ロケットは日本の民間企業が単独開発したロケットで初めて宇宙空間に到達した。この成功の意義について、八亀氏は宇宙ビジネスとしての可能性は十分にあると述べる。

AFLO=写真

■可能性が見えた堀江氏出資ロケット

「近年の宇宙ビジネスでは、小型人工衛星の打ち上げ需要が伸びています。小型衛星は大型ロケットでも打ち上げることができますが、大型の主衛星に相乗りする形で打ち上げられるため、打ち上げ費用が高額なうえ、打ち上げるタイミングや衛星を投入する軌道が制約されます。しかし、小型ロケットは費用を抑えられますし、投入する打ち上げタイミングや軌道を選ぶことができる点が有利。その優位性を活かせる小型ロケットの需要が伸びていく中で、ISTが地球低軌道に小型衛星を打ち上げられるようになれば、ビジネス化の可能性は十分にあるでしょう」

一方で、MOMO3号機の打ち上げられた同月、前述のスペースXは小型通信衛星60基を載せた「ファルコン9」をフロリダ州から打ち上げた。この打ち上げは大型衛星の相乗りではなく、小型衛星のみのもの。同社は20年代半ばまでに1万2000基近くの小型通信衛星を打ち上げ、地球上のあらゆる場所で高速ブロードバンド通信ができるようにするための巨大衛星通信網を構築しようとしており、その最初の60基が打ち上げられたのだ。

「小型衛星の打ち上げを大型ロケットで行うか、小型ロケットで行うかは、打ち上げの規模によって変わってきます。同一の軌道に大量に小型衛星を打ち上げる場合には、当然ファルコン9のような大型ロケットのほうが効率的です」(八亀氏)

大型ロケット市場は、日本ではJAXA(宇宙航空研究開発機構)が開発したH2Aロケットや、欧州のESA(欧州宇宙機関)が開発したアリアン5などが知られるが、現在は前述のとおりスペースXの一人勝ち状態である。18年の打ち上げ回数でいえば、H2Aロケットは3回、アリアン5は5回(うち1回は一部失敗)という中、ファルコン9は20回と桁違いだ。その一番の理由は、スペースXがロケットの価格破壊を実現させたからである。

そこでスペースXがなぜ民間企業であるにもかかわらず独走状態を築けたのか、日本のロケットはスペースXに追いつけるのか、日本でも「ニュー・スペース」が活躍するのか、見ていこう。

■NASAのロケットは存在しないのか

宇宙開発の歴史は米ソ冷戦とともに進んだ。旧ソ連は1957年、世界で初めて人工衛星「スプートニク1号」を地球周回軌道へ投入することに成功。旧西側諸国へ衝撃を与えたことは「スプートニク・ショック」と呼ばれるほどの大きなものだった。61年には旧ソ連のユーリイ・ガガーリン氏が人類で初めて地球軌道を周回し、「地球は青かった」という言葉で今に知られる。

スペースXのファルコン9。価格破壊を引き起こし大型ロケットの打ち上げ市場で世界を圧倒している。(AFLO=写真)

このように宇宙開発競争で当初は旧ソ連が有利な立場にあったが、米国のアポロ計画で風向きが変わる。62年、ケネディ大統領は「We choose go to the moon(我々は月に行くことを選択しました)」という有名な演説を行い、69年にアポロ11号が人類史上初の有人月面着陸を達成。そして、この成功の立役者がNASA(アメリカ航空宇宙局)だ。

冒頭で述べたとおり、現在最も競争力を有しているロケットは、NASAではなくスペースXのファルコン9だ。NASAは現在ロケットを打ち上げていないのか。

「NASAはオバマ政権のときに地球低軌道へのロケット開発は民間企業に任せて、打ち上げは民間企業のノウハウを生かして開発されたロケットを安く調達するという方針を発表しました」(八亀氏)

NASAはアポロ計画後の70年代以降にスペースシャトルの開発を進めたが、2度の事故と運用コストの肥大化のため、2011年にスペースシャトルの運用は中止された。一方で、NASAは国際宇宙ステーション(ISS)を運用していることから、ISSへの輸送手段の確保が必要であった。

そこで、NASAは「商業軌道輸送サービス」(COTS:Commercial Orbital Transportation Services)を06年に発表し、ISSへの物資輸送を民間企業に任せることを試みた。そして、NASAによる募集に手を挙げて、NASAが設定した審査を次々にクリアしていき、ロケット開発を進めていったのがスペースXだ。

■スペースシャトルの常識をぶっ壊す

ファルコンロケットの最大の特徴は低コストであることだ。すでに米国には、ロケットのメーカーとして、ボーイングやロッキード・マーティンがあったが、スペースXは自社開発に注力し、製造費を抑えることに成功した。

