ラグビーW杯南ア戦「日本に分あり」の数的根拠
プレジデントオンライン / 2019年10月18日 17時15分
※本稿は、本川裕ブログ「社会実情データ図録」の記事の一部を再編集したのものです。
■ラグビー日本の次の相手・南アフリカ「身長・体重」全データ分析
2019年9月20日から日本で開催され、熱戦が繰り広げられているラグビーのワールドカップ(W杯)日本大会。4年に1度のラグビーの祭典は、10月19日から8強が激突する決勝トーナメントに移る。
日本が準々決勝で対戦するのは、強豪・南アフリカ。格上だが、予選で4連勝と勢いに乗る日本にも勝機はある。決戦を前に、統計データ分析家の視点から、予選リーグの戦いぶりを簡単におさらいしたい。
予選リーグにおいて、日本代表は初戦のロシア戦で勝利したばかりでなく、2戦目においては本大会開幕時に世界ランキング1位だったアイルランドを撃破。大方の予想を裏切って、大金星をあげた。第3戦のサモア戦も4トライを決め、勝ち点5を獲得した。
そうして迎えたのが最終戦のスコットランド戦だった。日本にとって因縁の相手である。2015年の前回大会で日本は予選の初戦、南アフリカ戦でまさかのジャイアントキリング(大番狂わせ)を果たしたものの、このスコットランドに完敗したことでベスト8を逃した。
しかし、今大会ではその宿敵スコットランドに28-21で勝利し、目標であった決勝トーナメント進出を達成した。リーチ・マイケル主将は「スコットランドをボコりたい」と宣言していたが、見事に有言実行した。
4戦全勝でA組を首位通過したことで、10月20日の準々決勝はD組2位の南アフリカとなった。これまた4年前の因縁の対戦相手である。
■“Wフェラーリ”を筆頭とする中軽量選手のすばしこさで勝つ
これまでの試合を見ていると、海外出身選手を多く抱えるとはいえ、日本代表とほかのチームとの間には、依然として体格差があるように感じる。南アフリカとの体格差を各選手の降順の分布で比較すると、日本の平均身長が183cmなのに対して、南アフリカは186cmと差は1.6%。一方、平均体重は日本100kgに対して南アフリカ103kgで差は3.0%超であり、総じていえば体格差は2~3%程度だと考えられる。
後述するように、こうした平均値での体格差は対スコットランドとほぼ同等である。ただし南アフリカの場合、大きい選手はグッと大きく、中位以下の選手は日本とあまり変わらないという体格分布のメリハリが違う。
体重では中位以下の選手は南アフリカのほうが軽い場合が多い。つまり、重量フォワードのぶつかりあいでは南アフリカが優勢である一方で、中軽量選手の当たり負けしないすばしこさでは互角以上ということなのである。
“ダブルフェラーリ”の異名を持つウイング選手の松島幸太朗や福岡堅樹の足の速さや、外国メディアから「サーカスのようだ」と形容される華麗なオフロードパス(タックルを受け倒れながらも片手でボールパス)はまさにそのすばしこさの面目躍如だろう。
■日本代表には「高くて重い」相手を撃破してきた実績がある
ちなみに、予選で戦ったスコットランドとの体格差を示すグラフを見てみると、平均身長は日本183cmに対して、スコットランド187cmと差は2.2%超である。一方、平均体重は日本100kgに対してスコットランド103kgと差は3.0%超であり、対南アフリカと同じように体格差は2~3%だと考えられる。だが身長の分布では概してスコットランドのほうが有利だった。
ついでに3戦目の相手、サモアとの体格差も比較してみた。平均身長は日本183cmに対して、サモア186cmと差は1.6%超にすぎないが、平均体重は日本100kgに対してサモア106kgと差は6.0%超であり、特に体重において体格差が大きかったと言えよう。
そうしたハンデを乗り越え、ベスト8を勝ち取った日本のさらなる進撃はあるのか。前回大会に続いてW杯2回優勝の実績を持つ南アフリカを倒すことができるのか。「大一番」の戦況については、スポーツライターの相沢光一氏に分析を譲りたい。
■南アフリカに勝つための「条件」(解説:相沢光一氏)
出場登録選手31人を身長・体重ともに上から順番に示した折れ線グラフを見ると、上位数人以外はほとんど差がない。体重に関しては、中位はむしろ日本選手のほうが上まわっているほどだ。外国出身選手が半数近く含まれているとはいえ、日本は世界標準に大型化されたチームになったといえる。
ただし、上位の選手に見られる明らかな体格差が、優勝を狙う強豪とチャレンジャーの差ともいえる。
まず身長だ。データを集計・分析した本川氏は「南アフリカの場合、大きい選手はグッと大きく、中位以下の選手は日本とあまり変わらないという体格分布のメリハリが違う」と書いているが、このメリハリが強豪の証しなのだ。
ラグビーではフィールドに立つ15人全員が高身長である必要はない。ゲームの局面で高さがものをいうのはラインアウト(※)の時。マイボールラインアウトを確実に確保することが、ゲームを優位に進める必須条件だが、極端にいえば、スローインされたボールを主に受ける役割のロック(背番号4と5のポジション)2人の身長が高ければいいのだ。
