「反日の元凶」文在寅を見捨てはじめた韓国世論
プレジデントオンライン / 2019年10月17日 18時15分
■「タマネギ男」「ナッツ姫」「ミルク姫」…
韓国の曺国(チョ・グク)法相が10月14日に声明を出し、同日付で法相を辞任すると発表した。
就任から1カ月余りでの辞任だ。曺氏は法相就任前からさまざまな疑惑が出て、韓国のマスコミから「タマネギ男」と揶揄された。タマネギの皮がむけるように次々と疑惑が出てくることから付けられたという。「ナッツ姫」「ミルク姫」など韓国のマスコミはあだ名を付けて書き立てるのが好きなようだ。
曺氏の辞任は当然である。いくら日本と風土や考え方の異なる韓国とはいえ、法治国家である以上、法相が疑惑まみれでは国家そのものが成り立たなくなる。
曺氏は辞任の理由について「私の家族のことで大統領と政府に負担をかけてはならないと判断した」と説明した。家族の不透明なファンド運用や娘の不正入学疑惑などをめぐる検察の捜査は続いている。妻は私文書偽造罪で在宅起訴され、ソウル中央地裁で公判も始まった。
曺氏以上に問題なのは、文在寅(ムン・ジェイン)大統領である。文氏は曺氏を法相に任命した責任を厳しく問われなければならない。次は文氏自身が大統領辞任に追い込まれるかもしれない。
■韓国を分断してしまった文在寅大統領の思惑
文氏が曺氏の法相任命の意向を固めたころには、すでに多くの疑惑が出ていた。検察も捜査に着手していた。だれの目にも辞任という結末は明らかだった。それなのに文大統領は任命に踏み切った。日本では考えられない。
文氏は曺氏が辞任を公表した14日、大統領府の会議が始まると、その冒頭で「結果的に多くの対立を引き起こした点について大変申し訳なく思う」と頭を下げた。
だが文氏の性格なのか、こう口走った。
「検察の改革に対する曺氏の意思と困難に立ち向かう姿勢は、検察改革の大きな原動力となった」
これでは自画自賛だ。韓国世論も黙ってはいないだろう。
文大統領が曺氏の法相任命を強行したことによって曺氏の支持派と反対派の双方が大規模な集会を開くなど、両派の対立がかなり深まっていた。ソウル市内では連日のように、曺氏の辞任を求める保守派の大規模集会が開かれていた。曺氏の支持者らも大規模な集会を繰り返してきた。韓国を分断したのは文大統領である。
■反日感情を煽れば、自らの支持率が上がる
韓国の世論調査会社リアルメーターが14日付で発表した世論調査によると、文政権の支持率は41.4%で、不支持の56.1%を下回った。韓国は来年4月に総選挙を行う。文氏はそれまで反日感情を煽って支持率を上げようと画策するに違いない。
事実、文氏が反日感情を煽ることを日本政府は懸念している。
菅義偉官房長官は15日の記者会見で「他国の内政に関することなので政府としてはコメントを控えたい」と正面から論評するのを避けたが、政府内には「文政権の支持率がこのまま下がり続ければ、日本に対してさらなる強硬姿勢をとるだろう」との見方が強いようだ。
■反日思想を批判する『反日種族主義』がベストセラーに
ところでいま韓国では、韓国近代経済史専攻の元大学教授ら6人が書いた『反日種族主義』という書籍がベストセラーになっている。発売は今年7月で、すでに10万部を超えているという。日本語版は文藝春秋社から「日韓危機の根源」というサブタイトルで11月14日に発売予定だ。
本の内容をざっと紹介すると、
「韓国人は、反日思想を掲げなければ生きていけない種族だ」
「日本を先祖代々の敵だと捉える感情は行き過ぎだ」
「あらゆる嘘が広まっているのは、反日種族主義によるものだ」
と反日を痛烈に批判している。
NHKの「おはよう日本」は、代表著者である元ソウル大学教授のイ・ヨンフン氏に取材し、9月29日の放送で以下のような主張を紹介している。
「朝鮮半島では日本の統治下によって米の生産量や輸出量が大幅に増加し、その結果として経済が発展した」
「太平洋戦争中の慰安婦や徴用工をめぐる問題では、これまでの韓国の通説に異を唱えたい」
「反日は善で、親日は悪であるという感情を韓国国民が克服できなければ、韓国の未来はない」