さらに10年より打ち上げられている「ファルコン9」では、打ち上げられたロケットの第一段部分を直立状態で着陸させることに15年に成功。17年には回収した一段目の再使用による打ち上げを成功させた。この技術は現時点でスペースXのみが有するものであり、スペースシャトルの教訓に反して実用化させた点で画期的だ。

というのも、スペースシャトルは使い切りで一度打ち上げるより何度も打ち上げを繰り返して再利用したほうがコストを抑えられるという思想で開発されたが、安全対策でメンテナンス費用が膨らんだために使い切りロケットのほうが安い、というのがそれまで常識だった。しかし、スペースXはロケット全体ではなく、第一段部分のみ再利用という方法をとることで世界中のロケット開発者に衝撃を与えた。

スペースXの月・火星に飛行する宇宙船のイメージ。(AFLO=写真)

その結果、ロケット打ち上げ価格は一般に非公開ではあるが、大型ロケットはおよそ100億円が相場だった中で、現在のファルコン9の価格は60億円台と言われる。打ち上げ成功率も高く、最も安価で安定した輸送手段とされる。

すでに述べた拡大する小型衛星市場においても、小型通信衛星網の構築を目指す「スターリンク計画」を進め、ファルコン9により大量の小型衛星の打ち上げを始めている。大型ロケットによる大量の小型衛星の打ち上げは、インドの宇宙機関も行っているが、八亀氏は「インドのPSLVロケットは、あくまでもインド宇宙研究機関が開発したロケットです。利益を追求する組織ではないため、その分安く打ち上げができるということで、予算が少ないユーザー向けにも小型衛星が多く打ち上げられています。ただ、それでもスペースXのほうが実績はあります」とスペースXの強さを解説する。

■東京とニューヨークを37分で移動可能に

スペースXの最終目標は「火星移住」だ。いまだ人類は火星に足跡を残していないが、イーロン・マスク氏は具体的な計画の実行を推し進めている。火星までは距離があるため、ファルコン9よりも大型のロケットが必要だ。18年には「ファルコンヘビー」というファルコン9より大型のロケットの打ち上げに成功し、テスラの電気自動車ロードスターとスペースX製の宇宙服を着用した人形が火星遷移軌道に投入された。

スペースXのCEOであるイーロン・マスク氏(左)と同社の宇宙船で月旅行を計画するZOZO創業者の前澤友作氏(右)。(AFLO=写真)

このほか、NASAはISSへの宇宙飛行士の打ち上げについて、現在はロシアのソユーズロケットに依存しているが、スペースXはNASAのプログラムのもとで「クルー・ドラゴン」と呼ばれる宇宙船の開発を進め、すでにISSへのドッキングを含むデモ試験を無人で実施している。

さらに、16年には惑星間輸送機の詳細が発表され、「スターシップ計画」として、すでに開発が着手されている。このロケットは月や火星への飛行はもちろん、大陸間移動サービスへの利用も発表されている。大陸間移動サービスとは、地球上のあらゆる場所に1時間以内で移動ができるというもの。例えば、東京-ニューヨーク間はわずか37分で移動できるという。

宇宙用ロケットを飛行機のように地球上で用いるという計画は、各国の宇宙機関では発想できないような常識の外を行くものだ。これもスペースXが技術開発した第一段ロケットの再利用の技術があるからこそだ。今後もスペースXが引き起こすイノベーションから目が離せない状況が続くだろう。

■スペースXより安い価格で打ち上げを

スペースXの躍進を前に、日本のロケット開発はどのように取り組まれているのか。

現在、日本の種子島宇宙センターから打ち上げられているロケットは「H2A」と「H2B」だ。H2Bは宇宙ステーション補給機「こうのとり」(HTV)の打ち上げ用であるため、人工衛星を打ち上げるにはH2Aが用いられる。H2Aは01年の初号機打ち上げ以来、すでに40基が打ち上げられている。03年の6号機を除いて39基の打ち上げに成功しており、安定的な運用が行われている。

しかし、競争環境は厳しい。ロケットの打ち上げ競争力を測るには、官需と民需で区別をし、民需をどれだけ取り込めるかが重要な指標だが、日本のロケットは官需が主である。例えば直近の18年の打ち上げについて、H2Aロケットはすべて官需(JAXAが開発した衛星と情報収集衛星2基)だ。

これまでに民間受注の例はあるが、今はスペースXの価格破壊の影響が大きい。前述のとおり、ロケットの打ち上げ価格は公表されていないが、報道ベースでファルコン9と比較して少なくとも十億円単位で差があると言われる。

そんな中、JAXAと三菱重工業は20年度の初号機打ち上げを目指して、新型ロケットの「H3」を開発している。目下の課題は国際競争力の向上。特に打ち上げ費用について、最低価格は50億円を目指していると発表されている。この計画どおりであればスペースXと競争できる価格であると八亀氏は言う。

