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前回五輪は10月なのに、なぜ今回は真夏なのか

プレジデントオンライン / 2019年10月22日 6時15分

国際オリンピック委員会のバッハ会長=2019年10月3日、(スイス・ローザンヌ) - 写真=EPA/時事通信フォト

■IOC会長が「札幌に移すことを決めた」と突然発表

「寝耳に水」とはまさにこのことを指すのだろう。東京オリンピックの競技会場変更のことである。

東京都の小池百合子知事は「唐突な発表に驚いた」「青天の霹靂」などと不快感を示し、さらに「涼しいところでというのなら、『北方領土』と声を上げていただければ」との発言もあった。よほど悔しかったのだろう。

10月16日、国際オリンピック委員会(IOC)が突然「マラソンと競歩の会場を札幌に移すことを計画している」と発表。IOC側は変更の理由を「アスリートファーストの猛暑対策」と説明した。

トーマス・バッハ会長は翌17日、カタールの首都ドーハで開かれたオリンピック委員会の会議で「札幌に移すことを決めた」と踏み込んだ発言をした。「決めた」というこの言葉。IOCは日本側の意向をどう考えているのか。

■これまでの東京開催に向けた準備は何だったのか

ドーハでは9月下旬から10月6日まで陸上の世界選手権が開かれていた。マラソンと競歩は夜中に行ったにもかかわらず、高温多湿の悪条件で棄権者が数多く出た。バッハ会長はこの世界選手権を視察していた。そして視察後、すぐにIOCを通じて東京の猛暑に対する不安を日本側に伝えてきたという。

マラソンはオリンピックの華である。IOCの「アスリートファーストの猛暑対策だ」という説明を聞いても、これまで準備を進めてきた日本側からすれば戸惑いは隠さない。無理もない。沙鴎一歩も「何をいまさら」と強く感じた。

■こんなことが続けば、それはもう「札幌五輪」である

真夏の暑さをどう防ぐのか。2013年9月に東京での開催が決まった直後から猛暑対策は指摘され、日本は着々と準備を進めてきた。

マラソン競技は女子が来年8月2日に、男子が翌9日に開催が決まっている。コースは新国立競技場(新宿区)をスタート地点に、銀座や浅草、皇居外苑など東京の名所を走る。暑さ対策として時計の針を1~2時間進めるサマータイムの導入や夜間の開催も検討された。最終的に男女のマラソンは当初よりも1時間半早い午前6時にスタートすることに決まっていた。

残暑の厳しい9月15日には本番とほぼ同じコースで、代表決定レースの「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)」を開催した。暑さのなかで選手たちにどんな影響が出るのかをテストするだけではなく、警備対策やボランティア活動の参考にもした。これまでの東京の努力は水の泡と化す。

東京オリンピックの開催まで10カ月を切った。10月30日から東京でIOCの調整委員会が開かれ、大会組織委員や都、IOCの各メンバーらが集まる。このまま札幌での開催となる可能性が濃厚だ。

しかも、である。改めて北海道警を中心に警備を練り直し、ボランティアも新たに集めなくてはならない。マラソンの発着地点となる新国立競技場の観戦チケットはすでに販売済みだ。マラソンと競歩以外の競技の猛暑対策はどうするのか。変更するのか。次々と札幌とその周辺に変更していくと、これはもう「札幌五輪」である。変更するならもっと早く変えるべきだった。

■55年前の東京五輪は涼しい10月に行われた

東京オリンピックの開催期間は、来年7月24日~8月9日の17日間で、東京パラリンピックは8月25日~9月6日の13日間である。

そもそも猛暑が懸念される真夏での開催自体が大きな誤りだった。55年前(1964年)の東京オリンピックは夏が終わり、秋風が吹き出す10月10日(後に体育の日)から始まった。マラソン競技では、「はだしのアベベ」と呼ばれたエチオピアのアベベ選手が、アスファルトの甲州街道を走り抜けて話題となった。

なぜ、来年の東京五輪は真夏に行われるのか。それは国際オリンピック委員会(IOC)が夏季(7月15日~8月31日)に五輪を開催できる国を募ったからである。

それではなぜ、夏季なのか。

■米テレビ局からの巨額の放映権料が「夏季開催」の背景

夏季がアメフト、バスケットなど人気のある米プロスポーツのオフ期に当たり、この期間だと、IOCが米テレビ局から五輪中継に伴う巨額な放映権料を得やすいからである。オリンピックはこの放映権料に支えられている。米テレビ局が夏の五輪開催を求めれば、IOCはそれに従わざるを得ないのだ。しかも五輪には関係者に「裏金」が流れる構造があるという指摘もある。