「韓国が先進的な社会や経済・政治へと進むためには、日本に対する心からの信頼と協力の体制が不可欠だ」
反日感情の根強い韓国で、こうした主張を書いた本が10万部を超すベストセラーになるのは異例だ。実に興味深い。
■日本は「徴用工問題は解決済みだ」と主張するだけでいいのか
日韓関係が「戦後最悪」とまで言われるようになったきっかけは、韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償を命じた元徴用工判決にある。
あの判決から10月30日でちょうど1年になるが、これまで安倍政権は韓国や国際社会に対し、1965年の日韓基本条約・請求権協定に基づいて「元徴用工の補償問題は『完全かつ最終的に解決済み』だ」と強く主張してきた。
だが、当時、日韓の国交は正常化したばかりで、韓国は軍事体制下にあり、東西冷戦によって条約や協定そのものに曖昧さを持っていた面がある。これはノンフィクション作家の保阪正康氏などが指摘していることだ。
■「悪いのは文在寅大統領である」との思いは変わらないが…
沙鴎一歩は韓国の文大統領が政治的解決を目指さず、元徴用工判決を黙認し続けた結果、ここまで日韓の関係が悪化したと批判してきた。「悪いのは文在寅大統領である」と糾弾した。その思いはいまも変わらない。
しかし日韓関係には改善の兆しがみられない。ここにきて日本も韓国もそれぞれが一歩、あるいは半歩、引き下がって考える時期に来ていると思う。
韓国で反日批判本が売れる理由を文大統領は理解していない。理解していないから、就任後1カ月余りで辞任に追い込まれる人物を法相に任命するのだ。
安倍晋三首相にしてもこのまま「元徴用工の問題は解決済みだ」と主張するだけだったら、文政権のように支持率を落とすに違いない。
■韓国の法相辞任を社説で扱った全国紙は、産経新聞だけ
10月17日現在、韓国の法相辞任を社説で扱った全国紙は、産経新聞だけだった。産経新聞の社説(「主張」、10月16日付)は、韓国の文政権にこうかみついている。
「任命した文氏としては曺氏の辞任を区切りとして自身の支持率低下に歯止めをかけたいところだろう。だが、一連の混乱を招いた大きな理由は、文政権による司法への恣意的な人事にある」
「韓国国民の多くは、曺氏の法相就任に反発していた。曺氏の任命を強行した文氏は、今回の辞任劇で、自らが招いた誤った人事を猛省すべきである」
「恣意的な人事」に「任命を強行」や「誤った人事を猛省」など、いずれも他紙ではほとんど見られない強い表現である。
さらに産経社説は書き進める。
「韓国を取り巻く状況はまさに内憂外患だ。日韓関係だけでなく、融和政策を基軸とした南北関係も行き詰まっている。文政権は日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を一方的に破棄し、日米韓の結束に影響が波及している」
「日韓関係」と「南北関係」。産経社説が指摘するように、文在寅大統領の失敗は明らかである。ただそんな大統領を安倍政権は相手にしていかなければならない。今後もその覚悟が強く求められる。
■日本はどう攻めていくのか、安倍首相の外交手腕が試される
最後に産経社説はこう訴える。
「気になるのは、大統領就任前から反日を掲げる文氏が、支持率浮揚を狙って反日政策をさらに強める恐れがあることだ。文氏はGSOMIAだけでなく、国際法をないがしろにし、徴用工問題を蒸し返す暴挙に出て、国と国との信頼関係を著しく損なった」
「文氏の任期はまだ約2年半残っている。来年4月に総選挙もひかえ、文政権がポピュリズムに傾斜しないか、日本をはじめ国際社会は注視しなければならない」
沙鴎一歩が前述したように、文氏には支持率浮揚を狙って反日政策をさらに強める恐れがある。日本はそこをどう攻めていくか。安倍首相の外交手腕がますます試される。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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