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野村克也氏「巨人・原監督の采配はここがダメ」

プレジデントオンライン / 2019年10月22日 11時15分

2019年10月20日、9回、浮かない表情で試合を見守る巨人の原辰徳監督=20日、福岡ヤフオクドーム(写真=時事通信フォト)

プロ野球・読売ジャイアンツの原辰徳監督は、三度目の就任となった今季、チームを5年ぶりのリーグ優勝に導いた。野球評論家の野村克也氏は「原監督には監督の“器”を感じない。選手よりも目立とうとするし、采配をめぐってよく動こうとする」と指摘する——。

※本稿は、野村克也『プロ野球 堕落論』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

■5年ぶりのリーグ優勝に導いたが……

15年シーズン終了後、巨人は「勇退」扱いで原辰徳監督のクビを切った。ところが19年、原政権が復活。しかもヘッドコーチを置かず、編成にも権限を持つというのだから、前回以上の強権監督である。

期待して、現役を引退させてまで監督に据えた高橋由伸が、3年連続して優勝を逸し、責任を取って辞任した。球団は当初、高橋に続投要請をしていたそうだ。それを固辞しての退任だけに、球団にも多少の迷走はあったのかもしれない。しかし、“社内人事”とはいえ、かつて二度もクビを切った監督を呼び戻すとは、球団も監督人事に一貫性がなさ過ぎる。

まず原監督を呼び戻した狙いが、私には分からない。呼び戻すほどの能力があるのなら、二度もクビにしなければよかったのだ。だから余計、その場しのぎの人事に見えてしまう。伝統の巨人軍が、そこまで人材不足とは……。わずか3年で戻ってくる原も、どういう考えなのだろう。

私は正直、原監督に監督らしい“器”を感じていない。それが決定的になったのは15年、原政権下で選手の野球賭博関与が発覚したことだ。

私は監督の仕事の1つを、選手の人間教育だと考えている。原監督は、この時点で指導者歴10年を超えていた。そう思って振り返ると、原監督のもと、そういった内容のミーティングをやっているとは、ついぞ聞いたことがなかった。

■「巨人軍は紳士たれ」の意味とは何か

「巨人軍は紳士たれ」というチーム憲章は、「球界の模範たれ」という意味だ。その憲章を掲げながら、模範たる社会人となるための指導、教育をしていない。目の前の勝ち負けにとらわれて、選手たちの将来にまで考えが及ばなかったのだろう。

今からでも遅くない。原監督は、大先輩・川上哲治さんの監督術を学ぶべきだ。V9はONの存在だけで成した偉業ではなく、川上さんの人間教育の賜物(たまもの)だと私は思う。こんな身近なお手本に倣わない手はないではないか。

川上さんの名言がある。ラジオの解説である日、川上さんが巨人の淡口憲治(あわぐちけんじ)(外野手)について、こう話したのだ。

「この子は親孝行な、いい選手なんですよ」

親孝行と野球の実力に、どう関係があるのか。多くのファンがそう思ったことだろう。だが川上さんの考えは違う。親孝行な選手なら野球に打ち込み、うんと稼いで親をラクにしてやりたいと思うはずだ。だから親孝行な淡口は、一途に野球に取り組んでいる。

そして親孝行な子なら、きっと素直な心の持ち主だろう。コーチや先輩の助言をよく聞き、真っ直ぐに伸びていってくれるだろう。私は川上さんが、そんな思いを「親孝行」の中に込めたのだと考えている。

「親に、感謝の気持ちを忘れない」——これが川上さんの人間教育の出発点なのだと私は思う。先の例でいえば、野球を思う存分やらせ、プロにまで上げてくれた親への感謝の気持ちがあれば、野球賭博などに関わるはずもない。

■“日の当たる道”しか歩んでこなかった不幸

本来なら原監督も、監督を辞めたときがネット裏から野球を見る、またとない勉強のチャンスであったのだ。野球がよく見え、野球の基本を改めて知ることができる。これまで見えなかったものを見れば、新しい気付きが必ずある。やがて自身の野球哲学も練れてくる。私が実際、そうだった。

ところが原監督の場合、巨人に籍を置きながら限られた場しか与えられなかった。チームを背負って野球を見ると、そこにはどうしてもチーム愛という欲が入ってしまう。すると、見えるはずのものも見えなくなってくる。そこは原監督の置かれた立場の不幸だったと思う。

原監督の育ちのよさ、苦労知らずのところも私は気がかりだ。高校から大学、プロに至るまで、常に日の当たるスター街道を歩んできた。下積みらしい下積みをしてこなかった。トップに立つ人間には、下積みがあったほうがいい。持たざる者、できない者の気持ちやつまずきが理解できたほうがいい。