今回の札幌への変更についてIOCは「アスリートファースト」を強調するが、実態はそんな生やさしいものではない。その裏では巨額のオリンピックマネーが動いているのだ。

今年1月、プレジデント・オンラインに「JOC竹田会長“贈賄疑惑”は仏の報復なのか」との記事を書いた。東京五輪の招致活動をめぐり、招致委員会の理事長だった竹田恒和・日本オリンピック委員会(JOC)前会長が、仏検察から贈賄関与の疑いで事情聴取など捜査を受けているとの内容だった。

仏検察は、竹田氏が理事長を務めていた東京五輪招致委員会が2013年にシンガポールのコンサルタント会社に2億3000万円を支払い、その一部が東京でのオリンピック開催を決める票の買収に使われたとみている。

竹田氏はコンサルタント会社と契約し、2億3000万円を送金したことは認めてはいる。しかし「契約は一般的なものだ」とその正当性を強調している。ただし、竹田氏が開いた記者会見はわずか7分間で、不正を全面否定する文書を読み上げると、すぐに会場から姿を消してしまった。疑惑に応える姿勢があるとは言いがたい。

■「優先すべきは選手の健康であり、観客の安全」は正論だが…

札幌変更の件は、新聞各紙も社説に取り上げている。

朝日新聞の社説(10月18日付)は「マラソン札幌案 選手の健康優先で臨め」との見出しを掲げ、冒頭からこう指摘する。

「準備を進めてきた関係者には反発や戸惑いがあるだろう。だが優先すべきは選手の健康であり、観客の安全だ」

もちろん反発や戸惑いはある。しかし朝日社説は「走る選手と沿道の観客」を「優先すべきだ」と指摘する。その通りなのだが、あまりにも正論すぎないか。

そのうえ「東京都と組織委員会は提案を受け入れ、札幌市も交えて準備を急いでもらいたい」と主張する。これを読んで小池都知事も苦い顔をしているのに違いない。

■元凶は「放映権料をより多く得ようとする考え」にある

そんな朝日社説も「なぜもっと早くに方針を転換し、調整に取り組んでこなかったのか」との疑問を投げかけ、最後には「今回の出来事を踏まえて、IOCには改めて注文したい」とIOC側に求める。

「夏季五輪の時期を7、8月とする現在のやり方は限界にきている。欧米の人気スポーツが手薄なときに開催し、テレビ局からの放映権料をより多く得ようとする考えを続ける限り、同様の問題が必ず起きる。東京大会の苦難と混迷を教訓に、持続可能な五輪像を探るべきだ」

■産経も朝日新聞と同じ正論を並べているが…

ふだん朝日新聞と正反対の論を展開しているのが産経新聞である。そう期待して10月18日付の社説(主張)をのぞくと、「五輪マラソン 札幌変更もやむをえまい」という見出しである。朝日社説と同じトーンだ。

「寝耳に水の開催都市、東京では小池百合子都知事が『唐突な形で発表され、このような進め方は大きな課題を残す』と動揺を隠さなかったが、IOC幹部らの発言を聞く限り事実上の決定である」
「組織委も受け入れる意向だ。選手の健康問題が前面に打ち出されては強硬な反対もできまい」
「それほどに、昨今の東京の夏は暑い。札幌の夏も暑いが、平均気温も湿度も東京より低めだ。夏のマラソンの開催実績もある」

どれも正論ではある。しかし正論を述べるだけでは、産経新聞の読者としてはおもしろくない。読者は産経社説らしい主張を期待しているのである。

しかしそこは産経社説。釘を刺すことを忘れない。

「ただし、開催都市東京や組織委に諮ることなく、重大な変更案を突然発表したIOCの独善ぶりには不快感が残る。もっとていねいな運営を心がけてほしい」

「IOCの独善」とはよく書いてくれた。IOCは日本側の意向をどう考えているのだろうか。

続けて産経社説は書く。

■「華」であるマラソンを開催都市から外してしまっていいのか

「マラソンは五輪の花形競技である。競歩は世界陸上でも金メダルを獲得した日本の有力種目だ」
「前回東京五輪ではマラソンの円谷幸吉の銅メダルで国立競技場に日の丸が揚がった。新国立競技場のメインポールに日の丸がはためく光景は、国民の夢である」
「五輪が都市開催であることの意義は世界中のさまざまな種目の競技者が一堂に会することにある。そうした理想や夢をないがしろにする変更でもある」

マラソンあってこそのオリンピックである。そのマラソンの競技会場を開催都市の東京から外してしまうことには、やはり納得できない。

「事前に何の相談もなく上意下達で実施を迫るIOCのやり方には、組織委員会として、きちんと抗議すべきである」

IOC主導の強引なやり方は問題である。沙鴎一歩も日本が抗議すべきだと思う。五輪の在り方や運営に悪弊を残してはならない。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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