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フェイスブック通貨「リブラ」の致命的な問題点

プレジデントオンライン / 2019年10月18日 18時15分

米ジョージタウン大で講演するフェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)=2019年10月17日、アメリカ・ワシントン - 写真=時事通信フォト

■リブラが世界に受け入れられる条件

米国のSNS大手フェイスブックが発表した、暗号資産 「リブラ」が世界的な関心を集めている。フェイスブックはドルやユーロといった主要国の通貨や国債を裏付けとすることで、リブラの価値は安定させられるとしている。同社は、価値が安定したリブラを用いてSNSユーザーに決済などの金融サービスを提供し、新たな収益源に育てたいと考えているようだ。

しかし、フェイスブックの主張の通りに、リブラが通貨として利用が進むかは不透明だ。まず、一定の信用力がある資産を裏付けしただけで、本当に暗号資産の価値安定が実現できるといえば疑問が残る。

経済の専門家の中には、リブラの価値の安定性に関して懐疑的な見方を示す者が少なくない。また、フェイスブックという一民間企業が中心となって暗号資産の発行・管理を行うことへの懸念を指摘する専門家もいる。

フェイスブックはこうした根本的な指摘に対して、今のところ納得できる回答を示すことができていない。さらに個人の情報保護の観点からもフェイスブックには不安がある。フェイスブックの構想にもとづき、リブラが世界各国に受け入れられ、流通する展開を想定するのは難しい。

通貨として“価値の安定”という根本的な課題

6月18日、フェイスブックはドルやユーロと“一定の”比率で交換可能な暗号資産リブラを開発し、2020年にリブラを用いた金融サービスを開始すると発表。リブラには、価値が一定であることのほか、民間の企業が参加した運営団体が管理を行うといった特徴がある。これは、特定の管理者を置かず、その価値も不安定なビットコインとは対照的だ。

まず、リブラの価値が本当に安定するか否かを考えてみたい。結論を先に述べると、フェイスブックの主張の通りリブラが価値の安定性を実現・維持していくことはかなり難しいと考えられる。

経済学の理論では、基本的に、通貨には“交換の手段”“価値の尺度”“価値の保存”の3つの機能がある。これらの機能が発揮されるためには、通貨の価値が安定していなければならない。例えば、今日1000円で購入できたモノの値段が、翌日5000円に急上昇するなど通貨の価値が大きく変動すると、人々はその通貨を用いて取引や貯蓄などを行うことをためらうだろう。

通貨価値の安定は、経済の安定に直結する問題といえる。そのために各国の中央銀行は、金融政策を通して“物価の安定”と“金融システムの安定”に努めている。また、各国の政府は税収などを通して財政を運営し、国債の信用力を維持・向上しようとしている。中央銀行と政府の政策があるからこそ、円や米ドルといった各国の法定通貨の価値が一定に保たれている。

■具体的な方策は示されているか

これに対して、フェイスブックはドルやユーロなどの通貨や米国債などの資産を裏付けにすれば、リブラの価値を安定させることが可能だと主張している。この発想には初歩的かつ致命的な問題がある。

国債の価格は、需給や経済環境などによって大きく変化する。各国通貨の為替レートは、国債の価格以上に大きく変動する。資産を裏付けにすれば、価値の安定性が実現可能とはいえない。もし、裏付けにしていた国債などの価値(価格)が急落した場合、どうやってリブラの価値を一定に保つか、具体的な方策は示されていない。

リブラを発行・管理するのは民間の組織だ。フェイスブックは民間企業の参加を募り、リブラの発行組織(リブラ協会)を運営しようとしている。政府や中央銀行と異なり、民間企業には予算や収益性などの制約がある。その中で、法定通貨と同等の価値の安定性、取引の安全性などを確立することは、口で言うほど容易なことではないはずだ。

いつ、いかなる状況下であっても、民間企業が必要とされるだけの経営資源を、無尽蔵にリブラにつぎ込むことは難しいだろう。追加の対応が必要になった際、どのように参画企業の利害調整を進め、必要な措置を、的確に、ユーザーが納得できる形で実行できるかも不透明だ。

■フェイスブックの誤算

ドルや円などの法定通貨の発行者は国だ。マネーロンダリングの防止、デジタル・テクノロジーを用いた電子決済インフラの導入などに、政府・中央銀行は必要とされるだけの資源を投じることができる。それが情報セキュリティー面をはじめとする法定通貨の安全性、信頼性を担保している。

また、日米などの政府は預金保険制度を運営し、金融機関が経営破綻した際に預金者が著しい不利益に直面しないよう制度を整備してきた。さらに、中央銀行は“最後の貸し手”として金融システムの守護神としての役割を担っている。主要国の政府や中央銀行は、必要なだけのヒト・モノ・カネを投入し、国民が安心できる通貨制度やシステムを整えることができる。それが通貨の信認を支えている。

足許では、フェイスブックの“誤算”も表面化している。米国の電子決済大手ペイパル、クレジットカード大手のビザやマスターカードなどが、運営組織への加盟見送りを相次いで表明した。

その背景には、経済の専門家に加え、各国の金融当局がリブラへの懸念を表明していることなどが影響しているのだろう。参画企業の減少は、発行体制の不安定化に直結する問題といえ、リブラの信用性そのものに無視できない影響を与えるものとみられる。

■社会的な信用もカギになる

リブラがどう流通していくかも不透明だ。法定通貨には、“強制通用力”がある。強制通用力は、通貨の流通に欠かせない。わが国では、日本銀行法の第46条第2項にて、日本銀行券は法貨として無制限に通用することが定められている。国内での資金の貸借を例に考えると、債務者が円の支払いによって資金の返済を申し出た場合、債権者は受け取りを拒否できない。

これに対して、リブラには強制通用力がない。国が発行し、法律によってその強制通用力が定められていない以上、人々はリブラによる決済を拒否することができる。フェイスブックがリブラの利用をユーザーに勧めたからといって、それが万人に受け入れられるわけではないだろう。

この点に関しては、フェイスブックの社会的な信用も大きく影響するはずだ。2016年の米国大統領選挙戦にて、フェイスブックはロシアの介入を招いた。さらに、2016年春ごろに同社内ではロシアによる介入疑惑が指摘されたにも関わらず、2017年秋まで事実の公表が遅れた。

■リブラの円滑な流通への懸念

これは、基本的なコンプライアンスや内部管理体制の欠如といわざるを得ない。その企業がSNSをプラットフォームに独自の暗号資産を発行し、ユーザーの資産状況などを手に入れる可能性がある。

そう考えるとリブラを用いることに抵抗感、不安を覚える人は少なくはないだろう。強制通用力を持つ法定通貨と同じようにリブラが世界に流通し、ドルや円に比肩する、あるいはそれに置き換わる存在になると想定することは難しい。

また、金融政策の効力維持などを目指し、法定通貨のデジタル化に取り組む国は増えている。経済規模の小さい新興国などでリブラが流通すると、金融政策の効果が発揮されづらくなる恐れもある。仮にリブラのより具体的なコンセプトがまとまったとしても、現時点で考えると、各国政府が本当にその流通を認めるか否かは不透明だろう。

このように、価値の安定性、発行・管理体制、流通の点においてリブラには課題が多い。フェイスブックのコンセプトの通りにリブラが流通する展開は想定しづらい。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)

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