「恋人の同伴禁止」のイベントが盛り上がるワケ
プレジデントオンライン / 2019年10月18日 15時15分
※本稿は、プリヤ・パーカー著・関美和訳『最高の集い方 記憶に残る体験をデザインする』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■特定の人に「門戸を閉ざす」ことができるか
人を招くのは簡単だ。誰を招かないかを決める方が難しい。わたしは子どもの頃から「人が多く集まれば集まるほど楽しい」と聞かされてきた。しかし、ここではあえて、定説に反論したい。目的に合わせて特定の人に「門戸を閉ざす」ことができるようになったとき、はじめて目的を持った集まりを開けるようになる。
もちろん、わたしも人を排除するのが楽しいわけではないし、目的に合わない人を招いてしまうこともしばしばある。それでも、深く考えて「招かない人」を決めるのは、どんな集まりにも欠かせないポイントだ。「どなたでも歓迎」という態度は、招く側が会合の目的を自覚しておらず、招待客に何を持ち帰ってもらいたいか、ということにも無自覚であることを示している。
![](https://president.jp/mwimgs/f/e/200/img_fead23bd00a7f492c0adb33e9822d1c4212991.jpg)
以前に自分を招いてくれた人に義理を感じて、招き返すという場合もあるだろう。ただ、いつもそうしているから、というだけのこともある。「マーケティングのチームも呼ばないと。声をかけなかったら恥をかかせてしまう。いつも参加しているのだから」。あとで問題になったら困るので、とりあえず呼んでおこうという場合もあるだろう。大騒ぎしそうな人ならなおさらだ。
ある幹部会議の目的が、創業者のあとを継いで就任した新CEOによる体制を確立することだとしても、創業者が参加したいと言ったらまず断れない。自分とパートナーの両親とのはじめての顔合わせの場に、たまたま泊まりに来ていた叔母が飛び入りさせてもらえると思い込んでいれば、「叔母さんは来ないで」とは言いづらい。
招待すべきでないと思っている人に対して、面と向かって断りにくい場合には、成り行きに任せる方が簡単だし、相手の気分を害さなくてすむ。でも実際には、むしろ招かない方が相手への思いやりである場合もある。そういうことを理解しているのが、集いの達人だ。
■代理出席を認めないのは不寛容なのか?
以前、少人数の仲良しグループで一緒にトレーニングをしていた。あるとき、誰をグループに入れるか入れないかで揉めたことがある。わたしたちは週二回、六人で朝早く公園に集まって、トレーナーと一緒に運動していた。困っていることがあればお互いにアドバイスし合ったり、その週の出来事を話したりする、とても充実した時間だった。
あるとき、メンバーのうちの一人が長期旅行に出ることになった。レッスン料はすべて前払いで、返金はされない。旅行中のレッスン料を無駄にしたくないと考えた彼女は、友人に代理出席してもらおうと思いついた。それをメールで伝えられたグループのメンバーは、びっくりしただけでなく、モヤモヤした気持ちになった。でも、その違和感をうまく説明することができなかった。
モヤモヤした原因は、代理出席というやり方がこのグループの目的を損なうことになるからだとみんなも薄々は気づいていたが、ここに問題があった。そもそもみんなで集まる目的を話し合ったことがなかったのだ。メンバーの一人がこう言ったとき、モヤモヤの原因が浮かび上がってきた。「これってただのトレーニングじゃないのよね」。
■八方美人的なやり方では誰も満足させられない
そこで、この集まりが何なのかが見えてきた。運動しながら気の置けない友だちと親密な時間を過ごすことが、このグループの暗黙の了解だった。一緒に時間を過ごすことが真の目的であって、トレーニングはただの名目にすぎない。忙しい毎日のなかで、自分たちの選んだ仲間と定期的に安定したつながりを持ちたいから、わたしたちは集まっていたのだった。
このことをメンバーで話し合い、これがグループの目的だということをみんなが認めたとき、代理出席の件をどう扱うかはおのずと見えてきた。そこで、代理は認めないことにした。知らない人が入ると親密さが損なわれるかもしれないし、打ち明け話もしにくくなるからだ。それに、一度しか参加しないかもしれない参加者にいろいろ教えていると、トレーニングの時間も無駄になってしまう。
そんな話をしているうちに、このグループにとっていちばん大切なのは「一緒に時間を過ごすこと」だとわかった。このグループの場合は、知らない人が入ると楽しくなるどころか、むしろ気まずくなってしまうのだ。「どなたでも歓迎」は、一見オープンで寛容な行為だが、安心して心を開いて付き合える仲間を求めてこのグループに参加している人にとっては、決してありがたい行為ではなかった。
とはいえ、「行ってもいいですか」と聞かれて「来ないでください」とはなかなか言いにくい。いろんな忖度が働いてしまう。でも、八方美人的なやり方では誰も満足させることはできない。
■この数年前にも、別のグループで同じようなことがあった。
彼女は連れてこないでください
