箕輪厚介「最強チームの本命事業は99%スベる」
プレジデントオンライン / 2019年10月24日 15時15分
■セックスの最中も企画のことを考えられるか
【箕輪】僕、「¥マネーの虎」が死ぬほど好きでした。今回対談が決まって、さっそく栗原さんの『すごい準備』もダウンロードして読みました。どうして「準備」をテーマにしたんですか。ちょっと意外です。
【栗原】最初は「企画術」をイメージしていました。でも、編集者から「企画術は売れない」と言われてね(笑)。とりあえず過去の仕事を振り返ってみたら、企画を考えたり実現するために、自分がものすごく下調べをしたり段取りを組んでいたことに気づきました。たとえば特番が終わると、もうその瞬間から来年の特番を考えはじめている。それで、ああ、企画は「準備」だなと。
【箕輪】僕は段取りをきちんと組むより、むしろ「いまやっちゃおうよ」というタイプです。でも、栗原さんと同じで、頭の中では動き出す前からずっと何か考えています。そういう意味では延々と「準備」しているのかも。
【栗原】ものをつくる人は、コンビニじゃないけど24時間営業でしょう。変な話だけど、ある先輩女性ディレクターは、彼とセックスしている間も企画のことを考えてるって言ってたよ。それを聞いて、絶対にディレクターとは結婚したくないと思ったけど……(苦笑)。
■妻と食事中にクソリプ対応で「あなたはサイコパス」
【箕輪】僕もいつも同時並行で考えてます。先日も妻と外食している間、ツイッターで丸山穂高に名前を出されたことで絡んできたツイッターのバカに「うるせえ、死ね」とかリプし続けていました。帰ってからそれを知った妻から「あの時スマホで誰かと喧嘩(けんか)してたなんてサイコパス」とあきれられましたが、その他にも企画のことをぼんやり考えています(笑)。ぜんぶ100%じゃないけど、いつも10個くらいスイッチがゆるく入っている状態です。
【栗原】サイコパスと思われたら、逆に楽だよね。まわりも「あいつは仕方ない」と許してくれる(笑)。
【箕輪】たしかに失礼だと怒られることはあまりないかも。仮に誰かから怒られても、そもそも怒られてる自分に100%集中してないから、気にならないんですよね。肉体はここにあるけれど、幽体離脱して、怒られてる自分を客観的に見ていたり、完全に別のこと考えていたり。多動症というか3歳の子供みたいな感じです。
【栗原】そうやってぼんやり考え続けるのも、たしかに「準備」だ。それなしには企画が形にならないわけだから。
【箕輪】そうですね。ずっと雑にいろいろ考え続けていて、面白い人と会って話したりしていた、なんかの瞬間に一気に集約されて企画になるイメージです。
■判断軸は自分にとって面白く、同世代に刺さるか
【栗原】箕輪君が本をつくるときは、まずテーマ決めから?
