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新型iPhoneケースはなぜ発売初日に買えるのか

プレジデントオンライン / 2019年10月29日 6時15分

米アップルの新型スマートフォンで、トリプルカメラ搭載の「iPhone11 Pro Max」(東京都中央区のソフトバンク銀座)=2019年9月20日 - 写真=時事通信フォト

この数年、新型のiPhoneは発表から10日ほどで発売されている。新型の詳細は発表まで極秘とされているが、発売日には各社からぴったりのケースが出ている。たった10日ほどで作れるとは思えない。一体どういう仕組みなのか。経営コンサルタントの竹内謙礼氏が取材した――。

■なぜ発売前にケースを生産できるのか

9月下旬。知人の経営者と食事をしていた時のこと。

「新しいスマホを買ったんだ」

彼は内ポケットからスマホを取り出した。トリプルレンズを見てiPhone11の「Pro」だとすぐに分かった。

「256GBで12万越えだぜ」

自慢気に語る知人。iPhoneユーザーの私としては、正直、うらやましい。いや、うらやましいを通り越して憎らしいぐらいである。知人は発売直後のiPhoneをよほど見せびらかしたいのか、周囲の人たちに聞こえるような声で「やっぱり新型はいいね」と話を続けた。

「スマホケースも一緒に買い替えたんだ」
「前のケースを使えばいいじゃないか」
「ダメだよ。iPhone11 Proはトリプルレンズだからサイズが合わないんだ」

彼はそう言いながら、ケースを見せてきた。

しかし、そこでふと疑問が湧いてきた。新型のiPhoneが発表されたのが9月11日の午前2時。それから10日ほどの今日、9月22日に、すでに新しいスマホケースを利用者が手に入れている。発売前で手元に実物がなく、サイズも分からないスマホケースを、なぜ、こんなに早く市場に流通させることができるのか。

その疑問を知人にぶつけてみた。

「そんなの知らないよ」

彼はそっけなく答えると、再びiPhone11 Proを突き出してきて、私の古いiPhone7plusと何が違うのかを得々と語り始めた――。

■スマホメーカーがなかなか取材に応じてくれない

なぜ、新型iPhoneと同時にスマホケースも販売できるのか?

なぜ同時にケースも販売できるのか……。※写真はイメージです(写真=iStock.com/byakkaya)

その謎を解くために、スマホケースを取り扱う大手メーカーに問い合わせてみた。しかし、即答で「答えられません」と一言。「そこをなんとか」と粘ってみたものの「お話しできることは何もありません。他のメディアからも同様の取材をよく受けるんですが、全て断っています」と、取り付く島もなかった。

取材先のあてがなくなり困り果てていると「そろそろ私の出番ですね」と、プレジデントオンラインの編集担当I氏が登場。都内にあるスマホグッズのお店を紹介してくれた。

「うちの編集長がiPhone11のケースを買ったお店なんです。ちょっと問い合わせてみてください」

貴重な情報を入手して、早速、取材を申し込んでみる。しかし、何度電話やメールで問い合わせても、担当者不在で折り返しの連絡もなし。

使い物にならない情報を摑ませんじゃねぇよと、I氏に軽いいら立ちを覚えながら、再び振り出しに戻って新たな取材先を探すことにした。

自分の人脈が底をつきかけた頃、ネット業界に詳しい知人が「この人だったら取材を受けてくれるかも」と、スマホケースの卸とネット販売をしている企業を紹介してくれた。

兵庫県姫路市の「松平商会」の奥平哲也さん。「僕の知っている限りの話でよろしければ」と取材を快く引き受けてくれた。本当にありがとうございます。次に自分がiPhone11を購入した際は、必ず奥平さんのお店でスマホケースを買わせていただきます!

■発売前に図面が流出している

早速、新型のiPhoneと同時に、スマホケースが市場に出回る事情を聞いてみた。

「iPhoneを製造している中華系の工場から、発売前のiPhoneの図面が流出しているんですよ。スマホの内部の精密機械の情報ではないので、工場で働いている人たちでも簡単に持ちだせますからね。そういう情報をスマホケースのメーカーが買い取って、発売前に新しいケースを作って流通させているんです」

奥平さんいわく、今回発売されたiPhone11 Proも、発売前には新しいスマホケースが展示会には並んでいたとか。しかし、情報漏えいにうるさそうなアップルから、そう簡単に発売前のスマホの情報を持ちだすことができるのだろうか。

「その辺の事情はよく分からないんですが……おそらく、日本よりも海外の人たちのほうが終身雇用にこだわっていないんだと思います。情報を持ち出してそのまま工場を辞めてしまう人もいると思うし、見つかってクビになっても、次の仕事を探せばいいやと気楽に考えている人も多いと思います」

この話は大いに納得するところである。社員に「いつでも辞めていい」という気持ちがあれば、モラルに反した行動をいつ起こしてもおかしくない。発売がすでに決まっていれば、「スマホのサイズの情報ぐらい持ち出してもいいだろう」と考えてしまう心理状況にも納得がいく。

