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「日本の医学部」を選ばなかった女子大生の事情

プレジデントオンライン / 2019年10月28日 6時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/anyaberkut

日本の医学部ではなく、東欧の医学部に進学する日本人が増えている。ハンガリーのセンメルワイス大学に通う吉田いづみさんもその一人だ。最大の魅力は学費の安さ。日本の私大医学部は6年間で2000万円以上が普通だが、ハンガリーは6年間で1000万円程度。一体どんな大学なのか。吉田さんに聞いた――。

■物心ついた時から「医師になりたい」

私はハンガリーのセンメルワイス大学医学部に通う5年生です。現在、ドイツでの就職を目指し、病院実習とドイツ語の勉強に励んでいます。なぜハンガリーで医師を目指しているのか。その経緯をお話しします。

私は心室中隔欠損症という先天性心疾患を持って産まれてきました。病気は生後10カ月の時に手術をして根治したのですが、病院生活が長かったせいか、物心ついた時には「医師になりたい」という夢がありました。また祖母の家が長崎大学医学部の近くにあったため、幼い頃から「私はここに行って医者になるんだ」とばかり思い込んでいました。

父は会社員で母は書道教室の先生をしており、私は3人兄妹の真ん中として育ちました。決して裕福ではありませんでしたが、両親は常に私たち兄妹3人のやりたいことを最優先にしてくれました。習い事もそろばんや剣道、水泳、バスケなど多くのことを経験させてもらいました。

高校受験の時には、都内の進学校を目指して3年間進学塾に通いましたが、思うようにいかず、医学部受験とは程遠い千葉の公立高校に進学しました。その高校では大学受験をする人は多くなく、環境に流されて成績は落ちる一方でした。医学部どころか、早慶進学も難しいほどだったのです。

■「海外の人と関わる」×「医師を目指す」

そんな高校3年の春、私の地元である浦安市の姉妹都市アメリカ・オーランドから来たアメリカ人数名に、東京を案内する機会に恵まれました。通訳付きでしたが初めて海外の人とコミュニケーションを取り、文化の違う人と知り合うことの楽しさを実感しました。医師になることを半ば諦めていた私は、海外の人と関わる仕事に興味を持ち、国際観光学部のある大学への進学を目指すことにしました。

しかしその年の冬、私は体調を崩して大学受験を断念。浪人を決意しました。「もう1年勉強できる期間がある」と、幼い頃から目指していた医学部への進学を夢見ましたが、両親からは「医学部に行くなら国公立、または(実家から通えて当時私大で学費が一番安かった)順天堂ならいいよ」と言われていました。

私の兄は、千葉でトップの進学校に通い、1年間浪人して毎日必死に勉強しながらも、国公立医学部には届きませんでした。その姿を間近で見ていたため、国公立医学部の進学にはあまり自信がありませんでした。

そこで、「海外の人と触れ合うことと医師になること、両方ができるところはないのか」と考え始めました。必死に毎日インターネットで「海外 医学部」などと検索し、アメリカやイギリスの医学部に関する情報を調べましたが、メディカルスクールの前に4年制大学に行かなければならず、ほぼオール5を取る必要があること、学費が日本の私大並みに高いこと、そして学生はほぼ全員ネーティブで、現地の人が多いとわかりました。

■高校卒業から3カ月後にハンガリーへ旅立つ

それでも調べ続けていたところ、ハンガリーの医学部へ学生を斡旋している団体「ハンガリー医科大学事務局(HMU)」のサイトを見つけ、東欧の医学部を知りました。東欧の医学部には、外国人を対象に英語で医学を学ぶ「インターナショナルコース」があります。世界中から学生が集まって学ぶことに魅力を感じ、「これだ!」と決めました。

ブルガリアやポーランドの医学部も見つけましたが、当時どの東欧医学部からも日本人卒業生は出ておらず、日本人が日本に帰って医師として働けるのかはわかりませんでした。そのため、日本人が多く進学しているハンガリーを選択しました。

私は取り寄せた資料を見せて、両親に相談しました。なんでもチャレンジすることが大好きな父はすぐに後押ししてくれましたが、母は海外にすら行ったことがない私を心配し、とても不安そうな顔をしていたのを今でも覚えています。何度も家族会議を繰り返し、高校卒業から3カ月後の2013年6月、私はハンガリーへと旅立ちました。