私はといえば京都の田舎で生まれ育ち、高校も甲子園とは無縁の公立校に進んだ。高3の夏、京都府予選でホームランを打ってもスカウトは誰一人見に来ておらず、プロに入りたくても自分でテストを受けに行くしか道はなかった。テストに受かったはよかったが、最初はただのカベ(ブルペンキャッチャー)扱い。1年目のオフには、あわやクビを切られかけた。

プロ2年目はまるっきりの二軍暮らし。しかし、そのときの経験ものちに監督として生きたと思う。あらゆる段階で、ありとあらゆる選手を見ておくことは、確実に指導者の引き出しを増やしてくれる。原監督もせめて二軍コーチか二軍監督という段階を踏んでおくべきだったのではないか。

■なぜ、「グータッチ」をやめない

「グータッチ」なるものが流行(はや)り始めたのは、原監督前政権のときだったか(06~15年)。原監督があのパフォーマンスをするたび、おそらく私は苦虫をかみつぶしたような顔をしていたはずだ。

私の時代、監督のパフォーマンスで思い出すのはロッテ・金田正一監督だ。三塁コーチャーに立ち、片足を高く蹴り上げるような大げさな動きが「カネやんダンス」と呼ばれた。カネやんのそうした言動を楽しみに、球場へやってくるファンもいたそうだ。あれはピッチャー出身ならではの、目立ちたがりのパフォーマンスだと私は思う。

19年の原監督は、「原点回帰」と「のびのび野球」を標榜したそうだ。野球の原点は、のびのび楽しむこと。勝って喜び、負けて悔しがる。自身がそう言った手前、先陣を切って実践しているのか。今やグータッチだけでなく、丸の「丸ポーズ」まで選手と一緒にキャッキャッと加わるようになってしまった。私に言わせれば、あれはパフォーマンスどころかスタンドプレーである。

私は、監督は自軍のプレーに一喜一憂すべきではないと考えている。監督は選手の応援団ではない。監督はどんなときでも冷静に、次の局面を考えておかなければならないのだ。出迎えは、ベンチの選手に任せておけばいい。

■初回無死でクリーンアップにバント指示

名監督と呼ばれたい、大監督と呼ばれたい。そんな気持ちが原采配の随所にあふれている。

とにかく、よく動くのだ。動き過ぎるほど、動く。まあそれで結果的にうまくいけば、「原采配的中!」と大きな見出しになるから、嬉しくてたまらないのだろう。キャッチャーを固定しないのも、その1つ。1ボール後の代打も、4番にバントもそうである。

思えば原監督は、前政権時もよく初回からクリーンアップにバントをさせていた。クリーンアップとは、チームで最も信頼されているバッター3人ではなかったか。あるときは初回、無死一、二塁から3番バッターに送りバントを命じた。何のためのクリーンアップなのか。何のために打順があるのか。

初回にランナーを出したのに、怖いバッターがみすみすアウトを1個献上してくれたなら、相手はむしろ「ありがとう」と言いたくなるだろう。

ピッチャー継投も、早めならすべていいというわけではない。よく言う「早め早めの継投」は、迷信に近いと私は思う。

ピッチャー交代の条件は、①信頼度、②疲労度、③バッターとの相性、④コンディション、⑤リリーフとの力関係、⑥アクシデント。

このどれにも当てはまらない交代は、相手を助けるだけではないか。

■キャンプ期から植え付けてこそ成功する

攻撃でも、それはほぼ変わらない。監督になりたてのころは、ランナーが出て何もしないと監督として無能だと言われはしないかと意識過剰になり、ついつい策を弄して失敗する。

野村克也『プロ野球 堕落論』(宝島社新書)

奇策は、弱者の戦法である。ただ、奇策ばかりを用いてもそれは奇策にならず、正攻法との組み合わせであるからこそ奇策になる。そして奇策を使うタイミングこそ、難しい。奇策を使って失敗すると、チームの勢いを止めることにもなりかねないからだ。

奇策は本番の試合になって、いざ監督の思い付きで行うのではなく、キャンプの時期から監督の考えの1つとして、選手の頭に植え付けておかなければならない。つまり「こんな作戦もある」という選手の想像の範囲内に、それがあるということだ。原監督が以前試した内野5人の変則シフトなど、キャンプでは話にも出ていなかった。まさにその場の思い付きに過ぎなかったのだ。

彼は自身の勝負哲学を、選手にどう話しているのだろう。

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野村 克也(のむら・かつや)
野球評論家
1935年、京都府生まれ。54年、プロ野球の南海に入団。70年からは選手兼任監督。その後、選手としてロッテ、西武に移籍し45歳で現役引退。ヤクルト、阪神、楽天で監督を歴任。野球評論家としても活躍。

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(野球評論家 野村 克也)

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