【箕輪】先にテーマが決まっていることもありますが、人ありきのことが多いですね。まず面白い人を著者にして、お話しする中でその人のコアな部分を見つけて本にするというパターンです。アカツキというゲーム会社社長の塩田(元規)さんの『ハートドリブン』という本を出したのですが、最初は「仕事と遊びの境界線はない」という企画でした。でも、そういった本は1000冊くらい出ていて、僕自身もワクワクできない。どうしようかともっと掘っていったら、自分の内面と向き合ったり瞑想したりするのが好きという話が出てきて、「これは塩田さんだからこそビジネス文脈で書けるテーマだ」とピンときました。売れるかどうかはわからないけど、やっぱりオリジナルのものをやらないと面白くないです。
【栗原】テレビ番組も同じですよ。僕も自分が面白いと思うか、そして自分と同じ世代の人に刺さるかどうかを基準にコンテンツをつくってます。全年齢を意識した番組は、結局、数字も良くないことが多い。
【箕輪】出版はミリオンセラーでも100万部。基本的にどこまでいってもニッチです。もともとマスじゃないから、僕も特定の誰かに刺さればいいというくらいのイメージでやっています。そもそも僕は会社員で、本が売れても給料が増えるわけではありません。それよりも「箕輪がつくった本は超ヤバい」と言ってくれる人が1人でも増えるほうがうれしいです。
■「¥マネーの虎」は制約から生まれた
【箕輪】栗原さんの「¥マネーの虎」はどうやって生まれたのですか。
【栗原】日本テレビは当時、若手ディレクターのチャンスが少なかったんだよね。そんな中で「進ぬ!電波少年」の土屋(敏男)さんが編成部長になって、土曜深夜1時に枠をつくって企画を募集。そこに応募した企画が「¥マネーの虎」でした。
まずやったのは、他局の研究です。いま考えると、それが『すごい準備』の原点です。土曜の深夜に何を放送しているのかを調べて、それらと同じものはやっても仕方がないなと。それから、予算に制限があるからトーク番組をやろうと考えました。ただ、深夜だから静かで落ち着いた番組にするんじゃなくて、逆に見たら興奮して朝まで寝られないくらいの熱い番組にしたかった。
トークバトルをして負けたら死んでしまうくらいの真剣さが生まれる仕掛けは何か。それでたどり着いたのが「投資」というテーマです。あの番組がヒットしたとき、経済ジャーナリストから「なぜ投資に目をつけたのか」と質問を受けたけど、最初に投資があったわけじゃない。とにかく熱いものがやりたくて、その手段として投資があっただけです。
【箕輪】栗原さんが描くゴールとして、まず「視聴者が眠れなくなるほど興奮すること」があったわけですよね。そして、さまざまな制約がある中で、そこに到達するためにどうすれば良いかを逆算したと。
【栗原】制約があればあるほど、番組はつくりやすいんですよ。制約があれば、あとは逆手に取るしかないから。
■座組がキレイな企画はだいたいスベる
【箕輪】何の制約もない中ですごいことを思いつくのは、天才か頭のおかしい人だけ。ふつうは制約があったほうが、とりかかりやすいですよね。制約をどうにか飛び越えた結果として、見たことないものができあがる。
【栗原】本当にそう。たとえば人気タレントがいて、予算があったら、「うちも使おう」という発想になるじゃない? でも予算という制約があるから、頭をひねって別のことを考える。
【箕輪】ちなみに「¥マネーの虎」の時には、他に何本くらいの応募があったんですか。
【栗原】応募総数700本と聞きました。ふつうは、「これはこうすれば面白くなる」というようにある程度見えている企画が選ばれますが、土屋さんは「これ、どうなっちゃうの?」と先が見えないもののほうを面白がる。たぶん土屋さんじゃなかったら選ばれてなかったんじゃないかな。
【箕輪】たしかに見えてる企画は面白くないです。出版も同じで、座組がキレイな企画はだいたいスベります。業界の大物が持ち込んで、一番いい編集者と、一番いいデザイナーをつけて、というようにオールスターメンバーを集めた企画があって、僕もそこに組み入れられたりしますが、「あ、これはヤバいな」と(笑)。
■つくり手の熱は透けて見える
【栗原】企画がつまらないわけじゃないんだよね?
【箕輪】企画は、いかにも売れそうなんです。でも、ダメですね。それは当事者が不在だから。どんなにマイナーな企画でスタッフのレベルが低くても、熱狂してる奴がたった一人でもいれば、その企画は最終的に熱のこもったものになります。でも、座組がキレイなプロジェクトは、熱を持った人がいない。それが受け手に透けて見えてしまう。
【栗原】別の言い方をすれば、最終的に俺がケツを持つよという人がいないとダメだよね。スベってもいいから熱を持ってやれという人が上にいないと、下は本気でやれない。
【箕輪】そもそも、いかにも売れそうという企画も良くないです。たとえば『ざんねんないきもの事典』がヒットしたら、各社、『ざんねんな~』とか『~辞典』とか追随するじゃないですか。『ざんねんないきもの事典』がヒットしたのは、コンセプトが新しかったのと、やはり当事者だけが苦労の末にたどり着いた何かが込められているから。それ抜きにガワだけマネをしたら、むしろ伝わるものは正反対になってしまう。二番煎じでヒットすればまだ救いがあるけど、それでスベッたら一番ダサいです。
■テレビ新世紀「問われるのは準備力」
【栗原】箕輪君はテレビマンだったらどんな番組をつくりたい?