新型ロケット「H3」(左)と現時点で国産最大ロケット「H2B」(右)の模型。(時事通信フォト=写真)

「50億円という価格が本当に実現できるのであれば、相当な競争力があると言えます。軌道投入能力の差異があるものの、同規模のロケットであるファルコン9の打ち上げ価格は約60億~70億円と言われ、それを下回るからです」

事実、すでにH3ロケットはイギリス衛星通信サービス大手のインマルサットからの受注に成功している。ただし、競争環境の変化によっては、スペースXが価格を変更する可能性はある。

また、打ち上げ価格以外の点での競争環境について、八亀氏は次のように解説する。

「アメリカと比較したときの日本のビハインドとして、アメリカのほうが衛星の打ち上げ需要は大きいということがあります。アメリカ国内で製造した衛星を日本などの海外に運搬し、射場で打ち上げ直前の試験を行うとなれば、トータルコストは上がります。

また、射場の数も不利です。日本で大型ロケットの射場は種子島宇宙センターのみです。一方で、スペースXは米国内の東西にある軍やNASAが保有する3つの射場を利用できますし、さらなる需要に応えるため自社で射場を造っています」

H3はファルコンロケットとは異なり、第一段ロケットの再利用の機能はないが、使い切りでもファルコン9よりも安価で事業化されれば、宇宙ロケットの競争のうえでは有利な立場に立てるというわけだ。ただ、打ち上げ費用以外の競争となると不利な面もあるという。

■小型衛星の打ち上げ需要は10年で5倍

大型ロケットの市場規模自体は今後も大きく変動がないと見られるが、冒頭で触れたインターステラテクノロジズ(IST)の「MOMO」ロケットのような小型ロケット市場は今後拡大すると予測されている。米企業スペースワークス・エンタープライジズの調査によれば、1~50キログラムサイズの小型衛星の打ち上げ数について、13年に100基未満であったが、17年には300基を超えた。21年には400基、23年には500基を超える小型衛星が毎年打ち上げられる予測をしている。

MOMO3号機。日本の民間企業が単独開発したロケットで初めて宇宙空間に到達した。(AFLO=写真)

現在、小型ロケットによる打ち上げ輸送サービスを提供しているのは、世界ではアメリカとニュージーランドの企業であるロケットラボのみ。「エレクトロン」という名前のロケットをすでに複数基打ち上げている。エレクトロンはエンジン製造に3Dプリンタを活用している点などが特徴だ。中国でも、小型ロケットの需要を読んで、ワンスペースなど複数社が急速に開発を進めている。

「最近はすごい勢いで小型ロケットのベンチャー企業が立ち上がっています。ただ、事業化できているのはエレクトロンのみ。他社は開発段階で、打ち上げ価格などは未定のものばかりです」(八亀氏)

日本でも小型ロケットへの投資が着実に進んでいる。ISTが拠点とする北海道大樹町に加えて、19年3月には和歌山県串本町にロケットの射場が造られることが決定した。和歌山を拠点とするのは、キヤノン電子、IHIエアロスペース、清水建設、日本政策投資銀行が共同出資して設立した「スペースワン」だ。この小型ロケット打ち上げ射場は21年に運用開始する予定である。

■民間資金をいかに取り込めるかが鍵

一方で、ISTは衛星軌道投入ロケット「ZERO」の開発を発表している。JAXAを含む8つの企業・団体がサポートをする枠組みがつくられ、初号機の打ち上げは23年中の実施を目指しているという。同社のロケットについて、八亀氏は次のように述べる。

MOMO3号機の宇宙空間到達を喜ぶIST関係者。(毎日新聞社/AFLO=写真)

「ISTのロケットの特徴は、最先端の技術だけではなくアポロ計画の頃に確立された技術をベースにしている点です。さらに、部品もオーダーメイドで造られる高価なものだけではなく、ホームセンターなどで一般に販売されている安価な民生品も使用していると言われています。その中でMOMO3号機の宇宙空間到達は快挙です。その後のMOMO4号機は打ち上げに失敗していますが、スペースXも当初は失敗続きでした。そういう意味では失敗をしても、今後の期待は変わりません」

ただ、ISTもスペースワンも事業化までには時間がかかる。世界で小型ロケット事業を始めるベンチャー企業は急増しているが、日本の宇宙関係予算は増えておらず、政府による投資は不十分。民間資金(リスクマネー)をいかに取り込めるかが鍵となってくる。

これまで国際競争力が低かった日本のロケットだが、小型・大型ともに期待されるロケットがある。期待を実績につなげられるか、これから試されることになる。

(プレジデント編集部 結城 遼大)

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