■現地の予備コースに約1年通い、医学部を受験

現地では英語の文法や読解、会話力を学ぶための英語コースに3カ月間、医学部入試に備えるために生物や化学、そして医療英語を勉強する予備コースに約1年間通いました。

英語コースは45万円、予備コースは75万円(当時の為替1ユーロ:130円で計算)程で、日本の大手予備校と同等か少し高い程度でしょうか。また、予備コースの内容は、日本で生物・化学を履修していた人にとっては簡単だったと後から聞きましたが、高校理科をきちんと勉強したことがない私には毎日の予習復習が欠かせませんでした。

そして医学部入学試験。筆記試験と口頭試験があり、筆記試験では一般英語の知識を中心に医療英語や生物・化学も少々、そして口頭試験ではきちんと英語で会話ができるかを問われているようでした。試験官の先生からは「どうしてこの大学にしたの?」「ここ落ちたらどうする?」などの質問をされましたが、終始アットホームな雰囲気でした。

そして入試の約一週間後に合格通知を受け取り、2014年9月に現在在籍するセンメルワイス大学医学部に入学しました。

■学費と生活費を合わせて年間300万円程度

ハンガリーには4つの国立大学医学部があり、私の通うセンメルワイス大学は首都ブダペストにあります。

センメルワイス大学にはハンガリー語、ドイツ語、そして英語の3コースがあり、英語コースにはノルウェー、イスラエル、スウェーデン、イラン、アメリカ、スペイン、カナダ、ギリシャ、日本、キプロスなど世界各国から学生が集まっています。ハンガリーの医学部では、ハンガリー語コースは無料で提供されており、英語コースとドイツ語コースからの外貨で学校を経営しているそうです。

一番物価が高く、学費も高いと言われている首都でも、学費は年間170~180万円、生活費は月10万円程度。年間約300万円でまかなえます。

ハンガリーの医学部は日本と同じく、高校を卒業して直接医学部に進学し、6年間の教育のうち2年で基礎医学、残り4年で臨床医学を学びます。特徴的なのは、臨床医学に力を入れていることです。座学は全て5年次までに終わらせ、6年次は丸1年、各科をローテーションで研修するカリキュラムとなっています。

その他にも、1年終了時には看護研修、3年では内科研修、4年では外科研修が1カ月ずつ必須となっています。もちろん、病院に来る患者さんはほとんどがハンガリー人なので、問診や診察ができる程度のハンガリー語も学びます。

■1/3は強制退学、1/3は留年、1/3がストレートで卒業

そんな「入るのも簡単、学費も安い」東欧の医学部ですが、実は入ってからが大変で、「ひと学年の1/3は強制退学、1/3は留年して卒業、そしてたった1/3がストレートで卒業できる」と言われています。私も入学式の次の日から初めの2年間は勉強漬けの毎日でした。入学した学生の70%程度が留年せずに卒業する日本の大学医学部とは、大きく状況が異なります。

また、大学卒業後に日本の医師国家試験を受験するためには、帰国後に厚生労働省への書類申請と日本語診療能力調査の両方を通過することが条件です。並行して、日本語で医学を勉強しなおさなければなりません。そのため、将来日本で働くことを希望する学生は、日本の病院の様子を見るために、在学中の研修を日本で行う人が多いです。ハンガリーの大学では、進級要件に学年ごとの必須研修があります。それは日本の病院で行うこともでき、つくば記念病院、岡山大学、順天堂、慶應、獨協医科大、国立国際センターが受け入れ先として指定されています。

また、国家試験対策としては、つくば記念病院や岡山大学が、卒業後の8月から2月の試験までの半年間、対策プログラムを実施しています。予備校に通って準備をする人もいます。私もどちらかを選ぶ予定です。

ただ、それでも日本の医師国家試験に合格できるとは限りません。ハンガリーの医学部卒業生の合格率は2017年度が56.5%、2018年度は68%でした。

決して平坦な道のりではありませんが、世界中から集う学生とヨーロッパで医学を学ぶことで、日本では学べない「多様性」を体験できます。これは自分の視野を広げ、将来、日本だけでなく世界の医療の貢献になると信じています。まだ学生身分の私ですが、今できることを精一杯やり、今後につなげていきたいと思っています。

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吉田 いづみ(よしだ・いづみ)
センメルワイス大学 学生
1994年福岡県生まれ、千葉県浦安市育ち。高校を卒業後、ハンガリー国立医学大学への留学を決意し、2013年6月に単身でハンガリーへ。1年間のPre-medical schoolを経て、現在Semmelweis大学医学部に在学中。

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(センメルワイス大学 学生 吉田 いづみ)

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