※タッチラインからボールを5m以上投げ込んで、2列に並んだ各チームのプレーヤーがボールを奪い合う。
南アフリカはチームに登録されているロックの選手4人のうち3人が2m超で、残る1人も198cm。日本は最長身のトンプソン・ルークが196cmで、ロック陣を比較すると10cmほどの差がある。
ラインアウトの時、ボールの受け手の選手の体を、前後にいる選手が支えるように高く持ち上げるようにしている。このプレーは「リフティング」と呼ばれることがあるが、ルールとしてはジャンプした受け手の体が落ちないように支えているという解釈で、サポーティングが正しい。
このラインアウトでは当然受け手の身長が高いほうが有利だ。サインプレーがある上に、高身長の選手を高々と持ち上げる。身長2m超の選手が1m以上持ち上げられ、さらに手を伸ばせば最高到達点は4m近くになる。高身長のロックがそろう南アフリカのマイボールラインアウトのボール獲得率はほぼ100%といっていい。
一方、受け手の身長が10cm近く低い日本はもしサインを読まれてしまうとボールを奪われる可能性が出てくる。実際、スコットランド戦では1回、マイボールラインアウトの獲得を失敗している。ロックの身長差は精神的なハンデになることもあるのだ。南アフリカ戦でも、このラインアウトの攻防が勝敗を左右する可能性が高い。
■重量FWのチームにもスクラムは負けていない
では、体重差はどう影響するだろうか。
スクラムを組むフォワード第1列(背番号1~3)と第2列(4~7)を平均すると南アフリカが日本を3kgほど上まわっている。スクラムに関しては、アイルランドやスコットランド、そしてパワー自慢のサモアにも負けなかったように、南アフリカとも対等に渡り合えるだろう。
「スクラム番長」と呼ばれるほど理論と指導力に優れる、日本代表の長谷川慎コーチに鍛えられたスクラムの安定感は体重差を感じさせないものがある。もちろん、南アフリカは巨漢フォワードゆえ、そのアタックに手こずる可能性はある。
■リーチ・マイケル主将「怖いくらいに強くなっている」
W杯が開幕する2週間ほど前の9月6日、日本はこの南アフリカと強化試合を行い、7-41で敗れた。もちろん、この結果を準々決勝に結びつけて考える必要はない。W杯への調整の意味合いのある強化試合に臨んだチームと、グループリーグを4連勝した今のチームとでは勢いも気持ちの入り方も異なるからだ。
ただ、この強化試合を見て気になったことがあった。
個のパワーの差だ。象徴的だったのはタックル。南アフリカの選手は日本選手を1人で止めることが多かったのに対し、日本は2人でタックルに入っても止め切れていなかった。2人がかりで1人を止める「ダブルタックル」は日本の守備の代名詞ともいえるが、実際に行うのは大変なプレーだ。数的不利の状況を作ってしまうからだ。
2人がかりで止めても、他の選手にボールをつながれたら、すぐに起き上がり、次のタックルに備えなければならない。数的不利を補いつつダブルタックルをやり続けることは相手の2倍近い運動量が必要になる。
■南アフリカのアタックを持ちこたえたら日本に分がある
世界一過酷といわれる日本代表の練習に耐え、強靭なフィジカルを身につけた選手たちは、グループリーグでもそのハードな役割を当たり前のようにこなし勝利を重ねてきた。個の体格とパワーで勝る南アフリカのアタックを持ちこたえることができたら、この試合、日本に分があるのではないか。
ここまで日本は、アイルランドやスコットランドといった欧州の強豪伝統国を相手に堂々たる戦いぶりを見せてきた。想像を超えた成長を遂げ、リーチ・マイケル主将はスコットランド戦で勝利した翌日の会見で、「怖いくらいに強くなっている」と語った。
またスコットランド戦とは異なり、南アフリカ戦については「相手をボコるより、自分たちにこだわって、細部にこだわって自分たちを出せるかどうか。自分たちにフォーカスが当たっている時は強いと思います」と話した。実力を出し切れば勝てる。そう確信しているのだろう。試合開始は20日19時15分だ。
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統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。
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ライター
1956年生まれ。月刊誌を主に取材・執筆を行ってきた。得意とするジャンルはスポーツ全般、人物インタビュー、ビジネス。著書にアメリカンフットボールのマネジメントをテーマとした『勝利者』などがある。
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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕、ライター 相沢 光一)
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