ある研修プログラムで出会った仲間たちと、年に一度集まって遊びに出かけていた時期がある。ここではその会を「ビーチに戻る会」と呼ぶことにしよう。親しくなった仲間で、厳しい研修の合間を縫って骨休めのためにビーチに繰り出したのが会のきっかけだった。研修では毎日追い詰められていたので、その憂さ晴らしにソフトボールをしたり、バーベキューをしたり、ビールが先かワインが先かで言い合ったり、夜遅くまで「ダンスバトル」で盛り上がったりした。
二年連続で集まり、みんながこの週末を楽しみにしていた。集まりたいから集まっていただけだが、全員が同じ思いを共有していたと思う。あえて言葉にするなら、一緒に時間を過ごし、羽を伸ばし、絆を感じることだった。でも、誰もそんなにはっきりした目的意識はなかった。そこに、ある出来事が起きた。
会ができて三年目になる頃、グループのうち二人に恋人ができた。相手はどちらもグループ外の人だ。二人とも、この会に恋人を連れてきたいと言った。そこでメールや対面で話し合いを重ね、結局連れてこないでほしいということになった。一人は諦めて恋人抜きで参加することにした。まだ付き合って間もないし、恋人も気にしないだろうと考えたらしい。
■揉めごとによって集まりの目的があきらかになることも
しかし、もう一人のメンバーは遠距離恋愛の最中だった。しかも、当人は兵士で、もうじき従軍することが決まっていた。恋人と過ごす残り少ない週末であり、彼は研修仲間と一緒にいる自分の姿を恋人に見せたいと思っていた。自分にとって意義のあるものを、彼女にも知ってほしいと思ったのだろう。
そこで、彼はもう一度、彼女を連れてきたいとみんなに頼んだ。最初わたしたちは、その週末に借りていた家がそれほど広くないので、彼女の泊まる場所がないと言って断った。すると彼は、彼女と泊まる場所を別に借りて、昼間はメンバーと一緒に過ごすからと申し出た。
それでもやっぱり、何となくよくわからない理由でダメということになってしまった。結局、彼は参加しなかった。メンバーにとっても後味のいいものではなかったが、この一件のおかげで、メンバーの多くが自覚していなかった、「ビーチに戻る会」の本質と目的が浮かび上がってきた。揉めごとによって集まりの目的があきらかになることはよくある。
■カミングアウトしていないゲイのメンバーへの配慮
「ビーチに戻る会」の母体となった研修グループには独特のノリと雰囲気があり、それがある種の魔法を生み出していた。でもわたしたちも知らなかったことがある。メンバーのなかに一人、同性愛者がいた。親しい人はそのことを知っていたが、公にはしていなかった。「ビーチに戻る会」は、ゲイの彼にとってありのままの姿でいられる数少ない場所だった。
この集まりにそんな切実な一面があったことを、まったく知らないメンバーもいた。本人だけでなく、彼を大切に思っている人や、ありのままの彼と気楽なひとときを過ごしたい人たちにとって、この会は大事な存在になっていた。また、この会が彼の癒しになっているということが、ほかのメンバーにもそれとなくいい影響を与えていた。
「ビーチに戻る会」は、秘密がバレるのではないか、キャリアの先行きに支障が出るのではないかなどと心配せずに、みんなが安心して「ありのままの自分に戻る会」でもあった。言葉にはしていなかったが、メンバーのなかでは暗黙の了解ができていた。だから会の運営メンバーは、外の人が入れば会の性質がガラリと変わってしまうと判断したのだ。そんなわけで、どんな理由であれ、本人以外の人の参加は望ましくなかった。
■「誰を招かないか」で伝わるメッセージ
数年後、ゲイのメンバーは公にカミングアウトして、同性愛者の権利向上に関わる仕事で活躍している。「ビーチに戻る会」の仲間たちは、その彼に安全で自由な居場所を与え、見守り続けていたのだ。当時、わたしは恋人でさえ連れてこられないというのは厳しすぎではと思っていたが、いまになってみると呼ばなくて正解だったとわかる。新しいメンバーを入れれば、それまでの絶対的な安心感が損なわれていたはずだ。外の人を入れなかったからこそ、みんながありのままの姿でひとときを過ごすことができたのだ。
この件を思い返して、はっきりとわかったのは、はじめから明確な目的が掲げられていない集まりは、あとになって誰を入れるか入れないかの問題で揉めることになるということだ。「誰を招かないか」を考えれば、目的があぶり出される。熟慮の上で招待者を限定することで、集まりが特別なものになることも多い。「誰を招かないか」は、この集まりが一体どんな会なのかを参加者に伝えるメッセージにもなるのだ。
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MITで組織デザイン、ハーバード大学ケネディスクールで公共政策、バージニア大学で政治・社会思想を学ぶ。15年以上、人種問題や紛争解決など複雑な対話のファシリテーションを行ってきた。著書『最高の集い方(The Art of Gathering)』は、2018年にアマゾン、フィナンシャルタイムズなどでベストビジネスブックオブザイヤーに選ばれた。世界経済フォーラムのグローバルアジェンダ委員会のメンバー。TEDメインステージのスピーカーでもあり、TEDxの動画の再生回数は100万回以上。ニューヨーク在住
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(プロフェショナルファシリテーター/戦略アドバイザー プリヤ・パーカー)
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