【箕輪】好きなのは、「¥マネーの虎」「働くおっさん劇場」「水曜日のダウンタウン」。共通点は、男子校で男子たちが熱狂するノリかな。自分がやるのも、ちょっと内輪ノリで、クスクス笑う感じのものがいいですね。
【栗原】いまそういう番組は少ないけど、テレビ業界に2個か3個はあったほうがいいね。みんな同じ番組ばかりじゃつまらないから。
【箕輪】ただ、テレビは難しそうです。本は基本的に著者と編集者で決められますが、テレビは関わる人が多いじゃないですか。それに企画だけじゃなく、視聴率などの数字、出演者のメリットとか、考える要素がむちゃくちゃ多い。妥協しそうな要素がたくさんある中で、ゴールデンでエッジを立たせ切ったものをやるのは並大抵のことじゃないと思います。
【栗原】だいたいみんなくじけるからね。ゴツゴツしたもののほうが面白いけど、いろいろ配慮していくうちに結局、角が取れてしまう。だから僕は、いつも出演者と対等のスタンスで望んでます。まず企画ありきで、「もしあなたが乗れないなら、おりてもいいですよ」という覚悟でやってるんです。
【箕輪】感覚としてはあと5年以内に、エッジが立ち切った番組もマネタイズできるようになると思います。インターネットの発達とは何かというと、子供が言いそうなことがあたりまえに近づくこと。たとえば「部屋が空いているんだから泊ればよくない?」がAirbnbで、「使っていない車があるなら乗ればよくない?」がUberですよね。コンテンツも「こんなに熱狂してる人がいるなら儲かってよくない?」で、テレビCM以外のマネタイズの手段があたりまえになる時代が必ずやって来る。そういう時代になったときに試されるのが、エッジを立たせられる企画力と、それをずっと考え続けられる「準備力」なんでしょうね。(続く)
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幻冬舎・編集者
1985年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2010年双葉社に入社。ネオヒルズとのタイアップ企画『ネオヒルズジャパン』を創刊し3万部を完売。その後も、『たった一人の熱狂』『逆転の仕事論』などの編集を手がける。15年幻冬舎に入社後、NewsPicksと新たな書籍レーベル「NewsPicksBook」を立ち上げ、『多動力』『メモの魔力』『日本再興戦略』など、編集書籍は次々とベストセラーに。18年8月、自身の著書『死ぬこと以外かすり傷』を発売。一方で、自身のオンラインサロン「箕輪編集室」を主宰、メンバーは800名を超える。「スッキリ」「ビートたけしのTVタックル」「5時に夢中!」などのテレビ出演多数。
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日本テレビ 演出・プロデューサー
北海道札幌市出身。93年日本テレビ入社。「さんま&SMAP美女と野獣スペシャル」「伊東家の食卓」「ぐるナイ」「行列のできる法律相談所」「松本人志中居正広VS日本テレビ」「踊る!さんま御殿」「中居正広のザ・大年表」など、数多くのバラエティー番組を手がける。企画・総合演出・プロデュースした『¥マネーの虎』は、日本で放送終了直後、海外へ輸出。現在世界184の国と地域で放送される。著書に『すごい準備 誰でもできるけど、誰もやっていない成功のコツ!』(アスコム)。
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(幻冬舎・編集者 箕輪 厚介、日本テレビ 演出・プロデューサー 栗原 甚 構成=村上 敬)
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