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ラグビー日本代表は「日当1万円」で十分なのか

プレジデントオンライン / 2019年10月19日 22時45分

スコットランド戦、途中出場で活躍する日本代表の中島イシレリ(中央右)とバルアサエリ愛(同左)=10月13日、横浜国際総合競技場 - 写真=時事通信フォト

ラグビーW杯で4連勝中の日本代表。その日当は約1万円だ。一方、強豪のイングランド代表は1試合当たり2万5000ポンド(約350万円)が支払われているという。金銭的な見返りは望めないにもかかわらず、なぜ日本代表は死力を尽くすのか。著書『国境を越えたスクラム ラグビー日本代表になった外国人選手たち』(中央公論新社)』が話題のノンフィクションライター・山川徹氏が解説する――。

■日当1万円で240日間の合宿をやってきた

「日本代表は100ドル(約1万円)の日当でやっている」

ラグビー日本代表のジェイミー・ジョセフ・ヘッドコーチ(HC)の発言が注目を集めている。

10月11日、スコットランド戦を前にした記者会見で、ジョセフHCはこう述べた。

「(3連勝は)まぐれでもなく、ハードワークの成果だ。今年だけでも240日間の合宿をしてきた。ほとんどの選手が所属企業ではプロでやっているが、代表では日当100ドル(約1万円)でやっているのでアマチュアと言える。他のチームと比較して、どのくらい報酬を得ているか調べてほしい」

スコットランドを破って4連勝を果たした日本代表は、ワールドカップ(W杯)で初めてとなるベスト8に進出した。そのプレーは、ラグビーになじみのない人たちも虜にしつつある。だからこそ、世界一を争う代表チームの選手たちが、わずか1万円の日当で戦っている事実に驚く人が多いのだろう。

■日本代表が躍進を遂げられた根本的な要因とは

もともとラグビーは、金銭や物品の授受を禁じたアマチュアのスポーツだった。しかし海外では1990年代前半からプロ化を進める国が増えはじめた。アマチュアリズム堅持を訴えた日本ラグビー界が、海外の潮流にあらがえきれずにプロ化に踏み切ったのは、2000年のこと。いまの日本代表には、会社員として働きながらプレーする選手と、チームとプロ契約を交わした選手が混在している。

またラグビーはケガのリスクをともなうハードなスポーツであるため、プロスポーツとして収益を上げるのは簡単ではない。選手のコンディションや故障のリスクを考えると、試合は週に1回が限界だ。

プロ化の遅れに加え、興行収入だけでチームを運営する難しさが、日当1万円の要因であり、長年日本のラグビーが抱える課題だった。

では、そうした環境のなか、なぜ日本代表は躍進を遂げ、国民から応援される存在になりえたのか。

そのきっかけのひとつが、2011年、エディ・ジョーンズのHC就任だった。

■「かつては日本代表のプライオリティが低かった」

結果は数字にあらわれている。2011年大会まで日本代表のW杯通算戦績は1勝21敗2分け。しかし2015年の前回大会と、今回大会の予選プール終了までを合わせると、日本代表は7勝1敗。8試合中、1試合しか負けていないのである。

変わったのは戦い方だけではない。重要だったのは「意識改革」だった。日本代表はなぜ存在するのか。なんのために勝つのか……。エディジャパン発足直後、キャプテンに指名された廣瀬俊朗を中心に、五郎丸歩、リーチマイケルらリーダーたちは徹底的に話し合った。廣瀬はこう解説する。

「ぼくたちは、憧れの存在になるために勝ちたいと考えました。日本代表に対する愛着が選手だけでなく、ファンの人たちも含めて低かった気がしていました。ファンの方々も、記憶に残る試合といえば、いついつの早明戦とか、神戸製鋼V7の話題になる。まずは代表を憧れの存在にしなければ、と」

撮影=尾藤能暢
インタビューに応じる元ラグビー日本代表キャプテンの廣瀬俊朗氏。 - 撮影=尾藤能暢

日本代表は、日本ラグビーにかかわるすべての人の憧れであり、目標なのではないかと訝(いぶか)しく思う人もいるだろう。

しかし元日本代表選手に話を聞くと、「かつては日本代表のプライオリティが低かった」という証言が少なくない。

■無報酬のため、代表入りを辞退する選手もいた

山川 徹『国境を越えたスクラム ラグビー日本代表になった外国人選手たち』(中央公論新社)

アマチュア時代、日本代表の試合は無報酬だった。そんな試合でケガをしたくないと考えたのか。負けると分かっている海外の強豪相手に試合したくないと思ったのか。代表入りを辞退する選手や、代表に招集されると明らかにパフォーマンスを落とす選手がいたのである。

廣瀬たちは、そんな空気を変えて、日本代表を「憧れの存在」にするため、地道な取り組みをはじめる。

たとえば、海外遠征で使用したロッカールームは立ち去る前に自分たちで清掃する。あるいは子どもたちからサインを求められたらできるだけ丁寧に書いて「ありがとう」と声をかける。そうした態度がチームを「憧れの存在」とする第一歩だと考えたのだ。

さらに、日本でプレーするすべての選手たちと、日本代表をつなぐ仕掛けをつくった。

■「日本代表は、日本のラグビーにかかわるすべての人の代表なんだ」

2015年のW杯イングランド大会初戦前夜。日本代表が滞在するホテルに、日本のトップリーグ全チームから応援メッセージが届いた。

廣瀬がトップリーグの各チームに依頼して、製作した映像だった。

「あの映像には2つの意味があった」と廣瀬は言う。

「1つ目が日本代表メンバーたちに、日本で戦ってきたトップリーグの選手たちが応援しているとを実感してもらうこと。2つ目が日本に残るトップリーグの選手たちに、自分たちの代表だと感じてもらうこと。自分たち日本代表は、日本のラグビーにかかわるすべての人の代表なんだと実感する必要があったんです」

■その翌日、日本代表は南アフリカに逆転勝利を収めた

ラグビーは「心技体」のうち、心が重要なスポーツと言われる。どんなに大きな相手に対しても、怯(ひる)まずにタックルに行かなくてならない。廣瀬は、日本のラグビーを代表する責任を背負いながらプレーする必要性を感じていたのである。

応援メッセージが紹介された翌日の南アフリカ戦。日本が世界のラグビー史に残る劇的な逆転勝利をあげたのは周知の通りだ。

そうしたカルチャーを共有するいまの日本代表選手のプレーが、報酬の多寡で左右されるとは思えない。だが、今後も世界の強豪と伍していくには、選手やスタッフの待遇改善は不可欠だ。

W杯自国開催を機にラグビー熱はかつてないほどの高まりを見せている。ファンの増加とラグビー人気の定着が、これからの強いラグビー日本代表を支える土台になるのである。

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山川 徹(やまかわ・とおる)
ノンフィクションライター
1977年、山形県生まれ。東北学院大学法学部法律学科卒業後、國學院大学二部文学部史学科に編入。大学在学中からフリーライターとして活動。著書に『国境を越えたスクラム ラグビー日本代表になった外国人選手たち』(中央公論新社)、『カルピスをつくった男 三島海雲』(小学館)、『それでも彼女は生きていく 3・11をきっかけにAV女優となった7人の女の子』(双葉社)などがある。Twitter:@toru52521

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(ノンフィクションライター 山川 徹 写真=時事通信フォト)

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