■「発売1カ月前には手元にサンプル品があった」

さらに詳しい情報は、iPhoneを製造している海外の企業にありそうである。中華系のビジネスであれば、知人の経営者が現地に複数人いる。その中でも雑貨小物の輸入販売に詳しい知人に問い合わせてみたところ、匿名を条件に取材に応じてくれた。

「今のスマホケースの情報はダダ漏れですよ。今回のiPhone11のスマホケースも、発売の1カ月前には僕の手元にサンプル品がありましたからね」

彼が言うには、以前よりもiPhoneの発売前の情報は入りやすくなっているという。しかし、なぜ、情報統制が緩くなったのか。

「数年前まではiPhoneも売れていたから、情報に価値があったんです。でも、今は昔ほど売れていませんからね。情報を漏らすリスクも、もうかる額も減ってしまったから、情報が事前に出回りやすくなったんだと思いますよ」

■iPhone販売台数の公表をやめたアップル

その話を聞いて、iPhoneの現状を調べてみることにした。

米アップル社は2018年の決算発表で、今後、iPhoneなどのハードウエア製品の販売台数の公表を取りやめることを宣言した。販売台数が頭打ちになっていることが露骨にバレてしまうことを避けたかったのだろう。事実、最後の公表となった2018年の7~9月期のiPhoneの販売台数は4688万9000台。前年同期と比較しても横ばいの数字となっている。ドイツ・スタティスタのインフォグラフィックスを見ても、iPhoneの売上高に比べて、販売台数が鈍化していることが分かる。

世界市場でのシェア率に目を向けてみると、さらに事態は深刻だ。CNET Japanの記事(「世界スマホ市場、アップルがファーウェイに抜かれ3位に転落--首位はサムスン」2019年5月7日)によると、2019年第1四半期の世界シェアは、1位サムスン、2位ファーウェイとなり、iPhoneは3位に転落している。

日本市場だけをみると、iPhoneは50%近いシェア(NTTドコモ「ケータイ社会白書2019年版」)があり、好調に売れているように見える。しかし、世界市場でみると、販売台数は鈍化しており、アップル側もそれを承知の上で、販売台数を稼ぐよりも、アプリの販売や音楽等のサブスクリプションビジネスで売上を稼ぐビジネスモデルへとシフトしているのである。

また、香港の新聞「South China Moring Post」は、iPhoneの売上減により、中国のiPhone工場で働く従業員の給与が、2018年末から大幅にカットされたと伝えている(South China Morning Post「Foxconn, a tale of slashed salaries, disappearing benefits and mass resignations as iPhone orders dry up」2019年3月1日)。

ある従業員は、2018年の10月は4000元(約6万7000円)だった給与が11月には3000元(約5万円)に減額したと語っている。シャトルバスの運行が中止になったり、今まで無料だった洗濯サービスが有料になったり、福利厚生面でも削減策が行われているという。

■情報が出回るときの価格は人気のバロメーター

このような情報を目にすると、新型のiPhoneの情報が漏れる事情も理解できる。昔ほどiPhoneに価値がないのであれば、情報の価値も下がる。そうなると秘匿性が下がり、誰でも簡単に情報が持ち出せるようになって、外部の人間でも容易に情報を入手することができるようになってしまう。

情報の価値と商品の価値は常に比例するものである。人気商品であれば、その情報を欲しがる人が増えるので、秘匿性を高めて情報を高く売ろうとする輩は必ず現れる。反面、人気が落ちると情報の価値が下がり、情報を安く売って多くの人に買ってもらおうとする商売がまかり通るようになる。つまり情報が出回る際の価格というのは、その商品の人気のバロメーターになっているといえるのではないか。

私は、今使っているiPhone7plusのバッテリーの持ちがもう少し悪くなったら、新しいiPhone11 Proに買い替えようと思っている。ただ、店頭に行くと、いつも価格に惹かれて型落ちのiPhoneを購入してしまう。人気が低迷しているiPhoneの、さらに型落ちのiPhoneを購入する自分の価値が、そこまで世間では高くないと思うと、なんだか複雑な気持ちになってしまう。

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竹内 謙礼(たけうち・けんれい)
有限会社いろは代表取締役
大企業、中小企業問わず、販促戦略立案、新規事業、起業アドバイスを行う経営コンサルタント。大学卒業後、雑誌編集者を経て観光牧場の企画広報に携わる。現在は雑誌や新聞に連載を持つ傍ら、全国の商工会議所や企業等でセミナー活動を行い、「タケウチ商売繁盛研究会」の主宰として、多くの経営者や起業家に対して低料金の会員制コンサルティング事業を積極的に行っている。著書に『売り上げがドカンとあがるキャッチコピーの作り方』(日本経済新聞社)、『御社のホームページがダメな理由』(中経出版)ほか多数。

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(有限会社いろは代表取締役 竹内 謙礼)

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